第17話 ノエルの森1
よろしくお願いします。
いつの間にか夕方になっていた。
俺は今、風呂に入っている。
「あー、いい湯だな、風呂はやっぱりいいなぁ」
「暖かくて気持ちが良いですね、ミツヒ様、えへへ」
今、エリセと一緒に風呂に入っている。
エリセは俺と一緒に入ると言い出し、ダメだと言っても一緒に入ると、着ている服を脱ぎだそうとしたので止めた。しかたがなく村の商店で、着たまま風呂に入れるような布を購入してエリセの体に巻くように指示し、俺も小さい布を腰に巻いている。反対していたハネカもそれならと渋々了解してもらった。そして、エリセの、お願い、で俺の背中も流してもらったよ。
「エルフの里にも風呂はあるのかな?」
「はい、あります。ここのお風呂と同じで暖かいお湯が湧き出ています。男女は分かれていますが、みんなで入れるようなお風呂です」
「エリセも早く帰りたいだろう」
「はい、それもありますが、でもそれはミツヒ様とお別れする、と言うことですよね」
「まあ、そうなるかな」
少し悲しい笑顔をするエリセ。
「…………そうですよね」
「さて、温まったから出ようか」
「はい、ミツヒ様」
風呂を出て一度部屋に戻ってから食堂に行きテーブル席に座る。少し待つと、ルティさんが持って来た料理はホワイトバードの鍋料理だ。中には一口で食べられる大きさの肉が沢山、野菜も、グツグツ、と入っていて、小皿に取って食べるスタイルだ。エリセは自分では取らないので俺が取り分けた。一口食べると、アツアツだが肉が鍋に合うくらいの柔らかさで美味い。野菜も出汁が良く染み込んでハフハフ食べた。エリセも、おいひいおいひい、とハフハフして食べている。3度取り分けて完食し、美味しくいただきました。
部屋に戻り別々のベッドに入ると、エリセは悲しい顔をしていたが余計なことは言わずに寝よう。
翌朝早朝
また俺は動けなかった。夜中に俺のベッドにそっと潜り込んで来たようで、エリセが俺をホールドしているので昨日のように起こした。
朝食は無いので、ルティさんに挨拶してロロの宿を出る。ニド村の門で俺とエリセの証明書を見せ森へ向かって歩き出した。ニドの門が見えなくなってから、エリセを背負い走り出す。
走ってすぐにノエルの森の入口に着くと、辺りを見回し、
「ここからがユエルの森か。木々が濃くて鬱蒼としてるな、それに森の中も薄暗いし」
「そうです、ミツヒ様。ここがノエルの森です。進んで行くと霧が出て来ます。さらに奥に進むと濃い霧で回りは見えなくなります」
「その何処かにエルフの里の入口があるんだね、エリセ」
「はい、今の私には見つけられませんが、この森の何処かに必ずあります」
「じゃ、行こうか」
道のない、森の生い茂った草を掻き分けて進んで行く。俺の後ろからエリセが付いてくるが、黙っているので、森の中の感覚は思い出せないようだ。さらに進むと、エリセの言ってたように霧が出てきたらハネカが、
【チョロッ、と燃やしてしまいますか、ミツヒ様】
(やめようなハネカ、その言い方も怖いからやめような。それにエルフに敵対心持たせるからやめような)
【畏まりました、ミツヒ様。それと、少し左に向いて進んでください】
ハネカの言う通りに霧の中を歩いて進む。霧が濃くなって視界が悪くなってくると、
【ミツヒ様、そこから左に向かって進めば小道に出ます、エルフの小道だと思われます】
そこに小道が見えた、ただ、人一人が歩く程度の見落としそうな細い道だ。それの道を歩いて進むことしばらく。
…………道が無くなっている。
【この先がエルフの里です、ミツヒ様。エルフをイメージしてください】
(了解……あ、あそこか。緑色の門のようなものが点滅している。あー、これじゃ誰もわからないよ、ここからの距離もあるし見当違いの所にあるから)
門のような点滅に向かって進んでいくと、俺とエリセの周囲に赤色の点滅が数点出てきた。囲まれたようだ。
【エルフです、ミツヒ様。囲まれています。数8。敵意があります。叩き潰しますか?】
(いや、それはだめだ、ハネカ。ちょっと待て)
俺は周囲に向かって大声で叫ぶ、
「俺の回りに8人のエルフが、敵意を向けているのは知っている! しかし俺は敵じゃない! 隣にいるエルフを、里に帰そうと連れて来ただけだ! 俺に敵意は無い! 話が出来ないか?!」
周囲の動きは無い。沈黙して様子を見ているようだ。すると、エリセが周りのエルフに問いかけるように、
「私はエリセ! 数年前までこの里に住んでいたエリセです。誰か私の事を知っている人はいませんか?私の父はヨナニクです!」
まだ見えないが、1人のエルフがエリセに向かって進んできた。
【ミツヒ様、このエルフは敵意が無くなっています】
(少し様子を見てみよう、ハネカ)
すると霧の中からエルフの姿が見えてきた。身長170センチ程の剣を持った男のエルフが、
「エリセ? エリセなのか? 本当にエリセなのか?」
「あ、お、お父さん、お父さんなのね。う、うえーーーん」
近寄り、顔を見合わせて抱き合う2人
「信じられない、嘘じゃないよな、夢じゃないよな、もう会えないと思っていたエリセが今ここにいる、うっ、ううぅ」
「えーん、私も会えないと思っていたの、うえーん、でも本当だよお父さん、ここにいるミツヒ様に助けてもらったの」
「良かった、良かったよエリセ、ううぅ」
号泣している2人。そして、もう一人のエルフが近寄ってきて、
「助けてもらったのは本当のようだな。感謝する、男よ。私は里の長、メアーネと言う」
長に似合わない女性のエルフだった。身長160センチ程で、エリセと同じ緑の髪に緑の目でスタイルも良く、20歳程にしか見えない美しいエルフだ。
「ミツヒと言います。エリセをこの里に連れて来る為に来ました。父親とも会えたようで良かったです。これで俺の用事が終わったので、このまま来た道を戻ります」
「ちょっと待て、恩人をそのまま帰せはしない。少し寄って行かないか?」
「でも、メアーネさん。エルフの里は人を嫌うのではないのですか?」
「それもそうだが恩人に対しては違うさ。それにミツヒと言ったか、ここまで来るとは、ミツヒは里の入口がわかるのか?」
「ええ、わかります、メアーネさん」
「なるほど、ただの男ではなさそうだ、里で話でもしよう」
「それでは、メアーネさんのお言葉に甘えて入らせていただきます」
エルフの後をついて行き、門らしき所を通り過ぎると、急に視界が開けた。そこは明るい空、花が咲き緑に囲まれた美しい里だ。里の中央なのか、巨大な樹が空を突くようにそびえ立っている。後ろを振り向き入って来た場所を見ると、丸太で出来た門があり、そこを通って来たようだ。
広間に通され、エルフが円を描くように座り中央に俺が座った。エリセも隣にいる。長のメアーネさんに向かって事の経緯を話し、エリセは捕まって奴隷になってから、俺に助けられるまでを話した。付け加えてエルフ狩りについてもメアーネさんに教えた。
「そうか、ご苦労だったな、エリセ、良く戻ってきた。改めて礼を言おう、ミツヒ、エリセを助けてもらいありがとう、礼をしないといかんな」
「良いですよ、メアーネさん、別にお礼だなんて、これも何かの縁です」
「その剣はそれ以上強くならないから、ミツヒが装備している皮の鎧、手袋、靴を私に預けてはくれないか強化してやろう」
「じゃ、遠慮なくお願いします」
俺は装備一式を外してメアーネさんに渡し、エリセは父親の元に走り寄り、一緒に帰って行く。装備を強化するのに1日かかるから、今日は泊まって行けと部屋に通され、椅子に座っている。
【あのエルフは私の事を感じるようです、ミツヒ様】
(この里のエルフにはハネカの事がわかるのか?)
【いいえ、あの長だけです。強い魔力を感じます】
(何もしてこなければ良いじゃないか、様子を見てみよう)
【畏まりました、ミツヒ様、事の次第で叩き潰してやりましょう】
(やめような、ハネカ。叩き潰すのが大好きなのかな、ハネカ)
【滅相もございません、ミツヒ様をお守りするには、最善の策だと思いまして】
(そうだね、じゃ、俺が危ない時には頼むよ、ハネカ)
【畏まりました、ミツヒ様】
そこへ、長のメアーネさんが入って来た。
「いいかな、ミツヒ邪魔をする」
「ええどうぞ、構いませんよメアーネさん」
テーブルを挟んで俺の反対側の椅子に座る。
「回りに人がいては悪いと思い黙ってたのだが、ミツヒには、加護の様なものとは違う何かに守られているようだな」
「メアーネさんには分かるんですか?」
「いや、わからんよ、精霊は見えるが、ミツヒのは何となく感じるだけだ」
「答えられませんが、何かまずいことでもありますか?」
「それはない。邪悪でもないようだからな、それについて聞きはしないし、誰にも話すつもりもない」
「そうですか助かります、メアーネさん」
「しかしだ、ミツヒがこの里に入ってから精霊がざわついているんで、一緒に付き合ってもらえないか」
「精霊ですか、ええ、いいですよ、行きましょう」
しばらく歩き、メアーネさんに案内されたのは、里に入った時に見えた巨大な樹。その根元には入口らしき穴がぽっかり開いている。そこを通り中へ入ると、広い空間があった。
「精霊のざわつきが増したな、ミツヒ、その中央に立ってくれないか」
「中央って、そこの魔方陣が描かれている所ですか」
「そうだ、精霊が早くしろと言っている」
「わかりました、ここですね」
俺は中央の魔方陣に立つ。すると、淡い光が上から降り注いでくる、青、白、緑、赤、紫、黄、グラデーションの様に綺麗な光。そして俺がその光に包まれると、その中に精霊らしき人が何人も飛んで回っている。体長20センチほどの、4枚の羽の生えた小さい女の子が……ゆっくりと飛び回りながら俺に近づいて来る。1人の女の子が肩に乗り、そして俺の頬にキスをして笑顔で飛び立つ。また違う女の子が肩に乗り頬にキスをする、順番に全員で6人が。
事が済んだようで、ゆっくりと上に飛んで行く。俺はしばらく上を見つめていた。
「やはりな、ミツヒ、お前は精霊に愛されているのだ。それも全ての精霊にだ」
「そうなんですか? メアーネさん。俺、初めて精霊を見ましたよ、それなのに愛されているんですか?」
「初めてとかは関係ない、今のが事実だ。精霊が、加護を授けたい、と思えばそれで良いのだ、だからミツヒは加護が授かっているはずだ」
「加護ですか」
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ステータス
【 名 前 】 ミツヒ
【 年 齢 】 17歳
【 職 業 】 村人 農民
【 種 族 】 人族
【 称 号 】 ≪心眼を持つ者≫
【 体 力 】 4000
【 魔 力 】 20
【 スキル 】 健脚 瞬脚 剛腕 金剛 夜目 気配感知
毒耐性 麻痺耐性 石化耐性
【固有スキル】 ≪ 心眼 ≫
【 加 護 】 水の精霊の加護 土の精霊の加護 風の精霊の加護
火の精霊の加護 雷の精霊の加護 氷の精霊の加護
「本当だ、加護が6個授かっています、メアーネさん」
「私も長く生きてきたが、すべての精霊に愛されている奴はいなかったよ、おそらくミツヒが初めてだろう」
「でも俺、村人だし冒険者でもないし加護なんて」
「おそらくミツヒを守っている何かが原因かもしれんな。授かっておくと良い」
「はい、精霊のみなさん、ありがたく授かります」
俺は上を向いて礼を言ったら、ポアッ、と光った。
「ざわつきも無くなったな、やはりミツヒが原因だったか。これも精霊の導きか」
「ありがとうございました、メアーネさん」
「私に礼はいらんよ、さて、帰ろうか」
メアーネさんとは一緒に帰ったが途中で別れ俺は部屋に戻る。
(加護はハネカのお陰だって、ありがとうな、ハネカ)
【私は関係ございません、ミツヒ様。それはミツヒ様の人徳です】
(でもハネカが居なかったら強くなれなかったし、それにこの里まで来れなかったから、やっぱりハネカのお陰だね、ありがとう、ハネカ今後ともよろしくな)
【えへへ、あ、いえ、ウフフ、こてらこそ、こちらこそ宜しくお願い致ちまつ、します、ミツヒ様】
(やっぱり変になってないか? ハネカさん?)
【だ、大丈夫です、ミツヒ様、問題ありません】
そこへエリセが部屋に来た。
「ミツヒ様、食事が出来たので広間に来てほしいそうです」
「了解、エリセ。父さんと再会できて良かったな」
「はい、これも全てミツヒ様のお陰です」
「気にしないでいいよ、エリセ」
「それじゃ、先に行っていますね、ミツヒ様」
広間に行くと、エルフたちも大勢集まって床に並んで座っている。席を案内されて歩いていると「ありがとう」とか「エリセを助けていただいて」とか「恩人です」とか言われ、恥ずかしかったな。
俺が席に着き、宴会が始まる。酒は17歳から飲めるが俺は飲まない。それはマイウ亭で働いていた時に、酔っ払いや泥酔者を沢山見てきたから。まあ、カルティさんぐらいの酔い、なら良いかと思ったけど、自分が酔った姿を想像したら怖くなって飲まなかったよ。意外と気が小さい俺。
料理も沢山並べられている。肉の串焼きやステーキ風、果物も山になって盛ってある。シンプルだが美味しく、モグモグ、と沢山食べた。
腹も落ち着いたころに、違う場所で食べていたエリセが、俺の事を最強とか大分吹聴したようで、エルフの戦士に、剣術の試合をしようと持ちかけられた。初めは断ったが、エリセが嘘つき呼ばわりされたので、受けた。試合は木剣。
1人目のエルフは酔っ払いで話にならない。カンッ、と一振りで終了。
2人目のエルフはまだ酔ってはいないが酒は飲んでいる。キンッ、と一振りで終了。
3人目のエルフは飲んでいない、10人長という役付だったが、一度避けて一度剣で受け流し、コンッ、と相手の剣を落とし終了。
最後のエルフは戦士の副長だ、やはり酒は飲んでいない。結構強そうなので真面目になる俺。
長が踏み込んでくる 「カンカンカンカンカン」
剣で受ける。
俺が踏み込む 「カンカンカンカンカンカンカン」
剣で受けられる。
長が踏み込んでくる 「カンカンカンカンカン」
剣で受ける。
俺が少し強めに 「カンカンカカンカカカ」
グゥと踏ん張る。
さらに追い打ち 「カンカンカンカカカカッ」
ググッと踏ん張る。
最後の一振り 「カンッ」
長の剣がクルクルと飛ぶ。
終了。
オオーッ、と言う歓声と、ウウッ、と言う残念そうな声。少しくらい相手にも、なんて考えなかった。エリセを嘘つき呼ばわりしたからね。
そして宴は続いていたが、行きたい場所があったので、お先に上がらせてもらったよ。向かった先はお風呂さ。せっかくだからエルフの里のお風呂は入らないと、中々入れないからね。行くと仕切りのしてある露天風呂があり、何十人入れるんだろうと思うくらい広い。コンコン、とお湯が湧く良いお風呂だ。みんな宴会に行っているのか誰もいないがそれもいい。湯加減も良く、癒され、ゆったりと温まった。部屋に帰り、疲れていたのでそのままベッドにダイブして爆睡。
翌日早朝
ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




