第28話 フェリナスの森2
ついて行く俺。
ヤオデさんの後ろに俺、その後ろにユキナ達が歩く。その先は大きな樹の根本。近くまで行くと根元には横穴があり入って行くとだんだん薄暗くなっていく。中はエルフの里の様に広くなっているが暗い場所だ。するとヤオデさんが、
「ミツヒ、念のために言っておくが闇の精霊の加護を授かる為には、そこにある魔方陣に入って上を見る。すると精霊が降りてくる。が、精霊がミツヒの事を拒否すればそのまま闇に取り込まれ帰って来れなくなるが、どうする?」
「やります、ヤオデさん。お願いします」
ファイガ達は隅で座って待っている。その横に剣を置き、俺は中央にある魔方陣の中に入り真っ暗な上を眺めると、何かが降りてくる。夜目で見ると体長20センチ程の黒い精霊が、俺の回りを飛んで俺を調べる様に見ている。しばらく観察して納得したのか俺の頭上で羽ばたきながら止まると、いやな暗闇が降りてくる。そして俺は動けなくなる。
それが見えるのかヤオデさんは、
「だめだ、闇の精霊に取り込まれる。終わりだ」
全く体が動かない。俺の身の回りが夜目でも見えない闇に包まれ、麻痺耐性のある俺の感覚がなくなって行く。それにハネカも感じられないぞ。闇に飲まれるのか、と、その中で必死に耐えていたがもうだめだ、気を失いそうになる。
そのとき一筋の光が俺を差し、何かが一直線に飛んで来て俺の頬に、ビタッ、としがみつきキスをしてきた。すると、麻痺が徐々に消えて行き、感覚が戻ってきたのでその主を見ると、闇の精霊と同じ大きさの光り輝く精霊が肩に乗移っている。その輝く精霊は飛び立たずに闇に向かって何かを言っているようだ。すると、闇が徐々に引いて行き、消えてなくなると闇の精霊が輝いている精霊の反対の肩に乗り俺の頬にキスをして肩越しに2人で何やら話をしているが聞こえない。すると、話が決まったらしく闇の精霊が俺の頬を引っ張って振り向かせると小さい口が俺の唇にキスをした。さらに反対の光っている精霊も俺の頬を引っ張り同じように唇にキスをした。2人共納得したのか上に向かって飛んで消えて行った。
儀式が終わったのか魔方陣を出てヤオデさんのところに行くと、目を見開き口をパクパクさせて固まっているヤオデさんが、
「ミ、ミツヒ。お前は何者だ? 初めてだ、初めて光の精霊を見た。300年生きて来たが、ここに光の精霊がいるとは聞いたこともない」
「俺にも良くわかりません、闇に取り込まれそうになったら助けてくれたようですね」
「闇と光は表裏一体だが、ここは闇の精霊が支配していると思っていた。しかし光の精霊も裏で支配しているとは知らなかった」
儀式も終わったので、樹の外に出てステータスウインドウを見ると、
ステータス
【 名 前 】 ミツヒ
【 年 齢 】 17歳
【 職 業 】 村人 農民
【 種 族 】 人族
【 称 号 】 ≪心眼に愛される者≫
【 体 力 】 40000
【 魔 力 】 20
【 スキル 】 健脚 瞬脚 剛腕 金剛 夜目
気配感知 気配遮断 身体加速
毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 幻影耐性
呪耐性 従魔召還
【 従 魔 】 フロストタイガー フレイムウルフ
【固有スキル】 ≪ 心眼 ≫
【 加 護 】 水の精霊の加護 土の精霊の加護 風の精霊の加護
火の精霊の加護 雷の精霊の加護 氷の精霊の加護
光の精霊に愛される加護 闇の精霊に愛される加護
(加護は授かったけど、ハネカ……愛される加護って何?)
【わかりませんが……グヌヌ……強い加護です】
(でも闇の精霊は俺を取り込もうとしていたよね)
【それは違います、ミツヒ様。闇の精霊はミツヒ様の事が大変気に入ったので闇の世界を見てもらおうとしただけなのですが、帰って来られなくなる場合が多いので後から加護を授ける予定だった光の精霊が注意をしに出て来たのです】
(良かった、嫌われた訳じゃないんだね)
確認して俺は、
「ヤオデさん、無事に加護を授かりました」
「過去に挑戦した者はいたが、みな闇に取り込まれ消えてしまった。闇の精霊の加護を授かるものを見たのはミツヒで3人目だよ」
「偶然ですよ、途中まで闇に取り込まれそうになりましたから」
「加護を授かったのは事実だからな。大事にするといい」
「ありがとうございます、ヤオデさん」
「これも何かの縁だ、今日は泊まって行きなさい。部屋を用意しよう」
ファイガ達も入れる広い部屋に案内されると、そこにはベッドは無く床に布団が敷いてある。ユキナ達はハネカにクリーンを掛けてもらい布団で寛ぎ、俺は風呂に行く。風呂の周囲を草木で覆われた露天風呂があり、数頭の獣も警戒しないで入っているので一緒に入るが俺をまったく気にする様子は無い、むしろ景色の一部のように無視しているよ。俺も気にしないで入っているが緑も多く気分もいいし、うん、いい風呂だね。
夜になり、部屋に食事の用意が出来たと連絡が来て大広間に呼ばれる。そこは床に2列で向い合せに座り、数十人のダークエルフが集まって酒を飲み食事をしていた。ファイガとユキナの食事もあると言うので連れて来たら、入口横のスペースに俺の出す皿より大きい皿が何枚も置かれ、そこには生肉や調理した肉が盛って有る。食べ過ぎないように、と言ってはみたが、嬉しそうにバクバク、ガツガツと食べ始めている。
俺は席に案内されて座ると、隣にはエレミーヌさんが艶やかな褐色の肌にピンクのドレスのような綺麗なワンピースで両足を斜めに折って座っている。横目でニコッと挨拶されると。うわ、綺麗だ、エレミーヌさん凄い綺麗だ、似合っているし、その。胸元のドレスの割れた部分から弾けんばかりの双丘が――。
【ミツヒ様は、大きいものと焦げた肌がお好みですか、そうですか】
(いや、違うって、ハネカ、偶然隣がエレミーヌさんだったんだ)
【何か策略を感じます、警戒してください、ミツヒ様】
(策略って、試合もしたし、もう何も無いだろう)
向かいにヤオデさんが座り食事を始める。ヤオデさんに酒を勧められたが断り、果汁を飲みながら料理を食べると、エレミーヌさんとヤオデさんは果実酒を飲み始める。焼肉、ステーキ、肉野菜の煮込み料理、肉野菜炒め、とても美味しい料理を堪能したところで、エレミーヌさんに酔いが回って来たのか俺の耳元で、
「ミツヒさんにはお嫁さんはいるのですか?」
突然なので果汁を、ブッ、と拭いてしまったよ。口と床を拭きながら、
(嫌な予感がするな、ハネカの言った通りかな)
「いえ、いませんよ。俺はまだ修行の身で鍛錬を続けていますので、まだ早いです」
すると、パアッ、と明るい笑顔になったエレミーヌさんが、
「私の事、どう思いますか? 私はお嫌いですか? ミツヒさん」
(来たぞ。これはどう答えるかによって勝敗が決まるぞ)
「嫌いではないです、エレミーヌさんはお綺麗ですよ、俺もそうですが周囲の誰もがそう思うのでは?」
その話を聞いていたヤオデさんが、
「ミツヒ、エレミーヌは戦士の中で一番強く、苦しい訓練や厳しい指導ばかりして他の者らには怖がられているから好かれないんだ。根は優しいのだがね。そのエレミーヌより強いミツヒは理想の人なのだろう。どうだミツヒ、嫁にもらっては」
横で両手を赤くなっている頬に当てて、モジモジクネクネしているエレミーヌさん。
(うわっ、口添え人も出て来た。まいったな、試合の方がよっぽど楽だ)
ハネカが強い口調で、
【お前ごときが俺の嫁に? フン、嫌いだから近寄るな! と言えばいいのです、ミツヒ様。さあ早く】
(それはやめようね、ハネカさん、敵対心燃やしても良くないからね)
俺はヤオデさんに、
「ヤオデさん、いきなり嫁にはならないのでは? それにエレミーヌさんも困るでしょう。それに今、酔っぱらっているのでは?」
すかさずエレミーヌさんが俺に向いて、
「わ、私は困らないです、寧ろ、嬉しいです、ミツヒさん。ミ、ミツヒさんが宜しければ今晩にでも」
「ちょ、ちょっと待ってください、エレミーヌさん。じ、実は俺にはもう決まった人がいるのでダメなんです」
「え?」と驚いた顔で口を押えるエレミーヌさん。
(え? わ、私ですか? 嬉しい)とハネカ。
(え? 私が? ミツヒ様の?)と、俺に振り向いているユキナ。
なんだか変な雰囲気になったよ。何かが失敗だったかな。
「俺はまだ修行の身です、だから今の俺にはお嫁さんは無理です。でも何年後か正式な約束はしていませんが俺の故郷のタモンという村に俺の横で守られていなくても大丈夫なくらい強くなって来てくれると言う娘がいますのでダメなんです。エレミーヌさん諦めてください」
「よし私も強くなりましょう、ミツヒさんに守られるようでは嫁の資格が無いのですね」
(違うんだけど……諦めてくれるんならこれでいいか)
「そういう訳では無いですが」
話を聞かず、何やら、ブツブツ、と言いながら立ち上がり、広間を出て行くエレミーヌさん。
食事も終わり……疲れた。その夜はユキナとファイガが密着する前に、布団にバタンと倒れる様に寝てしまった。
翌日朝
ユキナとファイガは昨晩に食べ過ぎたらしく、まだ寝ていたい、と言うので部屋に置いて、朝食を食べに大広間に行くと果物が並んでいる。やはりエルフもダークエルフも朝食は果物のようでヘルシーだね。だからスタイルが良いのか? 俺は、シャクシャクモグモグと食べて大広間を出て行こうと立ち上がると、ヤオデさんが入って来るなり暗い顔で、
「ミツヒ、エレミーヌが消えたよ」
「消えた? 何処かへ行ったのですか?」
「闇に飲まれて消えたんだ、闇の世界にな。昨日の夜遅くに、エレミーヌが私の部屋に来て、強くなりたいと、精霊の加護を授かりたい、と言って……。止めたんだが今朝早くに精霊の魔方陣に入って闇に消えてしまったよ」
「な、何でそんな事を……まさか」
「自分より強いミツヒに好意を抱いて、早く強くなって気に入られたかったのだろうな」
「そ、そんな……俺はそんなつもりじゃ……エレミーヌさんが……」
「ミツヒのせいじゃないさ、自分で決めた事だ、エレミーヌも後悔はしていないだろう」
力が抜けて膝が折れ、両手を床につくと・・・涙がこぼれる。
「うっうう、ごめんね、エレミーヌさん。俺が勝手なことを言ったばっかりに、ううぅ」
【しかたがないですね、ミツヒ様。助けに行ってみては】
(どうやって闇から助けるんだ、教えてくれ、ハネカ)
【加護を授かったのですから闇には強くなっているのでは?それに加護の精霊ですからお願いして見てはいかがかと】
(よし、行くぞ、ありがとう、ハネカ)
【いいえ、ミツヒ様のそのようなお姿は見たくないので】
ファイガ達を部屋に残しそのまま樹の下に走って行き大樹の中に入る。そして中央にある魔方陣を見るとその脇にはエレミーヌさんの剣が置いてあるのを見て、俺は魔方陣の中に入り上を向いて叫んだ。
「闇の精霊よ! お願いだ! 今朝闇に取り込んだ女性を返してほしい!」
何も起こらない。
「お願いだ! 闇の精霊よ! この頼みを聞いてもらえるなら頂いた加護を返上してもいい! 俺に出来ることがあれば言ってくれ!」
すると上から闇の精霊が降りてくると、あの闇も降りて俺を包み込む。
【ミツヒ様、私はここまでです。繋がりが遮断されます。気をしっかり持って、心眼を使ってください。ミツヒ様、ご武運を――――】
ハネカの気持ちが切れるのを感じる。闇に包まれ昨日の様に意識が遠くなっていくのを耐える。すると闇の中で体が浮き無重力のような状態になる。夜目を使っても全く見えない。手探りでジタバタするが無意味な行動だった。ふとハネカの言葉を思い出し、エレミーヌさんを思いながら心眼を使うと緑色の点滅が現れた。俺は必死に意識が飛ぶのを耐えてそこまで泳ぐように近づき点滅に触ると、気を失っているエレミーヌさんが見え、そのまま手を捕まえ抱きかかえた。
(ぐっ、捕まえたのはいいがこの後どうすればいい。ぐ、ぐっ、意識が……)
朦朧としながらも、またハネカを思い出し。出口を意識して見渡すと黄色の点滅があった。
(ぐっ、あれが出口か? くそっ、しっかりしろっ! 俺!)
泳ぐように、もがくように黄色の点滅に向かって行く、向かって行く、意識が飛びそうになるのを必死に耐え、向かって行きやっと届く、点滅に届くと同時に俺とエレミーヌさんは魔方陣の上に戻っていた。いつも間にか闇は上に消えていき、俺はエレミーヌさんを抱きかかえているのでそっと魔方陣の外に置く。
「ハァハァ、ありがとう、闇の精霊さん、助かりました。ハァハァ、加護の返上とかお礼とか、俺はどうすればいいのかな。ハァハァ」
闇の精霊は俺の肩に乗り、足を肩から垂らして座って俺に身を委ねている。闇から戻ったばかりで疲れてはいるが、黒い髪の毛がフサフサと触って気持ちいい。
しばらくそのままでいたが、闇の精霊の話は聞こえないしわからないが、すると意志が伝わってくる。
( 好 )( ミ ヒ )( 加護 )( する )
( 魔剣 )( 血 )( 契約 )
気が済んだのか、俺の肩で立ち上がりまた頬にキスをして、黒くて見えない顔が笑っているように感じた。そして上に向かって飛んで消える。
魔方陣を出るとハネカが、
【お帰りなさいませ、ミツヒ様】
(ただいま、ハネカ。またハネカに助けられたね)
【そのダークエルフは嫌いですが、ミツヒ様の悲しいお姿は見たくないので致し方ありません】
(大丈夫だよ、ハネカが一番好きだからね)
【え、え? また? う、嬉しいです。でも昨夜言っていた決めた人は?】
(ああ、あれはエリセだよ。将来強くなって故郷のタモンの村に乗り込んでくるって言ってたから。でも強くなれば、多分他に好きな人が出来るんじゃないかな)
【し、しかし、乗り込んで来たらどうするのですか? ミツヒ様】
(それはその時に考えるよ、絶対じゃないし、約束したからね。でもハネカは一番頼れるし好きだよ)
【は、はい、わた、わたしゅもしゅき、好きです、ミツヒ様。お慕いしております】
(ありがとうハネカ、これからもよろしくね)
俺はエレミーヌさんを抱きかかえて大広間に連れて行き体をそっと置く。それを見ていたダークエルフが大騒ぎでヤオデさんを呼んできて、
「おお、エレミーヌ、無事だったか。良く帰って来たものだ。ミツヒが助けてくれたのか?」
「はい、なんとか助けることが出来ました、ヤオデさん。それより先にエレミーヌさんを見てあげてください」
エレミーヌさんをどこかの部屋に連れて行き、しばらくして戻ってくるヤオデさん。
「闇に飲まれていたので2日程は昏睡状態だろう。しかし体も無事だし心身も別条はない、安心したよ」
「良かったです、俺のせいでこんな事になってしまって、ヤオデさん、すみませんでした」
「我らこそエレミーヌを助けて貰って、ありがとう、ミツヒ。で、どうやって助けたのか?」
「闇の精霊に頼んで闇の中に入り、エレミーヌさんを引き上げました。闇は意識との戦いで加護が無ければ、ほぼほぼ無理でした」
「何かお礼をしないといかんな、何か欲しいものは無いか? エレミーヌとか」
「いえいえいえ、タイプですけど、綺麗ですけど、遠慮します。まだ修行をするので何もいりませんよ」
「そうか残念だな、それでは今後この里にいつでも来ることを許可しよう。この里の者とトレントの宿には伝えておく。ミツヒが来た時は宿も見つけやすく泊まらずに入れることを約束しよう」
「それは嬉しいですね、ありがとうございます、ヤオデさん」
「今日も泊まって行くか? 歓迎するよ、ミツヒ」
「いえ、このまま部屋に戻って帰ります」
「寝ているがエレミーヌには会って行かないのか?」
「ええ、辛くなるので、よろしく、言っておいてください。また来ますよ、ヤオデさん」
「そうか、気を付けて、達者でな」
「では失礼します、ヤオデさんもお元気で」
部屋に戻り、ファイガ達と門に向かう。天気も良く澄んだ空気の中、小川のせせらぎを聞きながら花畑の丘を歩いて門に向かう。
門の前で立ち止まり一度振り返り、青空の景色を見てから門をくぐると宿は無く、そのままの森の中だ。歩き進んで行くと霧が立ち込めて、行き先が見えなくなるが、そのままハネカの指示で順調に歩き森を出て道に出る。
そしてターナの町へ




