第23話 テスタロの町1 「ダンジョン」
翌日早朝
俺はまだベッドから出ていない。起きてはいるが、横になったままだ。それは、小さくなったファイガとユキナが俺にくっ付いて寝ているのが可愛らしく、気持ちいいから。
そして、名残惜しむようにゆっくりと起きると、
(おはようございます、みつひさま)
(おはようございます、あるじさま)
(おはよう、ユキナ、ファイガ)
ファイガとユキナを影に入れて食堂に行きテーブル席に座ると、トライトさんが朝食を運んで来て、
「昨日、好評だったらしくて、今日もパンにしろ、と言う客がいてな、連日だが勘弁してくれ」
「いえ、俺もこのパン、気に入りましたよ。気にしないでください」
「すまないね、ありがとよ」
昨日と同じパンだった
外はサクサクで中はモッチモチの暖かい果実の甘煮込み入りのパンを美味しくいただいた。
レイル亭を出て、肉を買い出しに行くが朝早いので心配だったが開店していた。他にも買っている人がいて冒険者なのかダンジョンに入る人達なのか、干し肉を購入している人が多かったな。俺も商店や露店を回り、肉料理を買い込んでからギルドに向かう。
ギルドの中はダンジョン入りする冒険者で混んでいたが、俺も後ろに並んで受付の順番を待っていると俺の番になった。
「おはようございます、ダンジョン攻略ですか?」
「はい登録お願いします。証明書です」
「ミツヒさんですね。ああ、先日の方でしたか、今日からですね、お気をつけて」
「ありがとうございます、ルルナさん」
ギルドを出てダンジョンに歩いて行く。途中の道に並ぶ露店には、干し肉や必要な道具、まがい物のようなアイテムなどが売られていて、これからダンジョンに向かうであろう冒険者が店主と「まけろ」とか 「それくれ」とか交渉していて活気があるね。ダンジョンの入口に着いたが並んでいるので俺も列の最後尾で順番を待つ。しばらく順番を待っているときに後ろから声を掛けられた。
「兄ちゃん1人か? だったら3階層まででやめておいた方がいいぞ、少なくとも俺たちの様に3人はいないと厳しいし死ぬぞ。って、エントアにいた兄ちゃんか」
【馬鹿です、あの馬鹿どもです】
「お久しぶりですね、ご忠告ありがとうございます、無理しませんよ」
「今度はテスタロのダンジョンで挑戦か。良かったら一緒に行くか?」
【アホです、やはりアホどもです】
「いえ、1人が慣れていますので」
「そうか、こっちでも焦らずがんばれよ」
「はい、ありがとうございます」
【やはり捻り潰しますか? ミツヒ様、こう、クイッ、と】
(いや、だからそれはやめような、ハネカ。エントアでもそうだったけど、親切で言ってくれたんだよ)
【畏まりました、ミツヒ様がそう仰るのであれば】
順番が来て、ダンジョンの中に入ると懐かしくも感じ奥に進んで行く。薄暗いけど俺は夜目があるし、ファイガ達も、見える、と行っていたし、全く問題ないようだね。そして下に降りてダンジョン攻略の開始だ。
1階層
まだチラホラと人がいるがゴブリンやトロールと戦っている最中なので、邪魔にならないように走り抜けることにした。
2階層
周囲感知で人の気配を調べて影からファイガとユキナを出して、
(今日はファイガとユキナの実力も見ながら潜ってこうと思うんだ。でも、まだそのままの状態でいるように、まだ他のパーティにも会うかもしれないからね)
(はーい、みつひさまー、がんばりまーす)
(はい、あるじさま、われのちからをおみせします)
【それでは私はしばらく見物する事にします、ミツヒ様】
(そうだね、でも危ない時はよろしく、ハネカ。それじゃ行こうか)
ファイガとユキナは楽しそうに、スタタタタッ、と走ってダンジョンを進み、後を追う俺。
3階層
ファイガとユキナは楽しそうに、スタタタタッ、と走ってダンジョンを進み、後を追う俺。
キャタピラなどの魔物がいない。
4階層
ファイガとユキナは普通に、スタタタタッ、と走ってダンジョンを進み、後を追う俺。
スパイダあたりの魔物がいない。
5階層
ファイガとユキナはつまらなそうに、スタタタタッ、と走ってダンジョンを進み、後を追う俺。
リザードとかの魔物がいない。
(ハネカ、魔物がいないぞ、何かおかしくないか?)
【それは多分、ファイガとユキナのせいでしょう。魔物や魔獣は、威圧の強さに差があればあるほどそれを感知して隠れて出て来ません。弱肉強食の世界ですから】
(それじゃ、ファイガとユキナが強すぎて魔物が出てこないのか、凄いな)
6階層
奥から体長5m程のキングウルフ5体が現れた。キングウルフは、小さいファイガとユキナを見て後ずさりして逃げた。
(こりゃダメだな、早く進もうか。ファイガ、ユキナ、従来の大きさになっていいよ)
ボフンッボフンッ、と普通の状態になって進んで行くと、今度は走る速度が速い。従来はこんなに速いのかと感心したよ。疾風のように軽快に走るファイガとユキナ。その後を追走する俺。
7階層
グレーバタフライが奥にいたが、逃げるよりも速く、ファイガがフルフレイムで、ゴウッ、と燃やし尽くして進む。
8階層
スケルトンナイトが6体現れたが躊躇するまもなくユキナのアイスランスで、ドドドドッ、と粉砕して進む。
9階層
ミノタウロスとミノタウロスウォーリアが2体づつ現れたが構える間もなく、ファイガのサンダーストームで、バリバリッ、と黒こげにして進む。
10階層
サイクロプス5体が現れたが、ユキナのアイスカッターで、ヒュンヒュンヒュン、サクサクサクッ、と体をばらばらにして倒したがこれはちょっとグロいかも。でも気にしないでさらに進む。
11階層
(ちょっとストップ。ファイガ、ユキナ、次の魔物は魔法攻撃しないで戦って見て)
(畏まりました、ミツヒ様)
(承知しました、主様)
ロックベアーとダークグリズリーが3体づつ現れた。ユキナがロックベアーに向かって行き、ファイガがダークベアーに向かって行く。
ロックベアーが一斉に爪攻撃と牙攻撃を仕掛けてきたが、スルスルッ、と優雅に避けて爪斬で、スパパパッ、と倒した。ファイガもダークグリズリーの攻撃を、サラサラッ、と滑らかに避けてやはり爪斬で、スパパパッ、と倒して先に進む。なんと言うか、何にしても強いね君たちは。
12階層
ブラッドバットとファントムクロウの大群がいた。ここはユキナに任せて、アイスランスブリザードで、ゴアァーッ、と殲滅して先に進む。
13階層
あのブブブブブブブブブブッのジャイアントキラービーは、ファイガに任せて、フルフレイムで、ゴウゥッ、と焼き尽くしてもらって奥に進む。
14階層
ポイズンスネーク2体とグレーワインダー1体が現れ、俺は、ユキナにスキルの風爪を見せてもらうと、ウインドカッターと同様の攻撃がポイズンスネークに、スパパパパパパッ、と当たり蛇の輪切りの出来上がりだ。そして次に進む。
15階層
キングアナコンダとポイズンコブラが出てきたが、今度はファイガに風爪を見せてもらうと、やはり、スパパパパパパッ、と蛇の輪切りの出来上がりだ。毒や麻痺の耐性があるとなしでは倒し方が全く変わってくるけど、魔物がなんだか弱すぎだよ。でも気にしないで次に進もう。
16階層
ブラックスコーピオン6体が現れた。皮膚の硬いやつだ。
(ファイガ、ユキナ、あの魔物も魔法無しで戦って見ようか)
(畏まりました、ミツヒ様)
(承知しました、主様)
ファイガとユキナは軽快に爽快に、ブラックスコーピオン6体の関節を狙い、無駄のない攻撃で、サックサク、と爪斬で切り離して倒したよ。
(ファイガ、ユキナ、この魔物の倒し方知っているのか?)
(こんな虫けらなんともございません、主様)
(こんな虫まったく気にしません、ミツヒ様)
(あ、虫ですか、失礼しました…………先に進もうか)
17階層
ジャイアントロックアントが7体現れた。ファイガとユキナには下がってもらい、ここは俺にやらせてもらおうかな。俺は、ジャイアントロックアントに向かってスキルの身体加速を使い、サンサンサンサンサンサンサンッと切り伏せた。特に何か変わったことも無く戦ったつもりだったが、ハネカが、
【素晴らしい身体加速でした、ミツヒ様。一瞬の攻撃でした】
(え? 普通に切り飛ばしていっただけなんだけど)
【身体加速発動時は、ミツヒ様が普通に行っても加速しているので周囲には一瞬の出来事になります。また、このスキルは連続では使えませんのでご注意を】
(なるほど了解した、ハネカ。いざって時に使うよ)
18階層
グリーンアリゲーターとアリゲーターファングが現れた。ファイガがグリーンアリゲーターにライトニングを、バリバリッ、と放ち黒焦げにして倒し、ユキナがアリゲーターファングをアイスランスで、ズドドッ、と串刺しにして倒し、先に進む。
19階層
体長3m程の、ライオン? 尻尾が蛇? 体は虎? なんかいろいろと混ざっている魔物が現れたよ。
(ハネカ、なんだ? あの魔物は)
【キマイラです、ミツヒ様。多重合成魔物で毒と麻痺もあり再生します】
(ふーん、ちょっとファイガ、あれにファイヤランス撃ってみて)
ゴヒュッ、ドカンッ、とキマイラに刺さり黒こげになる、がみるみる再生する。
(今度はユキナ、あの蛇の尻尾を切ってみて)
アイスカッターで、ヒュンッ、サクッ、パシャ、と尾が切り落とされるが、すぐに尻尾が生えて来る。 ふーん、と確認だけしてキマイラに向かう俺。爪攻撃を避け、蛇攻撃も避け、牙攻撃を、ギインッ、と剣で受け流し水平切りで前足を、ハッ、と両断し、ストンッと頭が落ちて来たところを、セィッ、と首を切り落とし倒す。最近この手の魔物は、この倒し方が一番簡単かなと思う俺。ここまで色々魔石は落ちていたが拾わなかったので、せっかくだから今回は魔石を拾って先に進もう。
20階層
入ってすぐに横穴があり、入るとセーフエリアになっていて、ユキナとファイガが入っても十分余裕がある広さだ。俺も中に入って、
(ハネカ、腹も減って来たし、そろそろ夕方くらいかな)
【はいその通りです、ミツヒ様。夕方を少し回っています】
(じゃ、今日はここで休もうか、ハネカ頼む)
【畏まりました、ユキナとファイガもこっちへきなさい。クリーン!】
(ふう、すっきりした、さて次はと)
ハネカに、俺たちのいる場所にも、クリーン、を掛けてもらい、マジックバッグから皿を取り出して床に置き、二つの皿にステーキを20枚づつ盛って、
(遠慮しないで食べていいよ、ユキナ、ファイガ、どうぞ)
待ってましたとばかりに、皿に向かいバクバク食べ始めるとユキナが、
(美味いです、ミツヒ様、ハグハグ、美味しいです、アグアグ)
続いてファイガも、
(バクバク、美味いです、ほんと美味いです、主様、バクバク)
(まだ沢山あるからね、遠慮しないでいいよ)
しかし、俺はステーキ1枚とか串焼き1本とかだけど、体がデカいって大変だよな。と思いながら串焼きを食べながらファイガ達を見る。すぐに食べ終わりそうなので、レッドラージの串焼きの串を抜いて用意していたよ、30本づつね。食べ終わったところにドサッと盛ったらまた嬉しそうに、美味い美味い、とバクバク食べるファイガとユキナ。
そして今のうちに寝床の用意をしておかないとね。俺は、マジックバッグから敷き布団を3枚出し、寝る場所をハネカの、クリーン、を掛けてもらってから敷く。2枚の布団は大きく、あの巨体が寝られるくらい大きい敷き布団を買ったよ。寝ている時に、ファイガとユキナのデカい体がぶつかって邪魔になるだろうと等間隔に2m程離して敷いた。
食べ終わって満足していたユキナとファイガに寝る布団を指定すると、その布団の上で丸くなり、
(ミツヒ様、これはベッドと違いますが、これも気持ちがいいですね)
(床が柔らかいと寝心地も良くなります、主様)
(それは良かったよ。じゃ、休もうか、おやすみ)
寝ようとしたら、ゴソゴソ、と何やら起き上がり動くユキナ。何をするのかと思えば、敷き布団を銜えて俺の横に引きずり敷き直している。位置が決まったのか俺の体にピタッと体を密着させて満足げに丸くなり寝始める。
それを感じたファイガも、同じように反対側から布団を寄せて俺に密着させて寝始める。確かに、フッサフサ、して気持ちはいいが、巨体に挟まれて寝るのはちょっと窮屈だよ。まあ仕方がないか、さ、寝よう。
(おやすみ、ハネカ)
(ごゆっくりお休みください、ミツヒ様)
翌日早朝
次回も、よろしくお願いします。




