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第42話 シュナ村からアルディラ王国 「叶わない願いと捕縛」

シュナ村に着いたが、そこに村は無かった……何も無かった。


 何も無いという表現が良いのか悪いのか、タモンの村よりも酷く何の残骸かも分からない。それにタモンの村より先に襲撃されたのだろう、焼け焦げが少し残っているが、草木が芽吹いていて時間がたっている。俺はファイガ達と一緒に歩いて村の跡を見て回るが何の気配もない。全滅し朽ち果てた村の後だけ。 何かに反応を示したハネカが、


【ミツヒ様、周囲に人の気配はありませんが、ダンジョンがあります】

(ダンジョン? ハネカ、どこにある)

【この先の森に入ったところにあります】


 そこに行くと、ダンジョンの入口を岩で隠してカモフラージュしてあった。


(ハネカ、この岩を退かせるか)

【畏まりました、ミツヒ様、グランディック!】


 地面に空いた穴の中に、岩がストンと落ちて入口が出てくる。中に入ると普通のダンジョンと変わりは無いようだが、ハネカが、


【ミツヒ様、この中には魔物が居ません。魔物除けの魔石が点在しています】


 入口の両脇には魔石が奥に向かって等間隔で置いてあり、俺達は魔物の居ない静かなダンジョンを進んで行く。


10階層

 9階層まで特に何事も無く何も出ないダンジョンを進み、10階層まで来て奥に進むとセーフエリアに似た部屋になっていた。中に入ると、中央には岩のテーブルがあり、そのテーブルに台が置いてあり、その台の上に魔石が置いてある。俺はその魔石を手に持つと反応するように淡く光る。魔石があった横には丁度その魔石が入るくらいの窪みがあり、そこに魔石を、カチッ、とハメてみた。すると、台の横から光が投影されて部屋の前方の壁に光があたり、魔石の魔力を通して何かの映像が映る。

その映像には、若いサイルト父さんとティマル母さんの2人の姿がこっちを向いて、俺を見つめるように映っていた……そして、サイルト父さんが、


(やあ、ミツヒ。今、この映像を見ていると言う事は、修行の旅に出て、このシュナ村まで来た、と言う事だね。この魔石はミツヒの血を一滴使ってティマルが練り上げた、ミツヒにだけ反応するように出来ているんだ。だから他の人は見ることが出来ない)


 サイルト父さんが喋って、隣に寄り添うように立っているティマル母さんは、優しい笑顔で手をこっちに向け、胸辺りで小さく振っている。

 自然に涙が溢れた。ボロボロと止めどもなく溢れた。それを察したのか、ファイガ達は静かに伏せている。サイルト父さんは続けて、


(この村は、俺と母さん、ゴルドア、エフィルの4人で作る、獄炎と言うパーティで魔物から救った村なんだ。その後、獄炎を解散してタモンの村に住み、ミツヒ、お前が生まれた。まだミツヒがヨチヨチ歩きの時に村長にお前を預けて再びこの村に来て、将来ミツヒが何かを目指して修行に出たら、この村までは来て欲しいと願い、そして、このダンジョンが修行の最終場所となってくれれば。と此処に作らせてもらった。だからミツヒ、いまこの映像を見たら修行は終わりだ。タモンの村に帰って来なさい、頑張ったな)


 次にティマル母さんが、


(ミツヒ、お疲れ様。見えないけど、ここまで来たと言う事は、大きく立派になったのでしょうね。早く帰って来なさいね。そして、このシュナ村の、このダンジョンで見たことを報告してちょうだい。期待して待ってるわ、ミツヒ)


 そして映像が切れ、暗くなる。

 俺は溢れる涙で何も見えなかった。テーブルの上に座りしばらく泣いた後、何度もその映像を見直した。

 いつしか俺は安心したようにその場で眠ってしまった。深い眠りに。

 夢の中で、映像にあったようにサイルト父さんとティマル母さんがいて、サイルト父さんが、


「なあ、ミツヒ。夢が無くなっても自分で作ればいいじゃないか、今のミツヒは闇に近い気がするよ。まだ間に合うから、本当の自分を取り戻しなさい。そして胸を張って生きて行けばいいよ」


 隣にいるティマル母さんも、


「私のミツヒ、優しいミツヒに戻って、そして一からやり直すのよ、頑張ってね」


 眠りながら一筋の涙がこぼれた。

 気が付いた今、ファイガとユキナに守られるように寄り添いあって寝ている。俺はハネカに、


(ハネカ、俺はどのくらい寝ていた?)

【おはようございます、ミツヒ様。お休みになったのは一晩で、今は朝です】

(そうか、知らないうちに寝てしまったよ)

【ミツヒ様、ご気分は如何でしょうか)

(もう大丈夫だ・・・おかしいな、変な気分だけど不快じゃないよ、むしろ優しい気持ちが戻ってきたような感じがするんだ)

【ミツヒ様は何も変わったようには見えませんが】

(父さんと母さんに、教えられたよ、人には優しくってさ。思い出した。でも王国だけは別だけどね)


 ファイガ達も起きたので皿に肉と魚料理を盛って朝食を食べ、ダンジョンを出ようとするとハネカが、


【ミツヒ様、その魔石はどういたしますか?】

(ここに置いて行くよ、それに、見たくなったらまた来ればいいしね)


 ダンジョンを出て、ハネカに入口を岩で元に戻してもらい、村の残骸も整地してもらった。

 今、俺は3日程かけてアルディラ王国に向かっている。走ったり歩いたり旅らしく、途中2回野宿して魔物が出たら倒し、父さんと母さんの事をゆっくりと胸の中に仕舞いこんだ。

 アルディラ王国が見えて来て門番に証明書を見せて王国に入る時、その門番が慌ただしく奥にいた兵士と話をしていた。俺はギルドに行き受付のマーラさんに、


「こんにちは、マーラさん。報告ですが、シュナ村が壊滅して無くなってましたよ」

「あ、ミツヒさん。え? もう行って来たのですか? 馬車でも10日は掛かると言うのに。それにシュナ村が壊滅ですか? それは大変です、ギルドマスターに」

「後はよろしく、マーラさん、では」

「あ、待ってください、ミツヒさん」


 俺はギルドを出る。すると周囲には10数人の騎士が包囲している。


「お前がミツヒだな。王城まで同行願おう」

「は? 断るよ、何で俺が」

「ルシファンの町のギルドマスター、ドレンガがどうなってもいいのか?」


 俺は肩を落とし、


「何やってるんだか、ドレンガさん。はぁぁ」


 下を向いてため息をつくと、


【叩き潰しますか? ミツヒ様】

(ハネカ、それもいいけど、ちょっと待って様子を見ようよ)

【畏まりました、ミツヒ様】

「これは強制だ、ミツヒ」

「あー、しようがないな、王城に行くよ」


 ユキナ達と一緒に王城に連れていかれる。城の周囲は堀があり正面の橋から入って行く。幾つかの大広間を過ぎ、階段と廊下を通って、所見の間という大広間に通された。

 その中央に行くと、正面の横から縛られているドレンガさんが連れてこられ俺の横に立たされて、申し訳なさそうに、


「ごめんなさいだわね、ミツヒ。先日の討伐を、私の知らない誰かが行ったと報告したでしょう? でも、従魔を連れたミツヒが討伐をしたと密告があってだわね。私も偽証罪でこうなったでしょう?ミツヒが王国に来たら連れてくるように伝令が走っただわね。でも、私は捕まったけど、ミツヒは大丈夫でしょう?」


 ハネカが何かに気づいて、


【ミツヒ様、あの魔法使いかと。柱の陰にいてミツヒ様を見ています】

「そういう事ですか、密告ね。ドレンガさん、無理言って、すみませんね」

「約束は守るだわね、それがギルドマスターでしょう?」

「助けますよ、ドレンガさん。だから今後もギルドマスターですよ」


 すると、ゾロゾロと偉い風の人が入ってきて数段高い所にある高そうな椅子に座り、


「先日のルシファンの町で起こった魔物の襲来を討伐したのはお前だと通報が入ったが、本当か」

「違います、俺じゃない」


 それを聞いて驚愕の顔になるドレンガさんは、


「ミツヒ、何を言うのだわね、それは不味いでしょう」


 偉そうな人が、


「英雄として称えてやろうとしているのに、嘘をついたら偽証罪で捕縛するぞ」

「じゃあ、ドレンガさんはどうなるんですか?」

「牢屋入りだよ。お前も同罪だ」

「知りませんよ、俺に関わらない下さい、そこの偉い人。それと密告した、そこにいる魔法使い。覚えておけよ、俺はお前を狙うからな」


 隠れて見ている魔法使いを睨んだら、ビクッ、と隠れた。そして怒りをあらわにした偉い人が、


「貴様、何様だと思っている!」

「だから王国の人は嫌なんだよ」

「なんだと?」

「ああ、村人です。タモンの村の村人。魔族の襲来で全滅した村の生き残りの村人です。王国は何もしてくれないから、俺も王国には関わらない。だからお前達、王国の人は俺に関わるな。これ以上俺に関わろうとしたらタダじゃ済まさないぞ!」

「な、何を言っている貴様、その者を捕まえろ!」


 と、言い放つが、俺を取り囲んでいる十数人の騎士は動かない、いや動けない。それは俺の右側にいるファイガが従来の大きさになり、冷たい表情で小さい雷をパシッパシッと放ち、左側にいるユキナも従来の大きさになって、冷たい顔をして足元から床をパキパキッと凍らせている。もちろんドレンガさんを避けている。俺は睨みながら、


「おい、偉い人。今すぐ相手してもいいぞ。それとも騎士や兵士を集める時間が欲しいか。だったら早くしろよ、待ってやる。何万でも集めて来い。この場で叩き潰してやるよ」

「な、何を、言っているのか分かっておるのか。お前達、何をしている、早く捕まえろ!」


 騎士は増えて来たがそれでも誰も動かない。すると、奥から張りのある男の声がして、近づいて来て中央の豪華な椅子に座ると、俺を見て、


「ミツヒと言ったか、伝説の魔獣を従い、誰も動けないか。これほどの力があるとは、魔物の討伐は本当の様だな」

「サーレイン国王様、このような者にお顔を出す事はありません」

「いや、かまわん、それよりミツヒ。何故王国に敵対する。先ほどミツヒが述べた、村の壊滅に訳でもあるのか」


 俺は王様に向かって見上げ、


「それもありますが、敵対するつもりはありません、関わりたくないのです。以前、俺の村が壊滅し、王都エヴァンに救済を願いに行ったら門前払いされ、スマルクのギルドマスター経由でもお願いしましたが連絡も何も無く、さらに、たかが村なのか、シュナ村の全滅も知られていない。そして王国に来たらこの扱い。俺は偉い人の考えが分からない。だから、関わりたくないのです。さっきも言ったように、俺にちょっかい出せばタダじゃすまないと言う事です」


 俺は後ろを向き、スロウソードをフンッ!と投げて、密告した魔法使いに刺した。魔法使いは「そんな」と言いながら石化して固まり、スロウソードが飛んで戻ってくる。どよめきの中、偉い人は剣幕で、


「貴様! 城の中で何をしている! 無礼者が!」

「あー? 五月蠅いよ、偉い人。お前も、チョロッ、と石になりたいか?」


 するとサーレイン国王は、


「まあ待て、ミツヒの言い分はわかった。ドレンガもミツヒも釈放し、手出しはさせんよ」


 偉い人は苦虫をつぶしたように、


「サーレイン国王様、それでは示しがつきません」

「無理に連れて来たのはお前達だろう、すまないな、ミツヒ。村の救済は約束しよう。だから王国を嫌わず何かあったら力を貸しては貰えないだろうか」

「もうタモンの村の救済はいりません、全滅して誰もいないのですから。それに魔族や魔物を倒すことは俺の事でもあるから、その事に関しては間接的に手助けにはなっていると思いますよ」

「そうか。よろしく頼む、ミツヒ」

「では、国王、失礼します。ドレンガさん、行きましょう。あー、そこの偉い人、石になった魔法使いは解術すれば生きてるよ、ただし今日中じゃないとダメだけどね」


 ドレンガさんの縄を切って入って来た順を戻り、城を出る。


「ありがとうだわね、ミツヒ。私の為に」

「いいえ、ドレンガさんには、ギルドマスターを頑張ってもらわないといけませんからね」


 すると、ドレンガさんがそっと俺の腕に手を回し、上目づかいをしながら、


「ミツヒは私の事をどう思っているのでしょう?」


 ハネカが、ああやっぱりと言う口調で、


【ああ、来ました、また来ました。潰しましょう、ミツヒ様、あー、もう】

(ちょっと待とうね、ハネカ。興奮しちゃだめだよ)

【では、ミツヒ様、お前のような幼女は趣味じゃない、大嫌いだ、とっとと失せろ。と、言いましょう、さあ早く】

(だから、ちょっと待とうね、この人一応ギルドマスターだからさ)

「ドレンガさんは、いい人。と思っていますよ」

「じゃあ私の恋人になってくれるだわね」

「え? ドレンガさん? 勘違いしていませんか? いい人、と言っただけですよ」

「いい人は、好きな人でしょう?ミツヒ。私もミツヒを好きになってしまったのだわね」


 ゴスロリの格好でこの人通りの中で、俺の腕に手を回して、モジモジクネクネ、して話す事じゃないのに、それにその答えって……天然か?


【もう、叩き潰しましょう、ミツヒ様。捻り潰しましょう】

(いや、ハネカ。勘違いだよ、落ち着いて)

「俺は好きな人でもギルドマスターは恋人にしないことにしているんです。すみません」

「だったらギルドマスターを辞めるだわね」

「約束がちがいますよ、それじゃ、王城に戻って捕まってください」

「ええー、そんなぁ、それでは恋人になれないでしょう?ミツヒー」

「ほら、周りの人もジロジロ見ているから、俺は行きますよ、ではまたルシファンの町で」


 ドレンガさんを置いて逃げる様に離れる。「ああ、待って」とか「改めて」とか聞こえたが無視する。それに、ファイガ達も従来のままで一緒に歩いているから、あちこちから「伝説の」とか「大魔獣」とか注目されているし。後で小さくなってもらおう、うん、そうしよう。

 その日は王国での宿泊は気乗りはしないがアルディラ王国にある、コンジキ亭という宿で1泊する。

部屋に通され、ファイガ達にクリーンを掛け、皿にレッドフィッシュの塩焼きを盛るとガツガツ食べ始める。次にブラックボアのタレ焼肉を盛ると尻尾をブンブンさせて食べる。最後はシルバーフィッシュの素揚げを盛って終了。小さくて食べ辛そうだがハグハグと食べて満足したようだね。

 俺は風呂で癒されてから食堂に行き、オークの焼肉とブラックフィッシュの煮込みを堪能して就寝。


翌日早朝

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