第39話 ルシファンの町
翌日早朝
朝食の卵焼きとパンを食べ、ガイルの宿を出てガンドさんの店に行く。ユキナ達はいつものように入口で伏せて待つ。俺は中に入って、
「おはようございます、ガンドさん」
「ああ、ミツヒか、おは……え? ど、どうした、その髪の毛と眼は」
「ええ、色々あって。ははは」
ガンドさんには、簡単に村の話と魔族の話をした。
「随分と大変だったな、ミツヒ。何と言うか……」
「もう大丈夫ですよ、ガンドさん。で、お願いがあって」
魔石の入った袋をテーブルの上に置き、
「これで魔物除けの何かできませんか? タモンの村の境界にと考えています」
「ああ、それならこの魔石で十分作れる。余りすぎるくらいだ」
「それでは、出来たら村の中心にも何か魔物除けが欲しいですね」
「そうだな、心当たりはあるから少し考えてみるよ」
「お願いします、残りはガンドさんが使ってください」
「いつも悪いな、ミツヒ。ありがたく受け取っておくよ」
ガンドさんの店を出て、ギルドに行く。
ギルドで獣人のシアナさんに、
「ギルドマスターのカルバンさんに会いたいんだけど」
「え? ミ、ミツヒさんですか? その髪と……いえ、失礼しました、少しお待ちください」
シアナさんは奥の部屋に行きすぐに戻ってくると部屋に案内されソファに座る。そしてリザードピープルのカルバンさんが来て、
「やあ、ミツヒ。なんだ、その姿は。何かあったのか?」
「まあ、いろいろあって。で、カルバンさん」
「俺に会いに来るとは、何か聞きたい事でもあるのだろうな」
「ええ、魔族の情報が欲しいのですが」
「魔族……か。単刀直入に聞こう。ミツヒは魔族の情報を何処まで知っている」
「4人の魔族が魔物を従えてどこかの町を襲うくらいです。その4人の名前も知っています」
「そうか、そこまで知っているのなら、教えよう」
カルバンさん曰く、このターナの町から南に行くとルシファンの町があり、その町の周囲の魔物が異常に強くなっていたが、つい先日には、その魔物がまったく出なくなったと言う。もしかしたら魔物が群れで町を襲うのではないか。ともいわれ、あるギルドから内密に流れた報告ではその魔物を従え、殖やしている魔族がいるらしい。
「なるほど、ルシファンの町ですか」
「ああ、ルシファンに行くのか? ミツヒ」
「はい、行きます、カルバンさん」
「じゃあ、ミツヒ。ギルドマスターに会うといいよ、俺の名前を出して魔族の事を聞いてみろ」
「ありがとうございます、では失礼します」
ギルドを出て、ファイガ達と町を歩き、肉料理を買い漁ってターナの町を出る。
澄み渡った空の下、俺はファイガに乗って街道を、ビュンビュン、とひた走る。人や馬車を一瞬ですり抜け走るとルシファンの町が見えてきた。
ルシファンの町では6000人程の人が住んでいる。何の変哲もない町だが商人が多く、各方面各町へ売買する為の問屋街の町だから宿も豊富に並んでいる。町は大きな街道がまっすぐ南に通っていて、その街道を中心に出来ている。王国の北にある町なので人口も多い。
俺は証明書を見せてギルドの場所を聞き、町に入るとギルドに向かって歩く。テテテテッ、と隣にいるユキナが嬉しそうに、
(みつひさまー、このまちはおいしいにおいがしますー)
(そうか? 俺には匂わないけど)
(われは、かわらないです、あるじさま)
(じゃ、露店を見ながら行ってみるか)
露店や商店を見て回ったら、あることに気が付いた。それは肉料理のほかにあるのが魚料理だ。道理でユキナが嬉しそうに言う訳だ。露店の店主に聞いたところ、南に行くと王国があり、さらに南にはラグナ山を越えた先に海があって、そこから魚が運ばれてくる。鮮度が必要なのでこの町までしか入らないと言う。
俺は味見でブラックフィッシュの塩焼きを3つ買って路地裏に行き、そっと皿を出して1匹ずつ入れる。ユキナ達は小さいままだが、味は同じなので食べさせると。
(おいしいです、ああ、おいしいです、ミツヒさま、あぐあぐ)
(われもおいしいです、あるじさま、はぐはぐ)
ブラックフィッシュの塩焼きは30センチ程の大きさで塩を振って程よく焼いてあるシンプルな料理だ。一口食べると脂ののった身がジュワッと染み出て程よい塩味と合っている。アツアツ、モグモグと堪能してじっくり食べた。ユキナが嬉しそうだよ。その後は露店や商店を歩き、魚料理を買い込んだ。
ギルドに着き、中に入ると昼間なのか誰もいないのでファイガ達も一緒に入って行く。受付の横で掃除をしている女性に、
「ギルドマスターに会いたいんだけど」
「あ、いらっしゃいませ、ギルドマスターですか? 予約はありますか?」
「無いけど、ターナの町のカルバンさんの紹介だけど」
「ギルマスのカルバンさんですか、少しお待ちください」
奥の部屋に行くシシーリさん。そう受付に名前が書いてあった。黄色いメイド服に身長180センチ程で肩まで伸ばした茶色い髪、茶目、スタイルも良く整った顔。10人いれば10人が美しいと思う美女だ。
少ししてシシーリさんが戻ってきて、
「お会いになるそうです、奥の部屋でどうぞ」
ファイガ達と一緒に部屋に入ると身長140センチ程で透き通った赤い髪を腰まで伸ばし、ルビーのような赤い目の、ペタンな黒いゴスロリの少女? が立っている。
「私がギルドマスターのドレンガだわね、何を見ているのでしょう? 何処を見てるのだわね。これでも魔法士でしょう?」
「いいえ、別に。俺はミツヒ。村人です」
「強い従魔を従えた村人だわね、それで何が聞きたいのでしょう?」
「魔族の事ですドレンガさん。カルバンさんに聞いてきました」
「ふーん、魔族。ミツヒ、とりあえず座りなさいだわね」
俺とドレンガさんはソファに座り横で伏せるファイガ達。
「このルシファンの町の周辺の魔物が強くなったのは聞いているのでしょう? そして最近はその強い魔物が居なくなったのだわね。これは異常だからルシファンのギルドで依頼を出したのでしょう? そして、冒険者の6人のパーティがギルドの依頼を受けて、調べに行った先で魔物の群れを発見したのだわね。その魔物の中に1人の男が立っているのを確認したのでしょう? でも、見つかって逃げてくるときに4人が犠牲になってしまったのだわね。命からがら帰って来た2人はあまりの恐怖で、魔物がいる場所を思い出せないのだわね。知っていることはルシファンの町から東に出発したことだけでしょう? 今現在、分かっていることはそれだけだわね」
「なるほど、この町の東には何があるのですか?」
「何もない岩がゴロゴロしている荒れ地でしょう? その先は切り立った山だわね」
「じゃあこの町の周辺は魔物がでないのですか」
「ここ数日は現れだしたのでしょう? 何が原因かは知らないだわね。それともう一つあったのでしょう? その冒険者は立っていた男が、赤い日、と言っていたのだわね」
「そうですか、わかりました、ドレンガさん、失礼し」
「ちょっと、ミツヒ。証明書は? 見せなさいでしょう?」
「これです、ドレンガさん」
「ふーん、シオンが作ったのだわね。で、従魔の従来の姿を見せなさいでしょう?」
強気の態度で構えているドレンガさん。
「わかりました」
ファイガ達に指示して、ボフンボフンッ、と大きくなって、冷たい目でドレンガさんを睨む、ユキナとファイガ。そしてドレンガさんを見ると固まって涙目になっている。
「…………な、ふ、ふん。伝説級のいい従魔じゃないだわね」
「はい、フレイムウルフとフロストタイガーです」
「も、もういいわ、従魔を戻していいでしょう?」
「はい、では失礼します、ドレンガさん」
シシーリさんに挨拶して、ギルドを出ようとしたときに4人組の男のパーティが入って来た。全員170センチ程の鎧を装備した冒険者みたいで酔っている。その1人が、
「あー、何だお前、ちびっこい犬と猫なんか連れて、従魔使い気取りか? ははは」
「喧嘩なら買うよ」
「なんだと? ゴルァー!俺とやろうってのか?」
「お前だけじゃないさ、全員掛かってきなよ」
「上等だ、俺を誰だとおも、グエッ」
俺は男の腹を蹴り上げた。そいつは前のめりに倒れる。
「知らんよ、やるなら早くしろよ」
そして、倒れている男の顔面を蹴り上げると、大量の鼻血を出して気絶する。その気絶した男の血まみれの顔面をガンガンと蹴り続けていると、他の3人が一斉に攻撃してきたが軽く避けてガントレットで1人は右腕、1人は左腕、そしてもう1人は右腿に正拳を入れ、
ズドッ! ズドッ! ズドッ!
3人の腕と脚が吹き飛び血が吹き上がる。ファイガ達はそれを見ていながらのんびりと欠伸をして伏せている。男たちは震えながら、
「「「 助けて 」」」
俺は男たちを見下しながら血を吹き出し悶絶している3人を見て、
「知らんよ、もう終わりか?」
その騒動を見て受付のシシーリさんが大慌てでドレンガさんを呼びに行き、連れて来た。
「何をしているのでしょう?! 大怪我しているだわね」
「ああ、ドレンガさん、喧嘩ですよ、単なる喧嘩、ははは。ただ今後の生活は大変になるかな、ははは」
「何が喧嘩でしょう?! このままじゃ死ぬだわね。ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
ドレンガさんの回復魔法で3人の傷が塞がって行き、気絶した男の顔も治っている。3人の男は腕や足が無くなってしまったが、訴えてきて、
「ギルドマスター、こいつが殴りかかって来たんだ」
「「 そうだ、そうだ 」」
「だからどうした、ん?」
俺が近寄ろうとすると、ビクッとする3人。
「ミツヒ、これは説明してもらわないといけないでしょう?」
「知りませんよ。ドレンガさん、そいつらに聞いておけばいいでしょう」
「それでは一方的な話になってミツヒが不利になるだわね」
「いいですよ、構いません。そうなったらこの4人を殺すだけですよ」
と言って、3人を睨み、
「正直に話せば何もしないさ。よろしくな。今後俺にちょっかい出したら死ぬよ」
「ミツヒ、恐喝はいけないことでしょう?」
「そんなことはしません、では失礼します」
「ミツヒ、待ちなさいだわね!」
ドレンガさんの静止を無視してファイガ達とギルドを出る。俺が出て行った後に一部始終を見ていたシシーリさんがドレンガさんに話をした。少し不満そうなハネカは、
【ミツヒ様、あのような下僕どもは殺してしまっても良かったのでは】
(いいんだよ、ハネカ。別に気に食わないんじゃなく、暇つぶしさ)
【そうですか、それならいいのですが】
(よし、今日の宿を探そうか、ハネカ、よろしく)
【ウフフ、畏まりました、ミツヒ様…………ありました。それではこの先にあるキボウ亭が宜しいかと】
歩いて進むとキボウ亭の看板が見えてきた。中に入ると身長150センチ程のボディビルダーのマッチョな体をした金髪の男が短パン、ランニング姿で、
「いらっしゃい、キボウ亭へようこそ。食事かな? 宿かな?」
「後ろの従魔も一緒で宿泊をお願いします。俺はミツヒです」
「俺はバルベランだ、よろしくな。1泊食事付金貨1枚だ。従魔の食事は別だよ」
「はい、1泊をお願いします、バルベランさん」
金貨1枚を支払い部屋に行く。いつものようにファイガ達をクリーンで綺麗にして皿を出す。
まずはさっき買ったブラックフィッシュの塩焼きを盛るとガツガツ食べ始める。特にユキナは、ンンミャイ、ンンミャイ、と食べている。次にブラックボアのステーキを盛るとバクバク食べる。最後はフラットフィッシュの煮物を盛って終了。ハフハフ食べて満足顔だ。俺も煮物を一口食べたら、白身魚に甘辛の味付けでじっくり煮込んであり、その味が染み込んで美味い。アツアツだが美味しく食べた。
ファイガ達はベッドでゴロゴロしているので、俺は風呂に行く。キボウ亭の風呂は木の塀で囲われた広い岩風呂だ。普通の風呂かと思ったらお湯の底から沢山の泡がブクブクと出ている。風呂に浸かると深めでヘリに座れるようになっている。
(ふぅー、気持ちいいな。泡が体に当たってマッサージみたいだな。さすがハネカだ)
【ウフフ、それは何よりです、ミツヒ様】
(あー、いい湯だ、シュワシュワの泡で癒されるよ)
風呂を出て食堂に行き、バルベランさんに声を掛けてテーブル席に座ると料理が出て来た。やはり魚料理だ。レッドフィッシュの素揚げと煮込みが出て来た。素揚げは白身を油でサッと揚げて塩胡椒で味付けしてあり、サクサクした食感に中の白身がモチッとして美味い。煮込みは白身に甘辛の味付けで柔らかく、ホロホロと崩れてこれも美味い。ホクホク美味しく食べた。
部屋に戻って、ファイガ達とじゃれ合い就寝。
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日早朝




