第31話 トプの沼からベルタル山 「妖精」
翌日早朝
食堂に行くと結構混んでいたが、カウンターで料理を選び、テーブル席に座る。もっちりとしたパンに甘酸っぱい煮込んだ果肉を挟み、野菜と肉の透き通ったあっさり塩味のスープを選び食べる。うん、美味い、いかにも朝食だな。透明のスープもなかなか出汁が出ていて美味しく食べました。その後は部屋に戻りファイガ達とガンドさんの店に行く。
「おはようございます、ガンドさん」
「おはよう、ミツヒ。武器は夕方まで待ってくれ」
「いえ、大丈夫ですよ、それより沼の毒を浄化する方法はありませんか?」
「沼の毒? ミツヒ、トプの沼に行ったのか?」
「はい、見て来ました。その沼の魔物を倒して出てきた魔石がこれです。ポイズンスライムでした」
「ポイズンスライムか、この魔石の色なら……ちょっと待ってくれ」
小走りに奥に行って、何か持って戻ってくるガンドさん。
「ちょうどいい物があるよ、ミツヒ。これだ」
それは、青く光るキラキラした3個の魔石だった。
「綺麗な色の魔石ですね、この魔石で沼の濁った水が浄化出来るんですか?」
「ああ、そうだ、以前にいろんな毒の浄化石を作ったんだが、なかなかその毒に合わず採算が取れなくてな止めたんだよ。でもこの練りこんだ魔石ならポイズンスライムの毒を浄化出来るよ」
「では、俺の魔石と交換しますか、ガンドさん」
「交換はしないよ、ミツヒ。持って行ってくれ」
「いいんですか? 持って行って」
「今まで使われていなかったんだ、宝の持ち腐れだから使ってくれ」
「わかりました、トプの沼に沈めて来ます」
さっそくその青い魔石を持って疾風のごとく走りトプの沼に向かう。沼に着いて濁った水に魔石を左右と中央に投げ入れしばらくすると、みるみる水が浄化され始め、その様子を眺めていたら完全に浄化出来たみたいだ。水が透き通って沼の底が見えたのを確認して、
(よし、仕事も終了だね、ターナの町に帰ろう)
【お待ちください、ミツヒ様】
(どうした、ハネカ。ん? なんだ?)
すると沼の下の方から2つの緑色に光る何かが出てくる。見ているとそれは体長30センチ程の人で羽が生えている緑の髪、緑の目の、精霊かな?
【妖精、フェアリーです、ミツヒ様】
(フェアリー? 精霊に似ているけどちょっと大きいね)
その2人のフェアリーが俺に飛んで近寄ってきて、
「沼を助けていただいてありがとうございます、この沼に住むフェアリーのエレンと言います」
「私はエリーナです」
「2人共そっくりだね、俺はミツヒ、よろしく」
「私たちは双子のフェアリーです、ミツヒさん。私達は昔からトプの沼に住んでいましたが、ポイズンスライムに占拠されてしまって沼の底から恐る恐る見ているだけでした。私たちも少しは攻撃や魔法が出来るのですが、全く歯が立たず。でも、ミツヒさんのお陰でようやく外に出られました」
「それは良かった、これで安心だね」
「ミツヒさんにお礼をしたいのですが、何かありますか?」
「いらないよ、エレンさん、それにこの浄化の石はターナの町のドワーフ、ガンドさんが作ったものだし俺は持って来ただけだから」
「でも長きに渡り毒に侵された沼を救っていただいたのに」
「いいからいいから、気にしないで、んじゃ」
走って戻る俺。後ろの方で「待って」とか「そんな」とか聞こえたが無視しようとしたら森が塞がってくる。俺の行く手を阻止するように塞がる森。
(何だ? フェアリーの攻撃か?)
【いえ、ミツヒ様、ドライアドです】
(木の人間見たいな奴か。それがこの森に住んでるのか)
【フェアリーと共存しているのでしょう、沼が元に戻ってフェアリーが出てきて、森にも活気が出て来たのでは? それにフェアリーがドライアドに頼んだのかもしれません】
「待ってくださーい、ミツヒさーん」
(あ、本当だ2人が追いかけて来た)
「ハァハァ、待ってくださいミツヒさん」
「だから気にしないでください、エレンさんとエリーナさん」
「ハァハァ、ではミツヒさん。私たちの加護はいかがですか?」
「え? 妖精にも加護があるんですか?」
「はい、あります。いつかミツヒさんの役に立つかもしれませんので」
「いいんですか? それじゃ、遠慮なく」
すると、エレンさんとエリーナさんがパタパタと飛んできて、エレンさんが小さい両手を俺の両頬に添えてキスをする。次にエリーナさんも小さい唇で俺の唇とキスをすると、ポアッと光って、
「無事に加護を授けました、ミツヒさん」
ステータスウインドウを見ると、
ステータス
【 名 前 】 ミツヒ
【 年 齢 】 17歳
【 職 業 】 村人 農民
【 種 族 】 人族
【 称 号 】 ≪心眼に愛される者≫
【 体 力 】 40000
【 魔 力 】 20
【 スキル 】 健脚 瞬脚 剛腕 金剛 夜目
気配感知 気配遮断 身体加速
毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 幻影耐性
呪耐性 従魔召還
【 従 魔 】 フロストタイガー フレイムウルフ
【固有スキル】 ≪ 心眼 ≫
【 加 護 】 水の精霊の加護 土の精霊の加護 風の精霊の加護
火の精霊の加護 雷の精霊の加護 氷の精霊の加護
光の精霊に愛される加護 闇の精霊に愛される加護
妖精の誰よりも愛される加護
「ありがとうございます、エレンさん、エリーナさん、なんだか競い合っているような加護が授かっています」
「ウフフ、ミツヒさんが良ければ、たまに遊びに来てくださいね」
「そうですね、ではまた」
エレンさんとエリーナさんと別れ、歩き出して、
(また凄い加護が授かって嬉しいけど、加護ってやっぱりキスするんだね、もう慣れて来たよ、ハハハ)
【グググ、キスですか、ふん、叩き潰しましょう、今すぐに】
(おかしいよ、ハネカ、やめようね)
すると一緒に歩いているユキナが興味深そうに、
(ミツヒ様、私はメスですがキスは出来るのでしょうか】
(ユキナはいつもキス以上しているじゃないか、俺の顔をペロペロ舐めてくるから)
(そ、そうなのですか? 舐めるのは従魔としてですね、ミツヒ様)
(あー、わかったわかった。ユキナこっち向いて。はい、チュッ)
ユキナの顔を両手で押さえて、チュ、としたら、
(え……? ……! エヘ、エヘヘヘ、これがキスですね、ミツヒ様。ウフフフ)
ユキナは嬉しそうに森中を駆け回り飛び回り、ザッシュザッシュ、と草木をなぎ倒しているユキナ。
(ユキナ! 飛び回るんじゃないの。ほら、後からドライアドさんが倒した草木を直してるじゃないか)
(……! え、失礼しました、ミツヒ様。お見苦しい所をお見せしてしまって)
ファイガは、何やってるんだか、と気にしないで歩いている。
【ユキナめ、滅ぼしてやりましょう、今すぐ叩き潰してやりましょう】
ハネカが怒っている事に気づき、ボフンッ、と小さくなったユキナが俺に飛びつき、肩越しに、
(みつひさまー、はねかさまがー、こわいですー)
【そ、それは卑怯ですよ! 卑怯! ユキナ!】
後は、ユキナが、フフン、とやってみたり、グヌヌ、とハネカが唸って見たり仲がいいようだね。歩いて帰る道中には魔物は全く出ずに、ファイガ達とじゃれ合いながらの帰路となる。それは、武器の出来上がる夕方までには時間があるので魔物でも出たら倒しながら帰ろうと思ったが、従魔が強すぎるので俺たちの周囲から魔物が逃げている。とハネカが教えてくれた。
ターナの町に入りガンドさんの店に行くと、
「出来上がっているよ、ミツヒ」
と、ガンドさんがスロウソードとガントレットを出して来て、
「スロウソードは魔石の魔力を練りこんで、ミツヒの意志で投げ、刺さった魔物は耐性でもない限り石化する。ガントレットは攻防の受ける反動を、今回追加した魔石を錬成し練りこんだ魔力で押さえることが出来るはずだ」
「それは凄いですね、ガンドさん、ありがとうございます」
「また不具合でもあったら言ってくれ」
「はい、そうします。それと、トプの森の水が、ガンドさんの魔石で綺麗になりましたよ」
「おお、そうか、それは良かった。これでスレギナの町への道が増えたよ」
「スレギナの町ですか」
「ミツヒは知らないのか? ターナの町から南西にある町。スレギナの町に行くには南にあるルシファンの町を経由して行くしかなかったが、昔はトプの沼を抜けて行くことが多かったんだ。その町はダンジョンの町だよ。そうだ、攻略してみてはどうかな、ミツヒ」
「面白そうですね、検討して見ます」
ガンドさんの店を出てターナの門に行き町を出るとハネカが、
【ダンジョンに行くのですか?ミツヒ様】
(いや、まだ試したい事があるからこれから別の場所に出かけるよ)
【畏まりました、ミツヒ様、何処までも】
ユキナ達を影に入れて走り出す俺。暗くなっている道だが問題なく軽快に走る。空の星が綺麗で、時々流れ星が落ちる中、魔物も気が付かない速さで、ビュンビュン、とひたすら走る。
翌日、まだ日の出には早い暗い朝。ここはベルタル山の麓の森を出た荒れ地にいる。
ユキナ達を影から出して1日遅れの夕食だ。皿にステーキを20枚づつ盛るとさっそく食べ始める。次にブラウンラビットの串焼きを20本ずつ、串を抜いて盛る。最後は焼肉の塩焼きをドンと持って、ハグハグアグアグと尻尾をブンブン振りながら食べて満足したようだ。
俺もステーキを食べて満足する。
【ここで何をするのですか? ミツヒ様】
(ああ、実はダークエルフの里で闇の精霊に( 魔剣 )とか( 契約 )とかの意志が伝わってね、何かあって物騒になると不味いから何処で契約したら良いか考えていたんだ)
【それで何もなく広い場所が必要なのですね】
(そう、これから魔剣ギーマサンカと契約してみるよ)
マジックバッグから魔剣ギーマサンカを取り出し、握り手の鍔部分にある穴に指の血を1滴垂らして握ってみると。漆黒の剣が赤黒く光り、そして治まると、あの闇の精霊の時と同じような闇が俺を包み込み、意識が魔剣に持って行かれる。そしてハネカも感じられなくなると魔剣が、
《我に従え、剣を握りし者》
「グッ、意識が飛びそうだ。グゥーッ、闇の精霊の時と同じか、クソーッ」
《我に従え、剣を握りし者……》
「意識が……グッ」
《我・に・グ・従……グアッ! 何? ……闇の精霊か! ……何を……グアーーーッ!》
その途端、バヒューッ! と闇が晴れて魔剣の声も無くなる。そして魔剣ギーマサンカを見てみると漆黒の剣の鍔から先までの刃先が片方が金色で、もう片方が赤くなっていた。ハネカも聞こえてきて、
【契約はうまくいきましたか? ミツヒ様】
(ああ、魔剣の力に俺が乗っ取られそうになったのを、闇の精霊が助けてくれたみたいだね)
【お体に何か変わったことはありますか?】
(うん、剣の意志が伝わってきて使い方が分かった)
ファイガ達を後ろに下がらせ俺は森を向く。魔剣を普通に構えて、ブンブン、と振るが変わったことは無い。今度は半身で腰を落とし、剣を水平に持って赤色の部分を表にして居合抜きをするように、ハッ! と水平切りをすると
ズバババババァーーーーッ!
幅30m程の炎の刃が飛び出し、森全体の腰から上が切断し、燃えカスになった。
(うわー、参ったな、こりゃ大変だ)
【ファイアーカッターのようですが規模が違いますね】
これは不味いと思い山に向き直り、今度は金色の部分で居合抜きをするように、ハッ! と水平切りをすると、
ヒュン! ズバンッ! ゴシャーッドドドドーッ!
さっきと同じ幅の雷の刃が広がりながらベルタル山の山頂の下に当たり、スパッと切断して粉々になり山の形が変わっている。
(うわー、これも参ったな、山の頭が無くなった)
【サンダーカッターのようですが規模が違いますね、ウフフ】
(ウフフって、ハネカは呑気だな)
【いいじゃありませんか、ミツヒ様。お強くなられたのですから】
(ま、まあ、そうかな。魔剣のお陰だけどね。さて……さっさとここから逃げようか)
ベルタル山を後にして、その日の夕方にルータの町に戻り、何事もなかったようにガイルの店に泊って翌日、スレギナの町に向かった。
スレギナの町へ




