第35話 スレギナの町からスマルクの町
翌日早朝
ダンジョンの30階層から走り、途中でファイガ達を小さくして影に入れ、ダンジョンの入口付近まで戻って来たのが昼過ぎになった。そしてギルドに行って入口から離れたところでファイガ達を待たせて中に入ると、受付のテスタさんが、
「おかえりなさい、ミツヒさん」
「はい、テスタさん、証明書です」
「登録しました、では奥の部屋へどうぞ」
「え、またですか? テスタさん」
「はい、ミツヒさんが帰って来たら部屋に通すようにと、ギルドマスターに言われていますので」
部屋に通され、ソファに座るとウラカさんが来て、
「おかえり、ミツヒ。で、何階層まで行ったかな」
「あ、はい。8階層まで行って帰ってきました」
「ああそうか。実はな、5階層のセーフエリアから上がって来たパーティは誰もミツヒを見ていないんだが。で、何処で宿泊した? ミツヒ」
「げっ、はぁ、手回しが良いですね、正直に言います、ウラカさん。15階層のセーフエリアです。でも公にはしたくないです」
「すごいな、ミツヒ。それに、15階層にセーフエリアがあったか。なるほどな、これはしばらく此処だけの話にしておくよ。今後はどうする?」
「はい、しばらくスマルクの町に滞在してこのダンジョンで鍛錬をします」
「そうか、それはありがたいな、最深部目指して頑張ってくれ、ミツヒ」
「はい、では失礼します、ウラカさん」
その日からダンジョンでの鍛錬が始まった。
そして数か月後。
28階層
俺はドラゴンの炎と爪攻撃をサッ、ヒョイ、ササッ、スッと必要最小限で躱し続けている。そろそろ頃合いかと間を見てドラゴンの首をセイヤッ! と切断し倒して魔石を拾う。
29階層
メタルドラゴンの炎と雷攻撃も必要最小限で避ける。2本の尾による不規則な攻撃にも、この数か月でメタルドラゴンの攻撃を見切ったようで簡単に避けられる。メタルドラゴンはオリハルコンの剣では倒せないので、魔剣ギーマサンカで首を切断して倒し魔石を拾う。
30階層
鍛錬の中で俺が一番向上した魔物、キングヒュドラ。9つの頭との戦いで判断能力や察知能力が引き上げられた。しばらく攻防を繰り返し最小限で避けて一旦距離を取り、魔剣ギーマサンカを水平に構え居合抜きの動作でセイッ! と振るとシュンッ! ザザザザザザザザザンッ! と一瞬で首が落ちて倒し魔石を拾う。
俺はこのダンジョンの鍛錬で、魔剣ギーマサンカのファイヤーカッターとサンダーカッターの力加減の調整が出来るようになっている。
(これでダンジョンの鍛錬も終わりだな、もうそろそろユキナ達も帰って来るだろう)
【お疲れ様です、ミツヒ様。もう来ます】
俺の鍛錬の時は、ユキナとファイガもいるだけでは可愛そうなので他の階層で遊んでいる。そうするうちにユキナとファイガが戻ってきて、
(ミツヒ様、戻りました。魔石です)
(主様、我も魔石です)
ファイガ達も魔物を倒したら魔石持ってくるようにと、魔石を入れる布の袋を渡してあるので口で銜えて持ってくる。袋の中を見ながら、
(はい、ご苦労様。って、またこんなに沢山……君達はどれだけ強いんだか。よし、帰ろう)
走って戻るとギルドに着く頃は夕方になっている。受付に行きテスタさんに、
「テスタさん、証明書です」
「はい、ミツヒさん、登録しました。お疲れ様でした」
と言いながら受付から出てきて俺の腕に両手を絡ませてくるテスタさんが、
「で、ミツヒさん、どうでしょう」
「だめですよ、テスタさん。だから、腕を絡ませないでください」
「ええぇ? まだダメですかぁー? ミツヒさーん」
「鍛錬している身だからずっとダメです。だから、腕を」
鍛錬でダンジョンに入っているので、ギルドにも行き慣れてきたら、俺がテスタさんに気に入られて、デートをしろと催促されるが断り続けている。当初はギルド内の事なので周囲から「誰だアイツ」とか「許さん」とか聞こえたが、毎回俺がデートを断っているので、今では、またか、と誰も気にしていないんだ。そんなテスタさんが、
「そんなに私に魅力が無いのでしょうか? ミツヒさん、私の事は嫌いですかぁ?」
「いえいえ、お綺麗ですよ、テスタさん。スタイルも良いし」
「でしたらデートしましょうよー、ミツヒさーん」
「テスタさんならもっといい人がいますよ」
テスタさんの腕を解いてギルドを出ると「今度こそ」とか「どうやって」とか聞こえたが気にしないでおこう。
【毎回毎回、あの女も諦めが悪いですね、ミツヒ様】
(まあ、悪い人じゃないからいいじゃないか、ハネカ)
【チョロッ、と燃やしてみたいですね】
ハネカも当初は相当怒っていたが、毎度の事になり呆れているし、今では冗談も出てるよ。
ギルドを出てドランの宿に帰り部屋に行くと、ファイガ達にクリーンを掛けて食事だ。皿を出し、ブラックバードのから揚げタレバージョンを盛るとさっそくバクバク食べ始める。最近はから揚げがお気に入りのようだね。次にドードー鳥の姿焼きを盛るとハグハグと食べる。最後にホワイトラビットの串焼きを20本ずつ串を抜いて盛って終了。美味い美味いと満足したようだ。俺は風呂に行き、浅い風呂に仰向けで寝るように浸かり、まったりと癒される。タップリと堪能し、食堂に行ってテーブル席に座って食事を待つ。するとビクテマさんが、
「はいよ、ミツヒ、今日はこんな感じだ」
「はい、いいですね、ビクテマさん」
出された料理は、レッドボアのアバラ骨回りの肉を骨ごと1本1本にして香辛料で焼いてある。少し食べづらいが、引き締まった肉が食欲を誘い、肉の旨味がぎっしりと付いて、美味い、絶品だ。とても美味しくいただきました。今度ユキナやファイガにも食べさせてあげたいな。
部屋に戻りベッドで小さくなっているファイガ達とじゃれ合い、就寝。もう寝ているユキナ達。
(おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日早朝
俺は食堂に行きパンを食べる。外はサクサク中はモッチリとしたパンの中に、温めた葉物野菜を敷いてアツアツのタレ焼肉を多めに挟んで食べる。この宿で定番食になっているパン。ジューシーな肉と野菜がこのパンの食感に調和され美味い。パクパクと食べた。
ビクテマさんに挨拶して宿を出るとスレギナの門に向かう。ギルドに挨拶しに行っても、いいことが無いから寄らずに門に行き証明書を見せてスレギナの町を出る。
ファイガ達を影に入れ、そしてターナの町へ向かって走り出す。途中のトプの沼では妖精のエレンとエリーナさんに挨拶して通り過ぎ、ターナの町が見えてきた。
ファイガ達を影から出して町に入りガンドさんの店に行く。店に着くとファイガ達は入口の横で伏せて待つ。
「こんにちは、ガンドさん。帰ってきました」
「おお、久しぶりだな、ミツヒ。帰って来たか、どうだった? スレギナの町は」
「ええ、お陰様でいい鍛錬が出来ました。それにガントレットもいい感じに仕上がってます」
「それは良かった。何か不具合があったら言ってくれ」
「はい、それとこれをガンドさんに」
袋から魔石を十数個出してテーブルに置くと、
「差し上げます、ガンドさん。良かったら使ってください」
「うおっ! 凄い魔石ばかりじゃないか。いくら貴重な魔石が欲しいとはいえ、貰えないよミツヒ」
「俺が持ってても宝の持ち腐れですから」
「うーん、よし、これでミツヒの武器を考えるよ。その報酬として何個か魔石を貰う」
「それで結構です、武器はいつでもいいですよ」
「悪いな、ミツヒ。これで俺も心置きなく魔石でいい武器を作れる。礼を言う、ありがとう」
「いいんですよ、また来ます、ガンドさん」
ガンドさんの店を出てから、ターナの町を後にして軽快に爽快に走っている。途中王都エヴァンを横目に通り過ぎ、夕方にはスマルクの町に帰って来た。町に入り久しぶりのマイウ亭に向かう。
マイウ亭の入口でユキナ達を待たせて中に入り、厨房にいる2人に向かって、
「帰ってきました、ゴルドアさん、エフィルさん」
「ん? おお、ミツヒか、たくましくなったなあ」
「あら、おかえりなさい、ミツヒ。一段と男らしくなって」
「ミツヒ、部屋は空いているからゆっくりしていろ、話は後でな」
「あの、ゴルドアさん、従魔も入っていいですか?」
「なに? 従魔? ミツヒが従魔? どこにいる、ミツヒ」
入口にいるファイガ達を中に入れると、笑顔だったエフィルさんが真剣な顔になって、
「その二匹、小さいけど相当強いわね、ミツヒ」
「ええ、まあ……強いですね」
チラッと見たゴルドアさんは、
「構わんよ、ミツヒ。部屋に連れて行け」
ファイガ達を連れて部屋に入ってまったりと過ごしていると、辺りは暗くなってきた。俺は皿を出してブラックボアのステーキを20枚ずつ盛ると、バクバク、食べ始める。次にブラックバードのサクサクのから揚げを盛ると、ガツガツ、と食べる。最後にオークのタレ焼肉を持って終了。アグアグ、と食べて満足したようだ。俺も食堂には行かずにブラックバードのから揚げを、サクサクモグモグ、と美味しく食べた。
その夜、マイウ亭も店じまいした後、食堂のテーブルを囲んで、ゴルドアさん、エフィルさん、リリ、俺と座って、ファイガ達もその横の隅で伏せている。
俺はスマルクを出て、テスタロの町での従魔の話、ダンジョンを踏破し鍛錬し、魔剣を得て、その後、フェリナスの森に行きダークエルフの里で加護を貰った話、ターナの町で武器を作ってもらった話、ナーベラの町で魔物を倒した話、トプの沼で加護を貰った話、スレギナの町のダンジョンを踏破し、鍛錬して帰って来たことを話した。感心したようにゴルドアさんは、
「いやはや、凄い経験をしているな、ミツヒ」
エフィルさんも、
「もう、ミツヒにかなう者はいないわよ」
「ミツヒ、素敵、カッコいい」とリリは目を輝かせている。
従魔に目を向けたゴルドアさんは、
「ミツヒ、それでそこにいる従魔は?」
「はい、フレイムウルフとフロストタイガーです」
「げぇっ、伝説の魔獣じゃないか」
「やっぱりね、強い気配があったけど伝説の魔獣とはね」とエフィルさん
「でも、凄くかわいいよ、あの二匹」とリリ
「この魔獣はまだ子供なのか? ミツヒ」
「いえ、小さく変身しています、ゴルドアさん。従来の姿に戻しますね」
すると、ボフンボフンッ! と元にもどるファイガとユキナ。
それを見てゴルドアさんは汗をかいて固まっている。
エフィルさんも目を見開いて固まっている。
リリは椅子からひっくり返って足が開いている。あ、水色の清潔そうな…………いや、止めておこう。ユキナ達にはまた小さくなってもらうと、ゴルドアさんとエフィルさんが、
「まったくミツヒはとんでもない魔獣を従えたもんだよ」
「そうね、これも加護の力なのかしら、凄いわ」
リリも起き上がってスカートをパタパタと手でたたいて座り直し、
「す、凄い魔獣……で、でも、ちょっと怖い」
オロオロしているので俺は、
「大丈夫だよ、リリ、大人しいから」
反論するようにゴルドアさんが、
「それはミツヒにだけだ、ミツヒの従魔だからな。それでこれからどうするんだ」
「はい、一度タモンの村に帰ろうと思います」
「そうか、タモンに帰るか、サイルト達も喜ぶだろうな」
「それに……実は魔族の事も聞きたくて」
「魔族だと? ミツヒ、魔族に会ったのか?」
「はい、俺は以前魔族と戦って負けましたが、殺してもつまらん、と言って、何故か俺を殺さないで飛んで行ってしまったので」
深く考え込んだゴルドアさんは、
「それは不味いな、魔族のそう言った行動はミツヒの回りで何かをするぞ、とても良くない事を」
「でもあの魔族は俺の名前くらいしか知りませんよ」
「村の名前は出さなかったか? ミツヒ」
「あ…………もしかしたら言ったかも、でも数か月も前のことですよ、ゴルドアさん」
「村を襲うために魔物の大群を作るには数か月はかかるんじゃないか」
両手を口に当てて青ざめるエフィルさん。
「まずいな、サイルトとティマルは強いが村全体を守るとなると」
俺はベルタル山から北へ向かって飛んでいくシバンを思い出して、
「俺、今からタモンの村に知らせに行きます」
部屋には何もないので、そのままファイガ達と店を出る。
「おいミツヒちょっと待て。あー、行っちまったよ、どうするか」
「王都や王国は、国が関わらないと動かないわね。強くなったみたいだし、ミツヒに任せるしかなさそうよ」
「そうだな、間に会ってくれよ。村が無事ならいいが」
俺は夜のスマルクの町を出て走り出そうとしたら、従来の姿になったファイガが、
(主様、急ぎであれば我に乗ってください)
同調するようにユキナも、
(私もミツヒ様をお乗せしたいのですが、体格差で負けています。どうぞ、ミツヒ様)
(ファイガに? いいの?)
と言いながらファイガの背中に乗ると、走り出すファイガ。速い、もの凄く速い。本気で走る俺の倍以上の速さだ。追走するようにユキナも普通について来る。夜目があるので昼間のように走り、ルータの町を通り過ぎスマルクの町からタモンの村まで馬車で10日間程かかるところを昼ごろには村が見えてくる。
濛々と煙の上がった村が。




