第29話 ターナの町からナーベラの町 「魔物討伐」
そしてターナの町へ
ファイガ達を影に入れターナの町に向かって走り出す。青空の下、気持ちいい空気を吸いながら、走りはいつもと変わらず軽快に、ビュンビュン、と速く、夕方にはターナの町の門が見えた。ファイガ達を影から出して一緒に歩き、入口で順番を待って門番に証明書を見せて町の中に入ると、まず俺達はガイルの宿に行って宿を確保する。
「ケフィルさん、また宿泊をお願いします。とりあえず1泊で」
「あら、いらっしゃいませ、ミツヒさん、空いてますよ」
笑顔で狸耳をピコピコさせているケフィルさんに、金貨一枚を支払い部屋に行く。まずはユキナとファイガに、クリーン、をして皿を出し、ブラックグリズリーのステーキを出す。今日はシンプルな塩コショウだけのステーキを30枚、ドンと盛って、どうぞと言う間もなく食べ始める。尻尾を、ブンブンッ、と振って食べ始める。次はレッドバードとブラウンベアーの厚切り肉炒めを皿一杯に盛る。バクバク、アグアグ、と食べて満足げだ。さっさとベッドに寝転がって寛ぐので、俺は風呂に行き、ゆったりと癒されてから食堂へ行くが客は誰もいなかった。カウンターでケフィルさんに声を掛けてテーブル席に座るとすぐに料理を運んでくる。料理をテーブルに置きながらケフィルさんが、
「ミツヒさんの食べ方が好評でね、今日は食材が無くなって臨時休業なの。でも、宿泊客の分は残してあるので大丈夫よ。でね、今日はこの料理を作ってみたんだけど、どうかな」
出て来たのは、底の浅い鍋にロックバードの一口肉がゴロゴロ入っている煮込み料理だ。ネギや葉物野菜も入っていて出汁の効いた薄口で美味い。そのままでもいいのだが、テーブルの向こうで狸耳をピコピコさせ、ジーッ、と凝視して何かを待っているケフィルさんがいるので、
「美味しいですよ、ケフィルさん。このままで十分じゃないですか」
「えぇぇー? 何かないですかぁ、何か。お願いしますよぉ、ミツヒさぁーん」
「それじゃ、今回だけですよ。まず、生卵を2個かき混ぜて、火をかけたこの鍋の料理の上に、そっと乗せる様に敷いてください、そして固まる前半熟で出来上がりです」
さっそくその鍋を持っていき、言われた通りに作ってくるケフィルさん。鳥鍋の卵とじの出来上がりだ。食べると出汁のしみた鶏肉とプルプルの卵が絡まって美味い。野菜も卵に絡まってやっぱり美味い。絡めて食べることを教えたケフィルさんは目を輝かせ、狸耳をピコピコさせて頷いていたよ。美味しくいただいて部屋に戻り、ユキナ達とじゃれ合って就寝。密着してすぐに、スウスウ、と寝付くファイガ達。
(おやすみ、ハネカ)
(ウフフ、ごゆっくりお休みください、ミツヒ様)
翌日朝
朝食はブラックバードの串焼きを食べてガイルの店を出る。行先は、俺の武器を作ってもらっているガンドさんの店だ。ファイガ達と一緒に歩いて行き、店に着いたらファイガ達は入口横で伏せて待つ。そして中に入るとガンドさんがいた。
「おはようございます、ガンドさん」
「おはよう、ミツヒ、出来上がっているよ」
差し出されたのは黒紫色の艶のあるガントレットだった。
「綺麗なガントレットですね、ガンドさん」
「ミツヒに合わせたつもりだけどダメだったら調節するよ」
装着すると指先から肘までが吸い付く様にピッタリして、剣を握っても違和感が無く軽量のガントレットだった。ガンドさんは、
「ミツヒ、これは強い魔石の力で出来ている。まず敵に意識して正拳を入れると魔法で言う、エクスプロージョンが発生するが、その大きさは魔力ではなく魔石の効力で体力の大きさに比例する。そして相手の攻撃を、ガントレットの手首から肘にかけての甲部分で受けると、受けた攻撃力がそのまま相手に跳ね返り、弾き飛ばすことが出来るガントレットに仕上げてある」
「凄いですね、嬉しいです、ありがとうございます、ガンドさん」
「別にミツヒの魔石で作った武器だし、俺も手に入らない貴重な魔石で武器が作れてうれしいんだ、一石二鳥だよ」
「ガンドさん、これからもお願いしてもいいですか?」
「おお、それこそ俺からお願いしたいくらいだ、ミツヒ」
「また来ます、ありがとうございました」
「ちょっと待て、ミツヒ。今後の予定が無いなら魔物退治してみないか?」
「魔物退治……ですか。俺は冒険者ではなく村人なので依頼は受けられませんよ」
「これは依頼ではないよ。詳しい話はターナのギルドマスターに会って、俺の名前を出せばいい、ミツヒなら出来るかもしれないからな。ただ、無理強いはしない、無理だったら止めればいいことだ」
「なるほど、では行ってみます」
ガンドさんの店を出て、ガントレットをマジックバッグに入れ、途中の商店や露店で肉料理を買い込みながらファイガ達と歩いてギルドに向かう。ユキナ達はギルドの入口横で伏せて待つ。
ギルドに入ると日も高く誰もいないな。奥の受付で獣人のシアナさんが暇そうに両手を上に伸ばし欠伸をしている。あ、目が合って固まって、素知らぬ顔で口笛を吹く素振りをしているよ。うん、俺も見なかったことにしよう。
受付に行き、バツが悪いように尻尾を大きくさせているシアナさんに、
「おはようございます、シアナさん」
「おはようございます、えと、ミツヒさん、ご用件は何でしょう」
「実はギルドマスターにお会いしたいのですが」
「お約束はありますか? ミツヒさん」
「いえ、ありまえせんが、ガンドの店のガンドさんが名前を出せばいいと」
「少しお待ちください」
シアナさんが尻尾をユラユラさせて奥の部屋に入って行き、その尻尾を見ながら、俺はあの大きくなった尻尾を、モフモフ、したいなと思っていると、少し待ったらシアナさんが部屋から出てきて、
「お待たせしました、ミツヒさん、お会いになるそうです、奥の部屋へどうぞ」
奥の部屋に通され、6人程が座れるソファとテーブルが置いてあり、その奥に机の向こうでこちらに向いて座っている人? いや、獣人がいた。立ち上がりこっちへ来ると、身長160センチ程の男で人の様だが肌が鱗で蜥蜴の尻尾が垂れ下がっているリザードピープル。座るように指示されソファに座ると、
「初めまして、ギルドマスターのカルバンだ、よろしく」
「ミツヒです、よろしくお願いします」
「ではミツヒ、ガンドから何を聞いてきた」
「魔物退治の話を聞けると」
「ガンドの推薦か、ミツヒは強いようだな」
「それほどではないですが、修行をしている身です」
「じゃ、教えよう」
カルバンさん曰く、ターナの町から西に行くとナーベラの町があり、その町の端にラミラ湖という湖がある。そこに魔物が住み着いて困っている。冒険者が何度か討伐に行ったが勝てず、ナーベラの町の住人が町を出て行き始めている。王国は被害がそこまで酷くないからギルドで対処しろと言う。そこに住み着いている魔物は体長15m程のジャイアントダーククロコダイル。皮膚は固く普通の剣で倒すことは無理。さらに毒と麻痺の水を吐き、一番厄介なのが戦うと呪われる。
「どうする? やってみるか? ミツヒ」
「そうですね、考えてみます、カルバンさん」
「危険な魔物の討伐だ、ゆっくり考えてくれ」
ギルドを出てファイガ達と歩き出すとハネカが、
【魔物退治はどうしますか、ミツヒ様】
(これからナーベラの町に向かうよ、ハネカ)
【ギルドでは検討すると言ってましたが】
(やる。とか言うと、面倒になりそうだからね。誰かがついて来るかもしれないし)
【ミツヒ様の力を見せつけてやりましょう】
(ダメだよ、それが面倒事に巻き込まれるって)
【ミツヒ様がそう仰るのであれば。畏まりました】
その足でターナの町を出る。馬車で1日程かかるが、ビュンビュン、と走って夕方前にはナーベラの町の塀が見えた。門に近づくが誰もいないぞ。門番もいないので勝手に門を開き町の中に入り閉める。町を見渡すと、生活感はあるものの誰も歩いていないよ、寂しい町だな。とりあえず宿を探しにユキナ達と歩き出し、
(ハネカ、この辺に宿は無いかな)
【その先に数軒ありますが、エイユウ亭1軒だけ開いています】
歩いて行くと宿街が見え、その1軒の看板にエイユウ亭と書かれている。中に入って見回すと、身長180センチ程の茶髪で強面のごつい人が出て来て、
「いらっしゃいませ、お泊りですか?」
「はい、俺はミツヒです。2泊朝夕食事付をお願いします。それと後ろの従魔も」
「私はバオリクです。本来ダメなんですけど、誰も泊まっていないのでいいですよ。金貨2枚になります。でも食事の内容は低いですが宜しいですか?」
「ありがとうございます、大丈夫です」
見た目より優しい良い人だったバオリクさん。怖い顔で損しているよ。
「バオリクさん、ナーベラの町のギルドは何処にありますか?」
「はい、この宿を出て右に行くとありますが、魔物退治ですか?」
「ええ、まあ、まだ検討中ですが下見程度に情報収集です」
「そうですか、お気をつけて。先日も3人のパーティが討伐に来ましてこの宿に泊まっていただいたのですが、戦いに行って負傷して帰って来たらしいです。もしかしたらまだギルドにいるかもしれません」
「そうですか、さっそく行ってみます、バオリクさん」
エイユウ亭を出てギルドに向かうと見えてきた。ファイガ達を入口で待たせて中に入るが、ギルドの中は誰もいない。俺の気配感知でも周囲にはいないようだ。するとハネカが、
【奥の部屋に3人います、ミツヒ様】
(奥の部屋か、誰もいないし行ってみよう)
部屋の扉を開けるとベッドでうなされて寝ている3人の姿がある。近づいてみると、見たことのある顔ぶれだった。それは、昔タモンの村を出て冒険者になった、ダース、ラッタ、ティーナの3人だ。最後にあった時とは印象が大分、大人びているが本人達だ。ただ、顔の所々に黒い斑点があり苦しそうにうなされている。するとハネカが、
【この3人は呪われています、ミツヒ様】
(呪い? そうかターナ町のカルバンさんが言っていた、戦うと呪われると)
【そのようです、この呪いは浸透性があり、あと5日程で死に至ります】
(ハネカ、この3人の呪いを治せないか?)
【畏まりました、この程度なら訳ありません、ミツヒ様。アンバインド!】
淡い光が3人を包み込み、黒い斑点が、スゥ、と消えていくと同時に静かな寝息になる。それを見届けて部屋を出るとやっぱり誰もいないので一度帰ろうと入口まで来たら2人の人が入って来た。身長170センチ程で短い金髪の戦士風の男が1人の女性を背負っている。その女性は、頭にキツネの耳があり尻尾も、フサフサ、と大きいフォックスピープルで、可愛い娘だ。背負ったままの男が、
「いらっしゃい、不在で悪かったね。この彼女を治療しに出ていたものだから。ちょっと失礼」
背負っている女性を受付に座らせると、
「初めまして、ギルドマスターのリオレッテだ。受付はこのマリッサがやっている」
「マリッサです、ご迷惑おかけします」
「初めまして、俺は、ミツヒです。ナーベラの町の魔物のことを聞きたいのですが」
立ち話も何だから、と横の椅子に座り話を始めるリオレッテさん。
「いつの頃からか、この町のラミラ湖にダーククロコダイルが住み着いて、湖の近くを通る人を襲うようになった。だが、これくらいの魔物であればこの町の冒険者だけて討伐できたが、問題はその後だった。しばらく静かな湖になったが、ジャイアントダーククロコダイルが現れて事態が急変した。当初は何組かの冒険者が討伐に乗り出したが、負傷した上に呪いをかけられて1週間ほどで死んでしまって、それを見ている冒険者はこの町から出て行き、いなくなり、外から来た腕に自信がある冒険者が何組か来て討伐を行ったが、やはり負けて負傷、呪いを受けて死亡してしまった。呪いを解くには王国の呪術師に頼まないと治せず、呪いを受けてからでは王国に着くまでに手遅れになるので、ジャイアントダーククロコダイルに手が出なくなり、ナーベラの町の住人も1人、また1人、一家族また一家族と出て行って、他の町に移り住んでしまった。今は手を尽くしようが無いのが現状だ。しかし、つい先日だが3人の冒険者が来て、呪いの危険も教えた上で討伐をしてくれるというので期待をしたが負傷して呪いを受けて帰って来た。負傷は回復魔法で治したが呪いはそのまま残っている。あと何日もつか……」
そこへ奥の部屋から扉を開け、フラフラと出てくる3人がいた。
「リオレッテさん、今、目が覚めて……俺たちはどうしたのでしょうか」
「ダース、ラッタ、それにティーナまで、大丈夫なのか? 君たちはジャイアントダーククロコダイルの呪いを受けたんだ」
「そうだ、討伐に行ったけど、負傷して逃げ帰って来るところまでは覚えていますが、何処まで逃げたかは記憶がありません、リオレッテさん」
「呪いのせいかも知れないな、でも無事に呪いが解けて良かったよ」
「運が良かったのかもしれません、って、あれえ? そこにいるのは、もしかしてミツヒか?」
「ああ、久しぶりだねダース、それにラッタとティーナも」
「おお、ミツヒ、筋肉もついて、たくましくなったね」とラッタ
「随分と背も伸びたわね、ミツヒ」とティーナ
「3人とここで会えるとは思わなかったよ」と俺
「なんだ、ミツヒとダース達は知り合いか」とリオレッテさん
「村の同郷です、タモンと言う村の」とダース
「そうか、ならゆっくりと再会を楽しんでくれ」とリオレッテさんが奥の部屋に行く
ダース達は、プロミス、というパーティ名で冒険者に登録して各地を回っていた。依頼や討伐も受けて今ではランクBまで上がり、今回はランクBになった腕試しでナーベラの町に来て討伐をした。しかし、まったく歯が立たずに負けてしまった。ジャイアントダーククロコダイルから逃げ帰る時に、もし逃げ切れたら一度タモンの村に帰ろうと3人で誓って今に至る。
俺も村人のまま鍛錬しながらここまで来たことを簡単に説明した。
ダース達に、ラミラ湖の魔物の討伐は危険だと教えてもらって、検討することを伝えた。その後は、冒険や鍛錬の他愛もない話しに花が咲き、楽しいひと時を過ごし、一段落してダースが、
「そうか、ミツヒも修行に入っているんだな、世の中はまだまだいい修行が出来るよ。でも、俺たちプロミスは一度タモンに帰るよ」
「ダース達の両親が連絡よこせって言ってたよ、それと兄弟もね」
笑いながらティーナは、
「ははは、全然連絡しないものね、でも帰るからいいわよ」
ラッタも、
「今晩このままギルドで厄介になって、明日の朝にはナーベラの町を出発するよ」
「俺も一度も連絡していないから、タモンの村に着いたら、父さんや母さん、それとランにも元気だよって連絡してよ」
「うん、ちゃんと連絡する。がんばってな、ミツヒ」とダース
「健闘を祈るよ、ミツヒ」とラッタ
「あまり無理をしちゃだめよ、ミツヒ」とティーナ
「うん、みんなも気を付けて帰ってね、それじゃ」
手を振りながらギルドを出て、ユキナ達とエイユウ亭に向かう。
エイユウ亭に着き部屋に入ると、いつもの、クリーン、を大きくなっているユキナとファイガ、それと俺に掛けてもらい、皿を出す。まずオークの焼肉塩焼き風を二つの皿に山盛ると、尻尾をブンブン振りながら食べ始めるファイガとユキナ。食べている間にレッドラージのタレ漬け串焼きの串を20本ずつ抜き、また皿に盛る。最後はブラックボアのステーキを20枚ずつ盛って終了。バクバク食べて満足したようだ。俺は食堂に行きバオリクさんに声を掛け、テーブル席に着くと料理を持ってきてバオリクさんは、
「この今の町の状態で出来るこの宿の料理です」
薄い焼肉炒めだった。塩コショウが薄めだがまずまずの美味しさだ。
「美味しいですよ、バオリクさん」
「それは良かった、ではごゆっくり、ミツヒさん」
食材が品薄なのだろう。と思いながら食材に感謝してゆっくりと食べた。
夜はユキナ達に小さくなってもらいベッドで密着し就寝。あっという間に寝息を立てるファイガ達。
(明日は湖に行こう、お休み、ハネカ)
(ごゆっくりお休みください、ミツヒ様)
翌日早朝




