第4話 スマルクの町1 「仕事探し」
やっと少し慣れてきました。
よろしくお願いします。
ギルドに向かう。
スマルクの町
門の入口から左右に分かれて30m程、2本の主要道がまっすぐ平行に南の門まで続いている。そこを軸にして小道がつながり、造りは似ているが、ルータより大きめの街並みが形成されている、規模もルータよりも大きく、町では2000人程が生活している活気のある町。
歩くこと200mを過ぎた所で、右側にギルドの看板があった。入ってみると、造りはルータと同じだが規模は大きい。カウンターも2列になっていて入口の中も広い、ただ昼過ぎなので数人の人がいるだけだった。入って行くと2人の受付嬢がいて、1人と目が合ったのでその人に向かう。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか」
証明書を見せながら、ギルドの買い取りについて聞いてみた。
女性の名はミレアさんと言うらしい。受付のプレートに書いてあった。
ルータと同じ黒のメイド服に白のスカーフが似合っている。
蒼髪が腰まである艶やかなストレート、碧眼の綺麗なお姉さん。カウンターの向こうで座っているのでわからないが、姿勢も良く、とてもいいスタイルだ。特に、正面にある弾けんばかりの、たわわ、なものが目を引く。
(滅びればいいのです)
(棘のある声? え? なに?)
( )
「ミツヒさんは、ギルドの登録はありませんね、依頼は受けられません。ミツヒさんの場合、買取りはギルドのみで、薬草と魔石、その他のドロップ品の買取りをしています。武器屋、防具屋などに売買をする場合は、ギルドに登録しないと重罪になります、気をつけてください。ギルドの登録があると買取りも良くなります。また、ランク分けされて依頼も良くなりますが。登録しますか?」
「ありがとうございます、良くわかりました。いえ、このままでお願いします。それと、宿泊先を探しているのですが、この辺に宿はありますか?」
「畏まりました、ギルドを出て左に行くとすぐに十字路があります。そこを左に進むとマイウ亭、という食事と宿泊が出来きる宿があります。お勧めですよ」
「ありがとうございました、これから行ってみます」
「お気をつけて、ミツヒさん」
ギルドを出て、言われた通りに行ったら、マイウ亭の看板があった。
中に入ると、4.5人掛けのテーブルが10卓ほど並んでいる、結構広いスペースがある。食堂であり、夜は酒場にもなるようだ。奥にカウンターがあってその奥に厨房があった。夕方前なので客は一人もいない。
「こんにちは、宿泊をお願いします」
バタバタ、と出てきたのは、身長190センチはある、腕の太いムキムキした色黒茶髪のおじさんが出てきた。……黄色いエプロンつけて。
「ふーん、黒髪黒瞳か。何泊だ?」
「2泊を、朝晩の食事付で」
「銀貨4枚、裏に井戸と水のシャワーがある。酒類は別だがいいか?」
「お願いします」(まだ酒は飲めないけど)
銀貨4枚を支払って、2階奥の部屋に通してもらった。8畳ほどの部屋にベッドがあり、窓も大きめで明るく快適。2泊にしたのは、2日間で住込みの働き口を探すから。
昼間は、薬草や魔物を獲りに行って鍛錬したいから、夜に働けるところを探す予定。
身の回りを整理し、マイウ亭を出て、ギルドに行く。求人を聞いたら依頼の掲示板の横にあるとのことなので、探してみたが、商店などの昼間の職種ばかりだった。
夕方になるのでマイウ亭に帰り、部屋に戻る。
裏に回って、シャワーで体を洗うと水は冷たいが気持ちがいい。
食堂に入るとテーブルは満席で座れないが、とても賑やか。奥では主人と女将さんが、忙しそうに調理をしている。同じ年くらいの女の子が、出来上がった料理を各テーブルに配っている。銀髪のポニーテール、黒い瞳、目鼻立ちの整った美少女。身長も俺と同じくらいだろう。
女の子が俺に気が付き、手招きをする。俺は、手招きに誘われるように入って行くと。
「いらっしゃい、泊まりの人だね。食事? なら、こっちのカウンターの隅ならいいよ」
「あ、ありがとう」
「私はリリ、よろしくね。奥の2人は、お父さんとお母さん」
「俺は、ミツヒ。よろしく」
「お父さーん、カウンターに食事の人だよー。今、料理出すから待っててね」
待つこと少し、出てきたのはブラックボアのステーキ。サリア亭のステーキとはちょっと違って、ソースが掛かっている。脇には人参とジャガイモ、下には玉ねぎのスライス。いい匂いで、とても食欲をそそる。思わず一口分を切って口にいれると、柔らかく肉汁が出る。おおーっ、美味しい、と、ハグハグ、と食べてしまった。一息ついたところで周囲を見渡すと、各テーブルには冒険者らしい人が、麦酒や果実酒を飲みながら話に花が咲いている。料理を出すのも一段落したのか、厨房も静かになっている。そこへ、1人の女性が近寄って来る。
「いらっしゃいませ、ミツヒさんで良かったかしら」
「はい、ミツヒです。ご馳走様でした、とても美味しくいただきました」
「それは良かったわ、私は女将のエフィル、奥の主人はゴルドア。さっき話をしていたのが娘のリリ。今後ともご贔屓に、よろしくお願いしますね」
女将さんのエフィルさんは、リリと同じ銀髪で、サラッ、と肩まで伸びて、身長は170センチくらい、顔立ちはリリと似ていて綺麗だ。毎日働いているからなのか、スタイルもいい。いやらしい目で見ている訳ではないが、どっちかというと、グラマーかな。
また注文が入ったらしく、中に入って行った。賑やかなのは嫌いではないが、俺は部屋に戻った。
いつものようにベッドに横になると、
(お金に余裕はあるから、明日は町を見て回って職を探そう。しばらく住む場所も見つけないといけないし。とりあえず今日は寝よう)
そのままベッドに潜り込み就寝。
(おやすみ)
( )
翌日朝
いつもより少し遅く起床。
食堂に行くと厨房にはエフィルさんがいたが、他は誰もいない。キョロキョロしていると。
「おはよう、ミツヒさん。他のお客さんは、朝早くに出て行ったわよ。冒険者は朝早くギルドに行って依頼を探すからね」
「おはようございます、エフィルさん。そうですか」
「はい朝食、スクランブルエッグとパンと果汁」
いただきます。と、パクついた。おお、フワッ、とした食感で甘塩が絶妙だ。果汁も酸味があり甘酸っぱい。モグモグ、と美味しくいただきました。
そのまま、マイウ亭を出てギルドに向かい、壁の求人を見たが昨日と同じだった。町中の求人を散策しながら店を見て回る。しばらくすると武器屋があったので、興味本位に陳列してある剣を見ると、
ミスリルソード「大」金貨400枚 オリハルコンソード「小」金貨1600枚
アダマンタイト「入荷未定」
(うわっ、高い! 絶対買えない。それにアダマンタイトって何? すごいの? 俺、知らない)
驚きながらさらに進んでいくと、今度は防具屋があった。ゆっくりと陳列してある防具を見る。でも金額は見ない。
ミスリルの胸当 ミスリルの鎧 オリハルコンの・・・
(目まいがしてきた、具合が悪くなるから他の店に行こう)
さらに歩いて行き違う街区に行くと、商店らしい店が並んでいる。
マジックアイテムが陳列してある店に入ってみて回ると、手もみしながらおじさんが、奥から出てくる。
「いらっしゃい、何か探し物かい」
「いえ、初めて見るのでよくわかりません」
「そうか、それじゃこれなんかどうだ?売れているよ」
身代わりのミサンガ 金貨1枚
「お、安いですね」
(偽物です)
(え、偽物かよっ)
「いや、これはいらないです」
「それじゃ、こっちはどうかな。これも売れて、品切れになりそうだよ」
魔法防御の指輪 金貨1枚
(偽物です)
(これもかー)
( )
( )
(ここにあるもの全部偽物です)
「すみません、帰ります」
店から出ようとしたら後ろで、チッ、と聞こえてきた。
(助かったよ、ありがとう)
( )
その後は、昼も食べずに町を散策したが、着替えの服を買っただけで、収穫は無かった。
帰りにもう一度、ギルドの張り紙を見に行ったがやはり無い。そのときに受付嬢のミレアさんから声をかけられた。
「何か見つかりましたか、ミツヒさん」
「いえ、全然だめでした。明日からまた探します」
「そうですか、残念でしたね。でも、ミツヒさん。求人が無くても直接聞いてみたらどうですか? 例えば、マイウ亭とか、マイウ亭とか」
「え、2度言いました? マイウ亭って。マイウ亭って俺が泊まっている?」
「例えばですよ、例えば。聞いてみてはいかがかな。と思いました」
「そうですか、そういうのもありなんですね。ありがとうございます、帰って聞いてみます」
「例えばですよ、内緒ですよ、ミツヒさん。ダメでしたらすみません」
ギルドを出るとき振り返ったら、ミレアさんが、笑顔で小さく手を振っていた。
夕方も遅くなっていたので、マイウ亭に帰って、一度部屋に戻り、裏のシャワーで体を洗って食堂兼酒場に行く。昨日と同じで賑やかで、厨房も忙しそうだ。カウンターの隅に座ると、リリが俺を見てニコニコしながら、食事1人前カウンター、と注文を入れてくれた。
今日はレッドグリズリーの焼肉とのこと。肉をスライスして何枚も重ねてあり、間には玉ねぎスライスがはさんである。その上からタレがかけてあり、いい匂いも一緒になって食欲が湧く。一口食べると肉にタレが染み込んでいて、肉もとても柔らかくて美味い。間の玉ねぎも良い味出してるし。ガツガツ食べた。昼も抜いていたのでガツガツ食べてしまった。
今は忙しそうなので、一度部屋に戻り、出直すことにする。しかし、出直しても夜の賑わいは遅くまで続いていたので、明日にすることにして就寝。
翌日朝、昨日より遅く、宿泊も2泊目が終わり、荷造りをして下に降りる。エフィルさんに朝食の、卵焼きとパンとミルクを出してもらい、美味しくいただいた。ゴルドアさんは厨房にいて、リリはまだ寝ているようでいない。
俺は、頃合いを見て、カウンターにいるエフィルさんに声をかけた。
「すみません、エフィルさん。ちょっといいですか」
「なんでしょう、ミツヒさん」
「安くてもいいです。夜のお店だけでいいので、ここで働かせてもらえませんか?」
「それは急ね、どうしましょう。父さんっ、ミツヒさんが、うちの酒場で働きたいって言ってるけど」
「……間に合っている、いらねえよ」
「ごめんね、ミツヒさん。主人がああ言ってるし」
「いえ、いいんです。無理にお願いしたのは俺ですから。朝食美味しかったです、ご馳走様でした」
宿泊を延長しようとしたが、ばつが悪いのでやめることにする。
宿を出るため、席を立ち背負い袋を背負っていると、エフィルさんが俺を、マジマジ、と見ながら聞いてきた。
「そういえばミツヒさんは、どこから来たのかしら」
「北にあるタモンの村です。15歳になったので、両親が旅に出てこいと、家を出してもらいました。そしてルータの町からこのスマルクの町へ来ました」
奥で、ガタン、と何かが倒れる音がして、バタバタ、とゴルドアさんが出てきた。
「おまえ、両親の名前は?」
「父さんはサイルト、母さんはティマルです」
エフィルさんが、ハッ、と俺を見て口に手をあてて、あわてて厨房へ入って行った。なんだか嗚咽に似たものが聞こえる。そして、突如ゴルドアさんが俺に向かって、
「今日から酒場で働け、住込み2食付、1日銀貨1枚。部屋は泊まっていた部屋の2つ奥だ」
「え? え? どうしたんですか? いきなり。え?」
「気が変わらないうちに早くしろ。いやならやめておけ。」
「は、はい。よろしくお願いします」
「自分の家のように使っていいから、荷解きして準備が出来たら降りてこい」
「はい」
急な採用で訳がわからずに部屋で荷を解く。この部屋は泊まっていた部屋と同じくらいだが、服の棚や小棚が設置してあり、住むのに十分な部屋。一通り終わったので下に降りると。
ゴルドアさんとエフィルさんがテーブル席の椅子に座って待っている。今はリリも座っている。
……ちょっと怖い。
俺は正面の椅子に座る。
読んでいただいて、ありがとうございます。