閑 話 過去の各町のその後
少し過去にさかのぼった話
ミツヒがスマルクの町を出てエントアの町に行った後のマイウ亭
カルティさんとティファさん
「今のミツヒでも十分だが」
「ええ、十分大丈夫でしょう、カルティ」
「でも、さらに強くなって帰って来たら、ミツヒに騎士の称号を与えよう」
「「 そうすれば対等の恋人になれる 」」
ウキウキしたカルティさんは、
「第1は私だな、ティファ」
「それはまだ決まっていませんよ、カルティ」
「私からアプローチしたのだから私だろう、ティファ」
「ミツヒはどう思うのかしら、生活魔法がある私には」
「だから、それは卑怯だ。ずるいぞ」
「カルティ、それとこれとは別ですよ。ライバルですからね」
「グヌヌ、 ! じゃ、胸で勝負だ!」
「な、何を変な事を言っているのでしょうか?」
「よし、勝ったぞ、これで私が」
「いいえ、私です」
そこへエフィルさんが、
「あらあら、油断していると第3になるわよって、リリにも言っておかないといけないわね、ウフフ」
ゴルドアさんは厨房で聞いていない振りをしている。
その時、タモンの村のランが体を、ブルブルッ、と震わせて空を見上げ、
「何だかミツヒに嫌な予感が、ミツヒの回りで黒いモヤモヤがまとわりついているような……大丈夫かしら」
未来の事は誰も知らない。
◇◇◇
スマルクの町のギルド内
冒険者達が
「ワイバーンの情報ってどうなったか知っているか?」
「いや、何処かに飛んで行ったって聞いたよ、情報が無くなっているから確かじゃないけどな」
「ワイバーンの討伐は厳しいから、誰もやらないしな、良かったんじゃないか」
「飛び回られたんじゃ、倒せないからな」
「そうそう、聞いた話じゃ、ベルタル山に見に行った冒険者はワイバーンを全く見なかったらしく、情報にならないと言っていたよ」
その横でミレアさんが、壁に貼ってある、そのワイバーンの情報を剥がしていた。
そして、別の数人の冒険者たちが
「エントアのダンジョンで魔石が拾えるって知っているか?」
「ああ、魔物を倒さなくても落ちているんだってな」
「俺達もエントアのダンジョンに魔石拾いに行くか?」
割り込んできた冒険者が、
「おい、その話はもう無いぞ、それはずいぶん前の話だよ。今は前のダンジョンと同じで魔石は落ちていやしない」
「なんだそうなのか、残念だな。そんなにおいしい情報が伝わってくるのが、そんなに早いわけないよな」
天井を見上げ、
「「「 はぁぁぁー、魔石欲しい 」」」
◇◇◇
テスタロの町のギルド内
冒険者たちが
「最近は魔石が落ちていないな」
「ああ、一時期は至る所に落ちていたんだけどな」
「いい思いしたよな」
「俺もさっきダンジョンから上がって来たけど一つも落ちていなかったよ」
「でも、今さらだけど何で魔石が落ちていたんだろうな」
「誰かが言っていたけど、ダンジョンの中を黒い疾風のようなものが通り過ぎた後に、良く落ちていたらしいぞ」
「ああ、それは俺も聞いた。黒い風が吹いた後が狙い目だってな」
「へぇ、黒い疾風ね。何だったんだろうな」
みんなで顔を見合わせ、
「「「 また、あればいいなぁぁぁ 」」」
それを遠巻きに見ているギルドマスターのシオンさんが溜息を吐いていた。
◇◇◇
ダークエルフの里のエレミーヌの部屋
気が付いたエレミーヌさんは、
「うーん、ハッ、ここは? あ、私の部屋だ」
部屋の中を見回しながら、
「私は確か闇の精霊の加護を貰おうとして。うーん、思い出せないわ」
「気が付いたかエレミーヌ」
「長、私は精霊の加護に失敗したのですか?」
「ああ、お前は闇の精霊に闇に引きずり込まれたんだ」
「闇に入ったら二度と帰っては来られないのに、何故私は助かったのですか?」
「ミツヒが助けてくれたんだよ。エレミーヌが闇に連れて行かれたその後にミツヒも闇に入ってな」
ヤオデさんの話に、驚いた表情になるエレミーヌさんは、
「ミツヒさんが? そのようなことが出来るのでしょうか。今までは闇に入ったら助からないと言われていたのに」
「ああ、その通りだ、そしてこれからもそうだ。だがミツヒだけはお前を助けて戻って来た。二度と出来ないだろうがな。凄い男だよミツヒは」
「ミツヒさんが……私を……助けて。あ、お礼を言わないと、今ミツヒさんは何処に?」
「もうこの里にはいない。二日ほど前にこの里を離れて帰ったよ。会うと辛くなるから、エレミーヌによろしくと言ってな」
エレミーヌさんは真剣な表情で、
「ミツヒさん……私は強くなります。私の命の恩人だから、そしてミツヒさんのお嫁さんになりたいから。強くなってタモンの村に行きます、長」
「まあ、頑張りなさい。二度目の人生だ、好きにすればいい」
次の日からエレミーヌの苦しく厳しい稽古が始まる。
◇◇◇
ナーベラの町のギルド内
受付で寝ていたマリッサさんが目を覚まして、
「うーん、あれ? いつの間にか寝てしまったようだわ。でも何だか体の調子が良くなっている?」
自分の肌に斑点が無いことに気が付き、えっ? と驚き思わず立ち上がる。その立ち上がれた事にもさらに驚いて、
「あれ? あれ? あれ? 立てる。あ、あ、歩ける。う、う、うっ、うえーーーーん、うえーーーん。歩けるよぉー。うえーーーん」
立ち上がったまま両手で顔を覆いながら号泣していると、その声を聞いたギルドマスターのリオレッテさんが来て、
「どうしたマリッサ。って、た、立っている。あ、歩けるのか?」
「うえーん、足の麻痺も呪いも無くなっています、リオレッテさん。 歩けます。うわーーん」
「良かった、それは良かったよ、本当に良かった…………でもなんで急に」
「わかりません、でも昨日ミツヒさんと呪いの話をして……もしかして……ミツヒさんが?」
「ああ、その確率が一番高いな。ダース達、プロミスのパーティもミツヒが来たら治ったしな」
「でも何で黙っているのでしょう、リオレッテさん」
「あまり大事にはしたくないのだろうな」
そこへナーベラの町の人がギルドに入って来るなり、
「大変だ! ギルドマスター! ラミラ湖の、ラミラ湖の魔物が居なくなっている!」
「何? 本当か? ジャイアントダーククロコダイルが居なくなった?」
「ああ、何か湖が静かになっておかしいなと思って、行ってみたんだ。そして恐る恐る湖畔に近寄っても何も起こらないんだ」
リオレッテとマリッサは、町の人とラミラ湖の湖畔に行くと、町を出て行かなかった住民達が立っている。その光景を見てリオレッテは、
「本当だ。ジャイアントダーククロコダイルが居なくなっている。が、何処に行ったんだ?」
辺りを見回し、リオレッテが何かに気が付いた。
「これは魔物の焦げた粉だ。良く見ると至る所に落ちている……そうか、居なくなったんじゃなく倒したんだ、あのジャイアントダーククロコダイルを」
「それは本当か? ギルドマスター。あの魔物を、誰も倒せなかった魔物を」
「ああ、これでこの町はまた活気が戻ってくる。元気が出るようになるよ」
「でも、誰が倒したんだ? その人にお礼やお祝いをしないと」
「その恩人は、もうこの町にはいないよ、その人はもう他の町に行ってしまったから……ありがとう、ミツヒ、心から感謝する」
「うえーん、ミツヒさーん、うえーん、ありがとうございますぅぅ、うわーん」
マリッサの嬉しい泣き声は、湖でしばらく続いていた。
次回から続きに戻ります。




