第21話 ベルタル山1 「討伐と魔族」
翌日早朝
食堂に行くと、ダンジョンに行く人だろうか、混んでいるが空いているテーブル席に座ると、トライトさんが朝食を運んできた。レッドオークの肉を細切れにしてこねてあり、直径10センチ、厚さ1センチ程にして固めて焼いてある。それを、野菜の敷いてある平丸いパンで挟んで赤茶色いソースが掛かっている。付け合せはジャガイモを細切りにして揚げてあり、塩が掛かっている。普通に美味かった、うん、美味かった、手で持って美味しくモグモグ頂いたよ。
レイル亭を出て、門に向かい、門番に証明書を見せてテスタロの町を出ると、北に行く道があり、少し行くと森がある。その森を抜けると荒れ地になっているベルタル山に続いている道。
周囲を森に囲まれ、標高1000m程の荒れた瓦礫の山で草木も生えていない休火山。視界も悪くないので魔物もあまりいないがたまに岩系の魔物が出るらしい。これと言って何もない山なので誰も行かない山だが、この山を経由すればテスタロの町からスマルクの町に続いている。
ベルタル山には馬車で2日ほどかかるが、やっぱり走る。森をスイスイと走り抜け、荒野をスイスイ登って行く。昼にかかるころ山頂付近に着いて辺りを見回し、
(着いたけど何にもないな、荒れ地だけだ)
【ミツヒ様、山の裏手に魔物が3体います】
(そうか、ありがとうハネカ。んじゃ、回り込んでみよう)
走り出すと俺の目にも点滅が3つ出たので、ゆっくりそろそろと行くと体長3m程の3体のワイバーンが休んでいるようだ。
(あれがワイバーンか、デカいけどドラゴンとも違うし、蝙蝠とも違って中途半端だな)
【あの魔物は、飛び回りながら上から炎を吐き、風魔法を使います】
(あ、飛び回られたら俺も倒しづらいな。ってか、無理だよ。でも、ワイバーンって凶暴なのか?ハネカ)
【はい、奴らの対象になれば、魔物、人、町等、関係なく見境なしに攻撃してきます】
(あ、それは倒さないといけないな。1体は俺が奇襲で行けそうだけど)
【それでは、残りは私が即座に叩き潰してやります、ミツヒ様】
(あ、それはやめよう、俺の鍛錬にならないよ。だったら飛ばないようにしてほしいな)
【畏まりました、それとミツヒ様、奴らの皮膚は硬いので攻撃は少し強めにした方が宜しいかと】
(了解、よし、やるか、まず一番手前の1体からだ)
俺が、手前のワイバーンに健脚と豪脚で、スッ、と近づき、首を、セイッ、と強めで切断して倒した。その直後俺に気が付いたワイバーンにハネカのファイヤランスが、ズドドドドッ、と2体のワイバーンの両翼を打ち抜いた。
【完了いたしました、奴らはもう飛べません、ミツヒ様】
(ありがとう、さて、どれだけ強いのかな)
飛べなくなったワイバーンに近づくと2体がウインドカッターを連射してきたが心眼の軌跡を見て、スッスッスッ、と避ける。さらに近づくと炎を吐いてきたがそれも、タタタッ、と走って避ける。踏み込んで行くと牙攻撃がきたので、剣で、ギンッ、と受け流して首を、ハッ、と切断し倒す。残りの1体も牙攻撃をしてきたので、剣で受け流して首を袈裟懸けに、フンッ! と斜めに切断して倒した。そこには青くキラキラした魔石が2つ出たのでマジックバッグに入れる。
(ワイバーンは飛べるから強くて手ごわいんだね、飛べないとなんだかあっけないな、これならミノタウロスやギガンテスの方が強いんじゃないかな)
【それはミツヒ様のお力かと】
(いや、ハネカに翼を攻撃してもらったからだよ、飛んでいるワイバーンだったら俺は攻撃を避けるだけで何もできないからさ)
【それでも倒したのはミツヒ様です】
(それはそうだけど、ん?)
【ミツヒ様、火口付近に魔物がいます。今の戦闘で動きがあったようです、数多数】
(火口に魔物が? 隠れていたのかな。うわっ、点滅があんなに。でも行ってみるか)
火口に向かって走り、見つからないように点滅を確認しながら避けて登ると岩陰に隠れ覗き見る。そこにはオーガ、トロール、リザードマンなどの魔物が200体ほど群れていた。その魔物達の向いている先には1体の、いや、1人の男が立って何かを指示している。身長2m程の黒い服を着て剣を差し、背中にはワイバーンに似ている翼が生えている。
【あれは魔族です。今のミツヒ様ではあの魔族には勝てません、引き下がったほうが宜しいかと】
(でも、あの魔物が人を襲ったらどうする?)
【はい、御察しの通りで、どこかを襲撃するようです】
(それはなんとかしないと。ハネカ、あの魔族は話は出来るの?)
【人と同じ知能はあります。それと、辺境に魔族の国があり、そこから来たのでしょう】
(あの魔族と話をしてみようと思うけど、どうだろう、ハネカ)
【私は賛成できかねますが、ミツヒ様がそうされるのでしたらお引止めしません】
(ごめんな、迷惑かけるようで、でも行ってみるよ)
【畏まりました、最大限お守りいたします、ミツヒ様】
俺は魔物の群れに歩いて、普通に歩いて近寄って行く。それに気づいた魔物が吠え始めると、一斉に俺を威嚇する。魔族も俺に気が付いたので、俺に向いた魔族が、
「貴様何者だ! 何しにここに来た!」
「俺はミツヒ! 単なる村人だよ! 出来れば襲撃なんて止めてほしいんだけど」
「あぁ? 村人だ? 何を戯けたことを言っているんだ。この群れを見てここに来るとは馬鹿かお前は。それに何故襲撃の事を知っている!」
「それを聞くってことは本当の様だな。中止して貰えば俺はこのまま帰るんだけど」
「何をほざくか! このまま帰れる訳ないだろう。殺せ!」
その魔族の一言で、魔物の群れが一斉に俺に襲いかかる。
(やっぱりだめか、ハネカよろしく頼むよ)
【畏まりました、ミツヒ様、お守り致します】
俺は魔物に向かって走り出し、一斉に来る軌跡を見定めながら避けて切る、避けて切る、受け流し切る。そこへハネカが俺に向かって、
(フルフレイム! ミドル! サンダーストーム! ミドル!)
ドカーーーン! バリバリバリッ! と俺の周囲20m程の範囲の魔物だけ黒こげになって燃え尽きるが、精霊の加護の力で俺の回りだけ何もないように避けている。続けてハネカは、
(ファイヤランス連撃! ライトニング連撃!)
ドドドドドドドドドドドッ! バリバリバリバリバリッ! と魔物が燃えて弾け、打ち抜かれ、ハネカの攻撃魔法は数回繰り返されハネカの蹂躙により殲滅。俺はというと10体ほど倒しただけ。
しかし、それを終始見ていた魔族は動じていない。
「中々やるようだな、しかし、雑魚とはいえ、俺が飼い慣らした魔物達をこうも簡単に殲滅させられるとは、許してはおけんな」
ヒラリと飛んで来る魔族。するとハネカが、
(炎と風の攻撃魔法が来ます、ミツヒ様)
「ファイヤトルネード!」
ゴウーッと炎の竜巻が俺に落ちてきた。が中にいる俺は何ともないので、踏み込んで魔族に切りかかるが後方に飛ばれ、かわされる。
「なるほどな、強い耐性を持っているか……加護か、ならこれはどうかな」
(土と氷の攻撃魔法がきます、ミツヒ様)
「グランドアイスランス!」
左右の地面に太い氷の棘が何百と生えたと思ったら、俺を中心に土の壁が本を閉じるような勢いでバキャッ!と挟み込んだ。そして土が崩れ落ちるとそこには塵一つ着いていない無傷の俺がいる。そこにハネカが、
【行きます、ライトニング連射!】
バリバリバリバリッ! と魔族に当たる。が何ともない。その直後に放ったファイヤランスも同じだった。
【あの魔族は強いシールドで自分を守っています、ミツヒ様。闇の攻撃魔法が来ます、避けてください。シールド!】
「つまらんな、ダークランス!」
軌跡が出て黒い槍が来るが避ける、が軌跡が動き避けきれない。バキッと俺の手前で止まった。ハネカのシールドに守られたが、シールドを突き破り刺さっている。攻撃の軌跡が動くとは追尾する魔法だろうか。
【次も避けてください、ミツヒ様! シールドマックス!】
「ダークランス!ストーム!」
嵐の中を無数の黒い槍が俺の回りをもの凄い速さで、ゴォォーッ、と飛び回ったと思ったら一斉に俺に向かって飛んで来る。これは無理だ、避けきれない、と思った俺は剣を構える。
バキバキバキッ、とハネカの強いシールドに守られているが、すぐに亀裂が入りシールドに突き刺さり始める。あと十数本残したところでシールドは砕け散って黒い槍が俺に飛んで来る。何とか剣で撃ち落とそうとしたが、やはり全部とはいかず両足と鎧の無い脇腹に、グサリ、と突き刺さり、反動と痛みで倒れこんだ。黒い槍は胸と背中にも刺さったがオリハルコンを編みこんである鎧のお陰で傷もなく致命傷を免れた。この槍には毒と麻痺が入っている様だが耐性があるので、今あるのは激痛だ。槍は消えてなくなり傷口から血が噴き出ると、ハネカが、
【ヒール! 大丈夫ですか、ミツヒ様】
淡い光が両足と脇腹の傷口を塞いでいき、綺麗に治る。
(フゥ、楽になったよ、ありがとう、ハネカ。だめだな、ハネカの言った通り魔族には勝てないや)
【いえ、まだ攻撃魔法を撃てます、ファイア】
(ハネカッ! もういいよ、ごめんな俺のわがままに付き合ってもらって。鍛錬も足りないのに調子に乗った罰かな。こんなに弱いなんて、情けないよ)
【そんな、ミツヒ様、そんなことはありません、私の力不足です】
(いいんだ、自業自得ってやつさ)
魔族が座り込んでいる俺に近づいて来ると、
「ふん、回復魔法か。多少期待したが、その弱さで俺に楯突くとはな残念だよ。ミツヒ……と言ったか」
「楯突くつもりは無かったけど、結果はこうなったな」
「殺す前に聞いておく、お前は何故俺が襲撃することを知っていた」
「いや、知らなかったよ、魔物が群れでいたんで、お前に、カマ、をかけただけさ、そしたらその通りだっただけ、それに、ここに来たのはワイバーンを倒しに来ただけで偶然さ」
「あの3体のワイバーンか。お前は村人といったな、何故村人ふぜいがワイバーンを倒しにここまで来る」
「俺の鍛錬、修行のためさ、強くなりたいと思ったから、でもここまでみたいだな」
「ふん、覚悟はできているようだな」
「ここでいう言葉は、くっ、殺せ、だな」
俺は、座り込んだまま目を逸らさず魔族を見て言う。
魔族は剣を抜いて俺を切ろうとしたが、動こうとしないで止まっている。魔族を見ながら俺は、
「どうしたんだ、俺を殺さないのか?」
魔族は剣を鞘に納めると、
「俺の飼いならした魔物の群れを殲滅させた奴を簡単に殺すのはつまらんな。覚悟が出来ている奴も尚更つまらん」
「ならどうするんだ、奴隷にでもするのか」
「そんなことはしない、お前はこのまま生かす事にする。何故お前が生かされたか考えるんだな。俺の名はシバン、アークデーモンのシバンだ、覚えておけ。ミツヒの名は覚えておく」
北の空に飛んでいくシバン。しばらく見ていたが見えなくなったのを確認して俺は、体の力が抜けたように、ヘタッ、となってハネカに治してもらった脇腹の傷辺りをさすりながら、
(ふぅー、命拾いしたな、これこそ生きた心地がしなかった。という心境だな)
【本当に本当です、ミツヒ様。あの魔族の気まぐれで助かりました。奇跡としか言いようがありません】
(魔族は強いな、シバン……だっけ、アイツを超えるくらい強くなりたいな)
【申し訳ありませんでした、ミツヒ様をお守りできずにとんだ醜態を晒すとは、うぅぅ】
(良くやってくれたよ、ハネカは。本当にありがとう、ハネカ。 大好きだよ)
【滅相もございま、え? な? ミツヒ様? 今、うえ? えぇぇぇ?】
(ハネカも女性でしょ、綺麗な声だけしか聞こえないけど、いつも一緒で俺を支えてくるからさ、純粋な気持ちだよ。 大好きだよ、ハネカ。 これからもよろしくな)
【わ、わ、私もミツヒ様を、とても、とてもお慕い申しておれれます、おります】
(それとさ、様、はやめようよ、いまさら様はいらないよ、呼び捨てにして構わないからさ)
【滅相もございません、私がミツヒ様にそのような】
(急に言っても無理だろうから、いつでも呼び捨てでいいよ)
そして立ち上がると。俺の頭の中で、ピーン、と鳴り響いた。また何か変わったのかと思い待ってみたが何も起きなかった。そう、俺には。
【ミ、ミツヒ様、あの、私……進化しました】
(さらにレベルアップしたのか、ハネカ。凄いな。見せてもらうよ)
ハネカのステータスウインドウを見ると、
ステータス
【 名 前 】 ハネカ
【 年 齢 】 ―
【 天 職 】 心 眼
【 種 族 】 ―
【 称 号 】 最愛なるミツヒの心眼
【 体 力 】 310000000
【 魔 力 】 310000000
【 魔 法 】 攻撃魔法 炎撃魔法 ファイヤランス連射
フルフレイム ヘルフレイム
雷撃魔法 ライトニング連射 サンダーストーム
サンダートルネード サンダーフレア
氷雪魔法 アイスランス連射
アイスランスブリザード
アブソリュートゼロ アイスカッター
爆撃魔法 エクスプロージョン フレアストライク
焼失魔法 メテオ
回復魔法 ヒール ポイズリムー パラライリムー
アンバインド
再生魔法 エクストラリカバー
防御魔法 アブソリュートシールド シールド
生活魔法 アクア ホットアクア クリーン ブロアー
土魔法 グランウォール グランディッグ
【 スキル 】 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 夜目 気配感知
従魔召還 幻影耐性 気配遮断 身体加速 呪耐性
【固有スキル】 スキル付与 心眼
(いやまた、何と言うか、凄いね、体力魔力、特に攻撃魔法が。これこそ無敵ですねハネカさん。で、なんですか、最愛なる、って)
【ウフフ、ミツヒ様をお守りできずに後悔し、ミツヒ様に告白されて進化しましたから】
(本当かな、ん、シールドも強化されてるね、これならシバンの攻撃も耐えられそうだな)
【そうですね、では早速ミツヒ様にスキルを付与します。スキル! 体力、身体加速、気配遮断、幻影耐性、呪耐性 従魔召還付与! はい、終了しました】
何も感じなかったけど、俺のステータスウインドウを見ると
ステータス
【 名 前 】 ミツヒ
【 年 齢 】 17歳
【 職 業 】 村人 農民
【 種 族 】 人族
【 称 号 】 ≪心眼に愛される者≫
【 体 力 】 40000
【 魔 力 】 20
【 スキル 】 健脚 瞬脚 剛腕 金剛 夜目
気配感知 気配遮断 身体加速
毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 幻影耐性
呪耐性 従魔召還
【 従 魔 】
【固有スキル】 ≪ 心眼 ≫
【 加 護 】 水の精霊の加護 土の精霊の加護
風の精霊の加護 火の精霊の加護
雷の精霊の加護 氷の精霊の加護
(これじゃ、何だか俺も普通の人じゃないな。で、愛されるって、何?)
【ウフフ、気にしないでください、ミツヒ様ならまだこれくらいではダメですよ】
(そうだな、魔族を退けるくらいにならないとな)
【これで私も少しはお役にたてそうです、ミツヒ様。大好きです】
(ハネカが居なかったら今の俺はいないよ、さ、帰ろうか)
受けた傷も回復しているので、何事も無かったように走ってテスタロの町に戻り、門番に証明書を見せて町に入るころには夕方になっていた。
レイル亭に帰り風呂に入って疲れを癒し、食堂へ行き空いているテーブル席に座ると、トライトさんが食事を運んでくる。今日の夕食はレッドラージのホワイトシチューだ。肉も一口サイズがゴロゴロッと入って、人参やジャガイモも入っている。一口食べるとうーん、柔らかい肉にシチューの味が染み込んで肉の旨味とマッチしていて美味い。野菜も火が通っていて、ホクホク、と柔らかく美味い。ハグハグ食べた、ホクホク食べた。
夜はいつものようにベッドで横になり、
(なあ、ハネカ。俺のステータスに付与してくれた中で、従魔召還ってあるけど)
【はい、ミツヒ様に仕える魔獣を召還します】
(俺に従ってくれるの? 魔獣が?)
【もちろんです、ミツヒ様。今も召還されたがっている魔獣がいます】
(俺を待っている魔獣なんているんだ。でも、召還しても大丈夫か?)
【全く問題ありません、そこらの低俗な魔獣と違い、スキルと言いますか特技を持っていますのでご安心ください】
(じゃあ、出たがっているんなら明日にでも召還してみるか)
【それが得策かと思われます、ミツヒ様】
(よし、んじゃ明日だね。寝るよ、おやすみ、ハネカ)
【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】
翌日早朝
次回もよろしくお願いします。




