第25話 テスタロの町3
翌日朝
【おはようございます、ミツヒ様。起床されるお時間です】
(おはよう、ハネカ。んー、今日はまた一段とすっきりした朝だな)
ファイガとユキナは、俺に擦り寄ってはいたが起きている。
さっそく皿にステーキを5枚ずつ乗せる。太るから5枚だけね。それでも喜んで食べているファイガとユキナ。俺は串焼きを食べて帰る準備をする。
(よし、準備も出来たし、帰ろうか)
転移の魔方陣は使わずに走って戻る。避けられる魔物は極力避けて邪魔な魔物はハネカとユキナとファイガに、バリバリ、ドガンッ、ゴゥッ! と一蹴してもらい帰る。速い速いと言っても30階層あるからね、1階層に戻るころは夕方になっていたよ。
その頃にはファイガとユキナは小さいバージョンになっているが、影には入らずにギルドに向かう。ギルドに入ると受付には人が並んでいるので俺も帰還の登録をするのに順番を待つ。しばらくすると順番が来て、
「お疲れ様です、ミツヒさん。登録完了です。」
「ありがとうございます、ルルナさん。それと従魔の登録をお願いします」
「従魔ですか。それはミツヒさんの後ろにいる可愛いワンちゃんとニャンコちゃんですか?」
「はい、そうですけど」
「ミツヒさん、犬や猫は登録しなくても大丈夫ですよ」
俺はルルナさんに小声で、コソッ、と、
「一応これでも従魔なんですけど。フレイムウルフとフロストタイガーです。従来の姿を見せるとちょっとまずいかなと」
「え? えぇ? それは本当ですか? 少しお待ちください」
パタパタと奥に走って行くルルナさん。戻って来たら、
「あちらの部屋にお入りください、ミツヒさん」
部屋に通されると、中にはテーブルとイスがあり座って待つ。ファイガとユキナは俺の横で床に伏せて待っている。そこへルルナさんと一緒に入って来る1人の女性がいる。銀色のアーマーを身に着け、身長170センチ程、ブロンドの髪を後ろで一つに束ね、ダックテイルにしてスタイルも良く筋肉も着いている美人顔、特に胸の暴力的な二つの物が何かを主張しているようだ。俺の目線に気づいたルルナさんは自分の胸を手で押さえ、俺を睨んでいるので目を下に逸らしたよ。
【ミツヒ様は、そのようなものがお好きなのですね】
(いやいや、そんなことはないよ、ちょっと見ただけだから)
【滅んでしまえばいいのです】
(勘違いだよ、ハネカさん、勘違い)
椅子に座り、
「ギルドマスターのシオンだ、よろしく」
「ミツヒです、よろしくお願いします、シオンさん」
「で、ミツヒ、従魔登録するのがその2匹か」
「はい、そうです」
「普通は特に登録に関してはちょっとした試験をして合格すればいいので、ナナルやルルナに任せているのだが、今回は伝説級の魔獣が従魔と言う事だから私が来た。本当にフロストタイガーとフレイムウルフなのか?」
「はぁ、伝説級かどうかは知りませんけど、そうです、シオンさん」
「おい、ナナル」
と声をかけ頷いて奥の部屋に行くナナルさん。すぐに戻ってきたが一緒に体長2m程、体高1m程のサーベルタイガーを部屋の入口に連れてくる。
「このギルドにいる一番強い魔獣だ。従魔ではないが飼い慣らしている。オーガやリザードマンくらいの魔物なら10体は倒せる力がある。このサーベルタイガーで見てみよう」
何をするのかと思ったら力の差を見るらしいので黙って見ることにする俺。サーベルタイガーをユキナ達がいるところに連れて行こうとするルルナさん。しかし、サーベルタイガーが入口に入った時点で動かない。引っ張っても動かない。ユキナ達を無視するかのように外を見ている。そこで俺が、
(ユキナ、力の差を見るんだって)
(かしこまりました、みつひさま)
ユキナがサーベルタイガーに、テテテテ、と近づいて行くと、外を見たまま体がカチコチなっているサーベルタイガー。ユキナがサーベルタイガーの足にチョンと触ると一瞬で腹を見せて寝転がり目を瞑っているサーベルタイガー。そしてユキナは俺の後ろに戻って丸く伏せる。ユキナが離れたのを確認したサーベルタイガーは入口の扉を、ガリガリ、と引っ掻いて部屋から出て行きたいようだね。
それを見たシオンさんは、
「ふむ、本当の様だな。ルルナから今は仮の姿と聞いたが、良かったら本来の姿を見せてもらえないか、ミツヒ」
「ええ、いいですよ、シオンさん」
ファイガ達に目をやり、
(普通に戻っていいよ)
ボフンボフンッ、と大きくなり、艶やかな漆黒の毛に白い斑の毛のファイガと透き通った銀色の毛が妖艶なユキナが姿を現した。あ、ルルナさんがサーベルタイガーに足を取られてひっくり返った。両足が広がって派手な真っ赤なモノが丸見えになっているよ。その横でサーベルタイガーはまだ必死に扉をガリガリやっているし。そしてファイガ達を見ているシオンさんは、
「凄いな、本物の伝説級を見られるとは、それも2体も。おいルルナ、いい加減に赤いパンツ見せていないで座れ。いつも派手だなお前は」
「あ、はい、し、失礼しました、シオンさんミツヒさん」
「で、登録は出来るのでしょうか、シオンさん」
「登録出来るが、その前に一つ聞きたい。どうやって従魔に出来たんだ、ミツヒ」
「俺にもわかりません、ダンジョンで会って、俺の従魔になりたいと意志が伝わってきて名前をつけたら従魔になりました」
「本当なのか? うーん、確かにこれだけ強い魔獣だとそうなるのか、羨ましいものだな。ミツヒ証明書を」
「はい、これです、シオンさん」
「登録するが本当の名前を入れると、どこの町に行ってもミツヒの名前が知れ渡るがいいか?」
「いえ、出来れば内密にしてほしいのですが」
「そうだろうな、私の特権で、ウルフとタイガーで登録しよう。頼む、ルルナ」
「はい、登録してきます」
証明書を持って出て行くルルナさん。
「ミツヒには言っておくが、従魔の正式な名前を入れない場合、ギルドマスタークラス以上であれば相当強い魔獣だとわかるようになっている。門番や受付などではわからんがね。俗にいうギルドの隠語だよ」
「そうなんですか、と言う事は他の町のギルドマスターに証明書を見せたらばれますね」
「それはばれるな、しかし、そのくらいの地位についているんだ、口は堅いさ」
ルルナさんが入って来ると、
「証明書が出来ました、どうぞ、ミツヒさん」
「ありがとうございます、ルルナさん」
「これからどうするんだ、ミツヒ」
「しばらくここのダンジョンにいますよ、シオンさん」
「そうか、何かあったら私のところに来るがいい」
「はい、では失礼します」
ユキナ達には小さくなってもらいギルドを出る。途中の商店や露店で肉料理を買い込んでからレイル亭に帰り、トライトさんに従魔の話をする。トライトさんがファイガ達を見て、
「犬と猫くらいならかまわないよ、飯は別だが料金は同じでいいさ」
「ありがとうございます、トライトさん」
金貨1枚を支払い部屋に行く。そして部屋に入って大きくなるユキナ達。
俺も部屋に入ったら皿を出して、さっき買いこんだレッドバードのから揚げを盛る、山盛りに盛って、
(熱いからゆっくり食べなよ、冷ましてからでも美味しいと思うから)
(アツ、アッ、アツ、ハフハフ、おいひいです、おいひいです、アグアグ、ハフハフ)
(アツツ、ハフ、美味いでふ、ほんと、美味いでふ、バクバク、ハフフ)
熱かった肉が冷めて来たのか、バクバク食べ始める。見ていて気持ちが良いくらい無くなるのが早いね。お代わりは、タレに付け込んだ厚めの焼肉をドサッと山盛りに盛ると、
(これも美味しいです、ミツヒ様、美味しいです、アグアグ)
(本当に美味しいです主様、バクバク)
(うん、わかったから、もういいから静かに食べようね)
(アグアグ、バクバク、モグモグ、パクパク)
食べ終わったら小さくなってベッドの上で横になるユキナ達をおいて、俺は風呂に行く。
それから数日を町で過ごす。
最深層の魔物の復活を待ち、数日がたった日からダンジョンの鍛錬が始まり、行き帰りはもちろん走る。26階層のエルダーリッチからステンノー、エウリュアル、メデゥーサ、ヒュドラと順番に戦い鍛錬していく。往復に2日、鍛錬に2日の4日間で一度戻りまたダンジョンに出かける毎日。
そして数か月後。
ダンジョン26階層
エルダーリッチの魔法攻撃を避け続けている俺。加護があっても鍛錬なので避けるが、そろそろ次に行こうと決めて踏み込み、ハッと袈裟懸けに切るとエルダーリッチは灰になって消滅する。魔剣ギーマサンカの効果だ。
今までは自分の剣で鍛錬したが今日で最後と決めたので魔剣を使うことにした。
27階層
ステンノーの攻撃を受け流す。当初は何度も弾き飛ばされたが、試行錯誤しながら受け方を練習して今では受け流しかたをマスター出来て、蛇の素早い動きにも慣れた。そして、頃合いを見て踏み込み、蛇とステンノーの首を、ハッ! とまとめて切ると消滅した。
28階層
エウリュアルの攻撃もステンノーと同じで蛇の攻撃と槍の攻撃を受け流す。しばらく攻防をしてから、セッ! と水平切りで蛇ごと切断し、エウリュアルは灰になって消滅する。
29階層
メデゥーサの攻撃は石化以外は特化した攻撃がないので可愛そうだが、弓の攻撃を避けて首を、サクッ、と切断し消滅する。
30階層
ヒュドラの攻撃を避け、受け、避け、受け一番楽しく練習になった魔物だ。危ない時もあったけどいい鍛錬が出来たよ。最後は身体加速を使って9個の頭を切り飛ばし消滅した。
魔石も拾ったが袋にまとめ、マジックバッグの中に入れたままだ。
ファイガとユキナは他の階層で魔物を獲ったり、寝そべったりと暇つぶしばかりさせてしまったね。
(ここもこれで終わりだな、ヒュドラも倒せるようになったから少しは強くなったかな)
【お強いです、ミツヒ様。そして次に行く場所があります】
(次に行く場所? ハネカ、どこに?)
【精霊の加護をもらいに行きましょう、ミツヒ様】
(俺が授かった加護は全部じゃなかったっけ)
【全部なのですが、悪魔の闇魔法を見て思い出しました。それは闇の精霊です。他の精霊とは一切関わらず単身で存在しています】
(どこに行けばいいのかな、ハネカ)
【ダークエルフの里です、ミツヒ様。精霊に愛されているのですから大丈夫かと】
(よし、了解。一度戻ってから準備をしようか)
ファイガとユキナを先頭に軽快に爽快に、ビュンビュン、と走って戻る。帰り道では所々で、ドカン! バリバリッ! ドシュ! となるが疾風のように走って戻る。
1階層でファイガ達には小さくなってもらいギルドに行って、いつもの様に順番を待とうとしたら、奥から出て来たギルドマスターのシオンさんに捕まり、腕を組まれると、周囲の目が「何者だ」とか「アイツが何故」とか聞こえたが、そのまま奥の部屋に通され、ユキナ達も後を付いてきて部屋の隅で伏せて待っている。するとシオンさんが、
「まあ、座れ、ミツヒ。ちょっと聞きたいことがあってな」
「何でしょうか、シオンさん」
「最近、ダンジョンで魔石が落ちているらしいのだが知らないか?」
(あ、そうだ、鍛錬し始めてからは拾ってなかったよ)
「し、知っていますよ、俺も何個か拾いました」
「登録日を調べるとミツヒがダンジョンに入ってからと帰って来た後に良く落ちているのだが」
「ぐ、偶然じゃないのですか」
「なあ、ミツヒ。私はエントアの町のドミニクと親友でな、意味が分かるか?」
「げっ。ドミニクさんですか、参ったな」
「以前エントアのダンジョンで魔石が落ちていたが、ある時を境にぱったりと無くなった。そして今はスマルクのダンジョンで落ちている」
溜息を吐きながら俺は、
「はぁー。すみません、シオンさん。鍛錬でダンジョンに入っていたので、ドロップした魔石に気が付きませんでした」
「まあいいさ、実はドミニクから聞いているんだ、ミツヒという村人が来たら魔石が拾えるようになるってな。で、何階層まで行った? ミツヒ」
「に、20階層です。グリフォンと鍛錬しています」
「そうか、もう一度だけ聞くが、本当は何階層まで行ったのか?」
「すみません、シオンさん。本当は26階層のエルダーリッチと鍛錬しています。大事になるのが嫌なんで」
「わかった、ちょっと付き合え、ミツヒ」
(あー、試合だ、試合。確定だな)
【いいではないですか、ミツヒ様の強さを見せつけてやりましょう。事と次第によっては叩き潰してやりましょう】
(ハネカ、それはやめような)
地下の広い部屋に通され、やはり試合をしろと言う事で木剣を渡され、ファイガ達は隅で座っている。
「ドミニクと渡り合ってからこのダンジョンで修行した。なら、さらに強くなったのだろうな」
「自分の強さを量ったことがないのでわかりません」
「いいさ、これから見てやろう、ミツヒ」
「よろしくお願いします、シオンさん」
「私が勝ったらミツヒ、お前は私の恋人だ、約束したぞ」
【何をトチ狂ったことを言っているのでしょうか、この女は】
無視する俺。構えるシオンさん。
シオンさんが攻撃魔法を撃とうとしている軌跡が見えて、
(うわ、魔法だ、本気だよシオンさん)
ファイヤボールを撃って来たが軌跡を見て避ける。加護があるので大丈夫だが一応避ける。連射で撃って来たが全て避ける。回り込んで近づくと、シオンさんが身体加速で踏み込んできた。
シオンさんが撃ち込む 「カンカンカカカン」
受ける俺
俺が返す 「カンカンカンカカカカン」
受けるシオンさん
すぐに撃ち込むシオンさん 「カンカンカカカカカカン」
受ける俺
俺が返す 「カンカンカカカカカカッ」
受けきるシオンさん
強めに撃ちこむシオンさん 「ガンガンガガガガガガッ」
受けきる俺
すかさずシオンさんがファイアボールを撃ってくるが避ける。さらにフレイムを撃ってくると俺は受け止め炎に包まれる。それを見て焦ったシオンさんに炎の中からシオンさんに向けて踏み込んで首元に木剣をスッと添えると。シオンさんは木剣を下げて、
「参った、降参だ、ミツヒ。炎耐性があるとはな」
「すみません、シオンさん」
「いいんだ、強いなミツヒは、鍛錬も伊達じゃないな。何故、冒険者にならないんだ?」
「冒険者なんてとんでもないです。村人で十分です」
「そこまで強くなって何になるんだ、ミツヒ」
「ええ、まあ、一応、俺の夢があって修行をしています」
「何の夢だ、良かったら聞かせてくれないか」
「言ってしまったら叶わなくなりそうだから言えません、シオンさん」
「そうか、無理には聞かないさ」
「それじゃ、失礼します、シオンさん」
「ああ、帰還の登録はしておくからそのまま帰っていいさ」
「ありがとうございます」
そのままギルドを出てレイル亭に帰り、ユキナとファイガに肉をあげて俺は風呂に入る。疲れたので夕食を食べてさっさと就寝。
翌日朝
次回も、よろしくお願いします。




