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第18話 ノエルの森からエントアの町へ  

よろしくお願いします。

翌日早朝

 誰もいない広間で俺は朝食の果物を食べている。エルフの朝食は果物だけのようで健康的だね。これはこれで、シャクシャクモグモグ、と美味しく食べた。

 食べ終えた頃、メアーネさんが手に何かを抱えて広間に入って来て、


「おはようミツヒ、ゆっくり出来たかな」

「おはようございます、メアーネさん、はい、お陰様で」

「それはなにより。それとミツヒから預かっていた装備を返すよ」


 メアーネさんが皮の装備を俺に返してくれたけど、見た目は預けたときと同じで何も変わっていない、ごく普通の装備のままだ。するとメアーネさんは、


「普通の皮の装備に見えるが、皮の中にはこの里の技法でオリハルコンを編みこんである。これでミスリル以上の強度があるはずだ。エリセの父、ヨナニクが中心になって、お礼に、と徹夜で作ったものだよ」

「オリハルコンですか、そんな凄いものいただいていいんですか?」

「装備を強化しただけだ、そもそもそれはミツヒの物だよ。それにミツヒの剣に見合う装備にしないと釣り合わんだろうし」

「ありがとうございます、メアーネさん。知っていたんですか? 俺の剣の事」

「これでも里の長だからな、偽装くらい見抜けるよ、だから皮の装備も偽装した。オリハルコンの鎧よりは強度は落ちるがな」

「十分ですよ、ありがたく使わせてもらいます、ヨナニクさんにお礼を言わないと」

「疲れて寝ているよ。この技法は極度の集中力が必要だから、出来上がると同時に睡魔が来て2日間は目を覚まさない。私が伝えておこう」

「すみません、お願いします。で、俺はこのまま里を出ようと思います」

「エリセには会って行かないのか? ミツヒ」

「顔を見ると寂しくなりますからこのまま帰ります」

「そうか、私も里の仕事があるからここでお別れだな。またいつでもこの里に来ればいい、歓迎しよう」

「お世話になりました、メアーネさん。これで失礼します」

「達者でな、ミツヒ」


 メアーネさんと別れ、エルフの里に入って来た門に向かって歩き出し、


(エリセも父親に会えたし、加護も授かったし、装備も強化してもらったし、風呂も良かったし、言う事無しだよ、楽しかったな)

【無敵に成りつつあります、素敵ですミツヒ様】

(無敵だなんて、まだまだだよ、ハネカには助けて貰っているけどね)

【精霊の加護の力は大きいです】

(そんなに凄いの? 普通に授かっちゃったけど)

【それはミツヒ様だからいいのです。  ハッ!  早く帰りましょう、早く】

(え、そんなに急かさなくてもいいだろう、ハネカ)


 と言いながら門まで来たら、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。


【チッ、エルフが来ました、ミツヒ様】


「ミツヒ様――! ミツヒ様―! 待ってくださーい!」


 エリセが走って俺に向かって来る、向かって来る、向かって来た。避けることも出来たが予想通り抱きついてきた。そしてキスしてきた。無抵抗な俺は、ホールド、されてキスされている。でも泣いているエリセ。そして気が済んだのかゆっくりと離れる。しかし、キスの耐性が出来ているのだろうか、冷静になっている俺。


【だから、早く行きましょうと申し上げたのに、ミツヒ様は。グヌヌ】

「うえーん、行ってしまうのですね、ミツヒ様、ぐすっ。私に内緒なんて酷いです」

「エリセに会ったら俺も悲しくなるからね、ごめんな」

「私はミツヒ様にとって魅力が無いのでしょうか」

「そんなことはないよ、可愛いし十分魅力的な女性だよ」

「私は……ミツヒ様が大好きです。ずっとミツヒ様のお傍に居たいです」

「ごめんなエリセ。俺はまだ修行中で鍛錬が足りないからエリセを守ることになると集中力が欠けてしまう、だから一緒には連れて行けない。でも、メアーネさんがいつでも来ていいと言ってくれたから、里の近くに来たらエリセに会いに来るよ」

「本当ですね約束ですよ。私、強くなります。私も、剣も魔法も練習して練習して、ミツヒ様にご迷惑かけないように強くなります、ミツヒ様のお傍にいられるように」

「え? うん、強くなる事は良いことだよ。奴隷狩りにも負けないようにね」

「もしミツヒ様が里に来てくださらなかったら、私が強くなって迎えに行きますね、ミツヒ様」

「それは強くなってから考えような、その時にはエリセに好きな人が出来るかもしれないだろ、それに何年先かは決まっていないけど、修行が終わったら北の外れにある俺の育ったタモンと言う村で暮らすから」

「聞きました、しっかり聞きました、タモン、タモンの村ですね、では父にお嫁の話を」

「ちょ、ちょっと待てエリセ、だから、まずは強くなること。まずはそれから、それから考えろ」

「そうですね、はい、わかりました、ミツヒ様。私の事は忘れないでくださいね」

「うん、忘れないよ、エリセ。じゃ行くよ」

「お元気で、ミツヒ様。私、強くなりますから」


 手を振って別れる。また、泣きながら手を振っているエリセ。一度振り向き、まだ手を振っているエリセを見て、そして来た道を戻る。精霊の力なのか、エリセが見えなくなるまで霧は出ていなかったが、たちまち霧が垂れ込めてくる。ハネカの指示でノエルの森を進み、無事出口が見えた。

 まだ明るいし時間はあるのでニド村を経由してエントアの町まで走って行くことにした。青い空、清々しい風が吹く中、順調に走って夕方にはエントアの町に到着。

 門番に証明書を見せ町に入ると、見慣れた光景が広がる。


(ふぅー、町を出て3日だったけど、やっと帰って来たって感じがするな)

【これで、ミツヒ様と私だけですね、ウフフ】

(何だか嬉しそうだね、ハネカ。まあ、そうだな)

【これからどういたしますか?ミツヒ様】

(今日はこの町に泊まって、一度スマルクの町に戻るよ、それから何処に行くか検討しようと思う)

【お泊りになるのですか、では、ギルドに経過を報告しに行くのですか?】

(いや、寄らないで帰るよ、エルフの里に行ったなんて知られたら、また大事になるだろうから止めておく)

【なるほど、畏まりました、ミツヒ様】


 ミネストの宿に向かうと、またニシッタさんが呼び込みをしている。俺は以前のように叫ばれる前に走り寄ると、


「ニシッタさん、1泊お願いします」

「あ、ミツヒさん帰られたのですね、あのエルフさんは?」

「故郷に帰りましたよ、無事に。って、なんで急に笑顔で拳を握りしめているんですか。よっしゃ! みたいなポーズになってますよ、ニシッタさん」

「あ、いえ、なんとなくそんな気になりました、お泊りありがとうございます、ミツヒさん」


いつも泊まっている部屋に通され、まずは風呂に行く。入り慣れた風呂で気持ちよく浸かり、癒された後に食堂へ。今日の料理はボアのシチューでは無かったが、レッドオークの生姜焼きが出てきた。薄切りにして焼いてある肉の下には千切りの野菜がしいてある。一緒に食べると肉の食感と野菜のシャキシャキ感が微妙にマッチして美味い。味付けも絶妙でバクバク食べて追加料金払ってお代わりして食べたよ。


 夜は何事もなくベッドに入り就寝。


(おやすみ、ハネカ。明日もよろしく)

【ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】


翌日早朝


 装備をして食堂に行くと数人の冒険者が食事をしている。カウンターの料理を選んでいると、ニシッタさんが奥から来て、俺の腕に両腕を絡めるように抱きついてきた。後ろで、ザワッ、となり、周囲の視線が痛い。そんな事は気にしないかのような満面の笑顔をしたニシッタさんは、


「おはようございます、ミツヒさん、えへへ」

「お、おはようございます、ニシッタさん。なぜこのような事を?」

「ミツヒさんがこの町に来て、いつもミネストの宿を使っていただいて、私のタイプだし見ているうちに素敵な方だなと思いました。大好きです、ミツヒさん」

「そんな急に言われても、困りますよ、ニシッタさん」

「ウフフ、これからは私も積極的にアプローチしますね、ミツヒさん」


 気が済んだのか、ニパッ、と笑いながらウインクして厨房の奥へ入って行くニシッタさん。


(あ、ニシッタさんに今日エントアの町を出て行く事を言ってないよ)

【いいのです、ミツヒ様。余計な事ですから黙って行くべきです】

(そうだな、気が引けるけどその方がいいな)


 カウンターの料理を選んで、空いているテーブル席に座ると、まだ周囲から冷たい視線があって、肉の串焼きを食べていたが味がわからなく黙々と食べる。そこへ、リーザさんが息せき切って入って来ると、


「ハァハァ、ミツヒさん、ハァハァ、帰ってきたのにギルドに来ないので、フゥフゥ、ドミニクさんに連れてこいと言われました。ハァ、さあ来てください、ミツヒさん」

「よく帰ったことが分かりましたね、リーザさん」

「門番に、ミツヒさんが帰って来たらすぐにギルドへ連絡するように言ってありましたので」

「あ、なるほど、そうでしたか」

「はい、では行きましょう、ドミニクさんがお待ちです」


 周囲の視線が、なぜギルドマスターがこの男を? と違う意味で痛かった。

 ギルドまで腕を掴まれ、というより腕を組まれて歩いている。何故かニッコニコのリーザさん。「遠回りしたいな……」とか聞こえたが無視してギルドに向かう。でも、このままギルドに入ったら。

 やっぱり周囲の視線が俺とリーザさんに向けられた。「あの野郎」とか「なぜアイツ」とか「許さん」とか聞こえたが無視しよう。それにリーザさんが勝ち誇ったように他の受付嬢に腕を組んでいない方の手を胸辺りで小さく振っている。あ。パセリーさんが羨ましそうな目でこっちを見ている。誤解だから止めて、と言いたかったが、スタスタとギルドマスターの部屋に連れて行かれた。


【ギルドはいろいろと詮索してきますよ、ミツヒ様】

(うん、そうだね、ハネカ、上手い嘘を考えるよ)


 ギルドマスターの部屋

 椅子に座って待っていたドミニクさん。リーザさんは受付に戻って行く。


「帰って来たな、ミツヒ。1人で、ということは」

「はい、エルフの里に行って彼女を送り届けて来ました。知られると大事になると思いギルドには来ませんでした、すみません、ドミニクさん」

「いや、気にしないでいいさ、内密な話にしておく。で、ノエルの森でどうやって里を見つけた、ミツヒ」

「はい、森に入ると言われた通り霧が立ち込め、視界が無くなり周囲が分からなくなってきました。進む先にも来た道にも戻れない状況になった時、連れて帰ったエルフが霧の中で思い出したようで、エルフに手を引かれ入口を見つけました。その時、警戒したエルフが出てきましたが経緯を話して、そのエルフの父親にも会えて無事引き渡し、何かお礼を、と言われましたが貰わずに、霧の無い所まで帰り道を教えてもらって帰ってきました」

「そうか、もう一度行ったら入口は分かるか、ミツヒ」

「無理でしょう、手を引かれている時点で方向も何もわかりません。帰りも同じで何処をどう歩いたのか全く感覚がありませんでした。二度と行けません」

「やはり、無理か。了解した、この話はこれまでにしておく」

「なぜドミニクさんが里の入口にこだわるのでしょうか」

「折角入口に行けるのであればエルフの里と友好関係が築ければ、と思ったのだよ」

「多分無理でしょう、エルフたちは、やはり人を嫌っていました。初めは俺も警戒されましたし」

「奴隷狩りか、相当敵対心が強いのだろう、仕方がないか」


 話は終わったかに思えたがまだ続きがあるようで


「もう一つ、ミツヒに聞きたいことがある。ダンジョンの事だが、最近、魔石が拾えるらしいが、ミツヒは知っているか?」

(ゲッ、その話か、まいったなどうするか)

【踏破したときに魔石は拾わなかった。と正直に】

(それはダメだ、ハネカ。事が大きくなってさらに注目される)

「はい、それは知っています、俺も一度拾った魔石の買取りをリーザさんにお願いしましたから」

「そうか、ミツヒはその事に何か関わっていないか?」

「俺なんかが関係するようなことじゃないですよ」

「しかしな、ミツヒ。君がダンジョンに入り始めた頃と魔石が拾えるようになったのと同じ時期なのだかね、どう思う? それに、ミツヒのダンジョン入りの登録をしたその日と帰って来た日に限って多く落ちているのだよ、毎回毎回、おかしいと思うのだが、ミツヒ」


 疑いの眼差しで、ジッ、と見つめるドミニクさんに、


「お、俺にも分かりませんよ、冒険者でもないし」

「よし、ちょっと付き合ってもらえるか、ミツヒ」


 地下に案内され、俺を広い部屋に連れていくドミニクさん。


「ここは冒険者のランク試験で使用する部屋だ、この木剣で私と稽古をしよう、ミツヒ」

「なんで俺とドミニクさんが試合をするんですか?」

「別になんでもないよ、一寸興味があるだけだ、悪いようにはしないと誓う」

「そうですか、わかりました、俺は魔法が使えなにので剣だけになります」

「よし、結構だ、それでやろう」


 装備している剣を外して、木剣を握る。ドミニクさんも木剣で構えると、


「いつでもいいぞ、ミツヒ」「では行きます」


俺が先制して撃ち込む 「カンカンカンカンカカカン」

受けるドミニクさん

ドミニクさんが返す  「カンカンカンカカカカン」

受ける俺、受け流すと

すぐに撃ち込む俺   「カンカンカカカカカカン」

受けるドミニクさん

ドミニクさんが返す  「カンカンカカカカカカカカッ」

受けきる俺

強めに撃ちこむ俺   「ガンガンガガガガガガガガッ」

受けるドミニクさん

帰してこないドミニクさん


「ハァハァ、なるほど、わかった、フゥフゥ、ミツヒは強いな。それも相当な強さだ」

「いえ、まだまだですよ、ドミニクさん。俺はまだ鍛錬不足です」

「おいおい、私にここまで息を切らせて、ミツヒは息一つ乱れていないのによく言うよ。でもこの魔石の件は理解した。私の胸に仕舞っておこう、ミツヒ」

「俺も、ドミニクさんと、話と試合が出来て良かったです、では失礼します」


 ドミニクさんに受付まで見送ってもらって、リーザさんに挨拶をしてギルドを出た。

 俺の後姿を見ながら、


「ミツヒは、これから何を目指すのかな」とドミニクさん。

「何かあったのですか?」とリーザさん。

「いや、何も無かったよ、何もね」


 手が痺れているのかフルフルと手を振りながら笑顔のドミニクさん。


 そして俺はミネストの宿には寄らずに町の門に向かう。

ありがとうございました。


次回も、よろしくお願いします。

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