第38話 魔族の国 「復讐 」
蹂躙の開始だ
魔族の国は大きさで言うと、王都ぐらいだろうか、そして、城門の先には城があって、後ろに広がる国を守っているように建っている。壊した門をゆっくりと通って俺は、
(ユキナ、ファイガ思う存分に暴れてくれ)
(はい、ミツヒ様、仰せの通りに致します)
(畏まりました、主様、我も仰せの通りに)
(ハネカも好きにやってくれ、頼んだ)
【ウフフ、畏まりました、ミツヒ様】
中から数十体の魔物を従えた魔族が出てくると、
「貴様は何者だ!」
「人だよ、村人」
「何しに、ギャッ!グエッ」
話などする気はない。シールドを出される前に魔剣ギーマサンカで切り倒すと魔剣の威力が発揮され魔族が灰になる。それに反応してユキナとファイガも左右に別れ進んで暴れ始める。
ズドドドドッ! ドガンッ! ゴゥゥゥゥッー! バリバリバリバリーッ!
(( ウッフフフフ、アッハハハハ ))
魔族はファイガ達の攻撃を避けているが魔物はほとんど倒した。俺は避けている魔族に踏み込み、闇魔法の攻撃を気にしないで魔剣ギーマサンカを振るって灰にして倒した。そのまま城を目指して進み中に入ると、また魔族が魔物を多数連れて出て来たところで、
「貴様! 何しに来た」
「だから叩き潰しに来たんだよ、魔族」
「こんな事をして、グギャッ」
踏み込んで魔族を袈裟懸けに切って倒し、魔物はハネカの攻撃魔法エクスプロージョンから始まり、ヘルフレイムやサンダーフレアを連発して、
ドッカーーーーーーーーンッ! ゴァァァッ! ヒュドンヒュドン! ズバババーッ!
200m四方の魔物を一掃して倒し、城壁だろうが塀だろうが建っているものも一緒にバリバリ壊しまくっている。さすがハネカのリミットを外した攻撃魔法は凄いね。
向こうではユキナとファイガも野生に戻ったように、冷たく笑いながら魔物を倒しまくっているし。
ズガンッ! ドヒュッー! バリバリバリーッ! ビューーッ! パキパキパキッ! グシャッ!
(( ウフフフフ、アハハハハ ))
そしてまたハネカも負けてなるかと、
ズゴーッ! ヒュンヒュンヒュンッ! スパパパパパパッー! ゴァーーーッ!
文字通り、魔物が血しぶきをあげながらの、叩き潰すような蹂躙だった。
すると、途中からピタリと魔族と魔物が出てこなくなった。俺はファイガとユキナを戻して、
(ハネカ、どうなっている?)
【魔族の気配はありますが、周囲にはいません。こちらに攻撃して来る気もありません】
城の通路を上に進んで行くと、俺達を招き入れるように扉が開いて行く。そして最上部に着いた。
目の前には大きな両開きの扉があり、俺が開けようととすると、そこでも俺達を招き入れるように扉が勝手に開く。中は大広間になっていて奥の玉座には魔王が豪華なソファに似た椅子に座って俺を見ている、体長3m程のアークデーモン。その横には美しい女性のアークデーモンが立っている。
俺はファイガ達を従えて入って行く。ハネカが、
【叩き潰しますか、ミツヒ様】
(いや、魔王みたいだから、一応話をしてみるか)
魔王らしき魔族に向かって、
「お前が魔王か」
「ああ、その通り、私が魔王だが、お前は何か勘違いをしていないか」
「勘違い? 何が勘違いだ、俺の村を襲っておいて何をいまさら」
「やはり……私達魔族の国はこの数十年は人を襲ったりはしていない」
「それは嘘だ、現に俺は魔族と会った」
「それは、ハグレだ。魔族が人や町を襲わないことに腹を立て、数年前にこの国を出て行った4人の魔族の仕業だよ。魔族の国から止めるように使者を出したが無理だったよ」
「信用できないな、魔王、証拠はあるのか」
「証拠とまではいかないが、魔族の国と人の住む国とは樹海、山、樹海によって閉ざされていたはずだ。本来魔族は人と繋がりを持つことを嫌っているから閉鎖的な国になっているのが現状だ。もし信じてもらえるなら、その4人の魔族を倒してほしい」
「嘘は言っていないか、魔王」
「ああ、本当だ。それに私ではお前に勝てないからな、嘘は言わないさ」
(どうだ、ハネカ、魔王の言っている事は)
【本当の事です、ミツヒ様、嘘は言っていません】
「…………そうか、悪いことをしたな、帰るよ。その4人は俺が倒す」
ファイガ達を連れて玉座に背を向けて歩き出すと、横から女の声がかかる。
「待てっ! タダで帰れると思うなよっ!」
声の方向を見ると、身長160センチ程で艶やかな赤髪が肩まであり、妖艶な赤い目に透き通った白い肌、スタイルも良い美女が睨みながら戦闘スタイルで俺に剣を向けている。すると魔王は、
「止めておけ、リガエン、お前には勝てないよ」
「お父様、このままこの者を返しては魔族の名が泣きます」
「俺の名は、ミツヒだ。やるのか? 俺は構わないよ」
「ダメだ、リガエン。殺されてしまうぞ」
「勝てます、お父様。私が勝ちます」
「んじゃ、来いよ、いつでもいいよ、お嬢ちゃん」
俺は構えもしないで、リガエンを見ると闇魔法で攻撃しながら向かって来た。
「ダークストーム!」
ゴーッ! と俺に放ったが、闇の精霊の加護が俺を守っている。ダークストームの中から出て来た俺に剣で攻撃してきたが、ギリギリで避けて足を掛けると、転んだ。起き上がってまた剣を振って来たが、またギリギリで避けて足を掛け、踏ん張ろうとした背中をトンと押して転ばせる。リガエンは涙目になっても攻撃してきたが、遊ぶように転がし続け、最後は泣きながら、
「えっ、えっ、こんなはずは、うえっ、うえっ、なんで、うえーん」
泣きながら攻撃してきたので、その剣をガントレットで受けて弾き飛ばし、リガエンはペタンと座り込んで泣いている。そこに剣を向けると殺されると思ったのか、ビクッ、となるリガエンに、
「俺は一度、どういう形であれ、シバンに命を救われた。だから、その借りは今返すよ、だからお前は殺さない」
緊張していた魔王が、ホッ、とした表情で、
「助かるよ、ミツヒと言ったか、リガエンは、これでも私の一人娘でな。悪かった」
俺は魔王に向き直って、
「いや、いいさ。なあ、リガエン、一度拾った命は大事にしろよ。ただ、次は容赦しないぞ」
リガエンは何も答えず泣いている。そして俺は、
「そうだ、なあ魔王、その4人は今どこにいる?」
「人の国の近くで魔物を従えているが、今になっては何処にいるか私も知らない。ただその4人の名は、シバン、カバス、ギュンター、レムローサの上位のアークデーモンだ」
「そうか、んじゃあな魔王」
「4人を倒したら来てくれ、いや、いつでもいいぞ。お前たちは歓迎するよ、ミツヒ」
「ああ、道も出来たから考えておく、それと、今日の事は謝らないからな、魔王」
「ああ、構わんよ」
玉座を出て、魔族も魔物も出てこない城を出る。俺達が城を出て行った直後、
「うえーん、くやしいー、うえーん」
「命が助かって良かったな、リガエン。ミツヒもそれなりに訳があって来たのだから仕方がないだろう」
「いいのですか、グス、お父様は魔王なのですよ、グス」
「ミツヒの力を見ていただろう、私よりミツヒは強い」
「確かに強かったのは認めますが」
終始ずっと魔王の隣で黙っていた女王が、
「そうだわ、ミツヒを婿にしてはどう? リガエン」
「え? お母様? なんで? 私が」
すると魔王も同調して、
「結婚するなら自分より強い者だと言っていたが、同じ魔族の中には自分より強い者がいないのだろう。いい相手じゃないか? リガエン」
俺の事を思い出したように、満更でもなさそうに顔を赤くして下を向くリガエンは、
「そ、それは、そうだけど……魔族じゃないし」
女王は、しっかりした表情で、
「ああいう男を虜にするくらいじゃないとダメよ」
「お、お母様」
魔王も、
「私は構わない、寧ろリガエンにはいい相手だと思うよ」
「お父様まで……べ、別にいいですけど……考えてみます」
そして俺は魔族の国を後にして、ルータの町で1泊する。朝、スマルクの町を横目に通り過ぎ王都エヴァンに向かう。途中、王都に近くなってくると人が多くなってくるが気にせずに、ファイガに乗って人や馬車をすり抜けながら進んだ。ただ、町中での騒ぎは嫌なので門の近くでユキナ達に小さくなってもらい町の中に入る。向かった先は王都の城。そして城の門番に、
「偉い人にお願いがあって来たんだけど、どうしたら会えるのかな」
「お前みたいな1人の民に会える訳ないだろう」
「村の救済を求めて来たんだけど」
「ダメだダメだ。だったらギルドにでも頼むんだな」
【今すぐ殺しますか?ミツヒ様】
(俺も、イラッ、ときたけど、止めておこうか。こんなやつ殺してもなんの得にもならないしさ)
俺は王都エヴァンを出てスマルクの町に向かった。スマルクの町のギルドに行って、ギルドマスターのクランさんに会って話をする。クランさんは、
「どうした、ミツヒ。魔族の国に行くのを諦めたのか?」
「いえ、行ってきましたよ、クランさん」
「ほ、本当か? それは、本当にか?」
「はい、魔王に会って話をしてきました」
そして、魔族の国は、今回の村の件は違うと言う事、人と関わりを持たない国だと言う事。他に魔族の国を出た4人の魔族が関わっている事を事細かに話した。
「ふう、凄いな、ミツヒ。凄いことをしたな」
「別に大したことはしていませんが表に出さないでください。それと、王都の城に村の救済をお願いしに行ったら門前払いにされ、ギルドに頼めと言っていたのですが、お願いできますか」
「ああ、王都や王国は貴族だからな、それに国は町の事で一杯で、村の事は目も向けないんだ。でも俺から文書で送ってみるよ」
「よろしくお願いします」
「それでミツヒ、これからどうするんだ?」
「当面の目的は4人の魔族を探し出して殺すことです」
「殺すって。そんなに簡単じゃないぞ、ミツヒ」
「ま、なんとかしますよ、クランさん。失礼します」
マイウ亭に帰ると、カルティさんとティファさんがいて、俺と目を合わさず、何となく俺と距離を置いている。ああ、ゴルドアさんから話を聞いたのだろう。仕方が無いように2人は、
「やあミツヒ、久しぶりだね」
「ミツヒ、久しぶりですね」
「そうですね、お元気そうで」
そのまま2人の前を通り過ぎ厨房の中にいる、ゴルドアさんとエフィルさんに、
「帰ってきました、ゴルドアさん、エフィルさん」
「おう、おかえり、ミツヒ」
振り返るエフィルさんの目が真っ赤になって泣き腫らしたような顔になっている。タモンの村と父さんの話、親友だったティマル母さんの話を聞いたのだろう。でも、気丈にもいつもと変わらないしぐさで、
「大変だったわね、あらミツヒ、聞いていたけど、銀髪も似合ってカッコいいわね、それに赤い眼って好きだわぁ」
「どうも、別にいいですよ、エフィルさん」
興味深そうにゴルドアさんが、
「で、どうだった? 行けたか?」
「はい、詳しい話は、ギルドで一通り話をして来たのでクランさんに聞いてください」
エフィルさんがいつもの笑顔で、
「ウフフ、今日は泊まって行くのでしょ? ミツヒ」
「いえ、エフィルさん、このまま町を出ます。また今度ゆっくりしに来ます」
「あらそう、残念ね、ミツヒは忙しいからね」
ゴルドアさんも、
「気にしなくていいぞ、また何かあったらいつでも帰ってきな」
「はい、そうします、では」
俺はマイウ亭を出ようとしたとき、カルティさんが声を掛けて来て、
「待ってくれ、ミツヒ。少しだけ時間をくれないか」
「何ですか? カルティさん」
「いや、あの……すまない、以前私はミツヒの事を……」
「やめましょう、別に気にしていませんよ」
「わ、私も謝ります、ミツヒ」
「別にいいですよ、ティファさんも。失礼します」
出口で俺はカルティさん達に振り向き、
「一言いいですか。中途半端な気持ちで人を好きにならないように。迷惑です」
俺はユキナ達とマイウ亭を出て行く。その後のマイウ亭で、エフィルさんが嫌見たらしく、
「2人共、本当にいいのね、あとで後悔してもしらないから。ああなってもミツヒは変わらないわよ。あらあら、表面上だけ好きになったのね、残念でした」
「そんなことは無いです、でも、話を聞いて……ミツヒが怖くなりました」
「私もそうです、ティファ姐さん。怖いです」
「まあ、確かに強すぎて怖さは出るかしら、リリも怖くて諦めたみたいだし。残念ね、いい子なのにね、ミツヒ。ゴルドアがいなかったら私が欲しいわ、ウフフ」
それを聞いて焦った表情のゴルドアさんは、
「おいおい、エフィル、それはないだろう」
「あらあら、嘘よ…………半分だけ、ウフフ」
俺はスマルクの町を出てファイガに乗りターナの町に向かった。
ターナの町に着く頃は夕方になっていたので、ガイルの宿に行き、
「今晩は、ケフィルさん、1泊お願いします」
「いらっしゃいませ、え? ミ、ミツヒさん? その髪の色と赤い眼って、どうしたの?」
「ええ、だめですか? ケフィルさん」
「いいえ、似合っていますよ、ミツヒさん、ウフフ」
耳を、ピコピコ、させているケフィルさんに金貨1枚を支払い部屋に行く。ファイガとユキナをハネカにクリーンを掛けてもらい皿を出し、ドードー鳥の香辛料のピリ辛焼肉を皿に盛るとバクバク食べ始める。うみゃいうみゃい、と食べている時にブラウンラビットの塩串焼きを20本ずつ串を抜いて盛ると、ガツガツ食べる。最後はレッドバードの素のから揚げを盛るとアグアグ食べて終了。満足して小さくなりベッドで寛ぐ。俺は風呂に行き、
(ふぅー、久しぶりの風呂だ。やっぱり風呂はいいなぁ。くぁー、いい湯だ)
【これからどうされますか? ミツヒ様】
(ああ、ガンドさんの店に行って、あとは情報収集だな)
【畏まりました、ミツヒ様】
風呂で気持ちよく癒されて、食堂に行きテーブル席に座るとケフィルさんがテヘペロしながら料理を盛ってくる。あ、ボアのタレ焼肉と器に入った生卵。
「今うちの宿で一番人気になってるの」
「良かったですね、ケフィルさん」
俺は、アツアツのボアの焼肉を溶いた生卵にチャプっと付けてモグモグ、美味い、うん、美味い。チャプ、モグモグ、チャプ、モグモグと美味しくいただいた。
食べ終わり部屋に戻ってベッドに横になりファイガ達とじゃれ合い、今日はユキナが積極的で俺にチュッチュ、ウフフとキスして就寝。
【もういいです、猫は嫌いです、もういいです、シクシク】
(ユキナとのスキンシップだよ、ハネカ。おやすみ)
【グス、ごゆっくりお休みください、グス、ミツヒ様】
翌日早朝
サブタイトルに「復讐と和解」としようとしましたが、ネタバレなので消しました。
次回も、よろしくお願いします。




