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第16話 ニド村 

よろしくお願いします。

 ギルドを出る。

 エリセの頭から布をフードのように被せて背負おいギルドを出た。途中、人の気配の無い所で一度エリセを下して、ハネカにクリーンを掛けてもらい血だらけの服を綺麗にした。ミネストの宿に着いてニシッタさんに1人追加料金を払い部屋に入る。エリセをそっとおろしてベッドに座らせ被せている布をとると、エリセは俺がいるであろう方向を向いて、ペコリ、と頭を下げる。


「あ、あの、その、助けていただいて、奴隷を解いていただいて、ありがとうございました、ミツヒ様」

「いいんだ、エリセ、それにもう安心だよ」

「こ、このような体ですが、が、頑張ってご奉仕します、ミツヒ様。は、はじめてなので」

「いやいやいや、何もしない、何もしなくていいから少し動かないで、目を閉じるイメージでじっとしてて」

(ハネカ、この傷を治してもらえるか?)

【今、このエルフに、イラッ、としたのですが、叩き潰すのではなく、治すのですか? ミツヒ様】

(ハネカ? また何か変になっていないか? 頼むよハネカ)

【……畏まりました、ミツヒ様。エクストラリカバー!】


 エリセの体が淡い緑色の光に包まれると。見た目はちょっとグロいが深い傷が逆再生するように治って行く。頭から鼻にかけて受けた深い裂傷も無くなって両方の眼球が再生していく。また、欠損した右耳が生え、右手首から肉が盛り上がり、生える様に治って行く。


「あ、あ、あ、体が変です何か変です、ミツヒ様」

「俺が良いというまで目を閉じるように動かない」

「は、はい、う、動きません、動きません、ミツヒ様に何をされても、その、痛くても動きません。我慢します」


 んー、何か勘違いしている様だが気にしないでおこう。そして、エリセを包んでいた淡い光が消えていき傷が完治している事を確認すると、


「エリセ、ゆっくりと目を開けてごらん」

「でも、私は目が、あ、て、あれ? 見えます、見えます! て、手もあります、ミツヒ様」

「もう体は完治したよエリセ。それと、この事は絶対に誰にも言わないように」

「凄いです凄いです、もちろんです、誰にも言いません。う、う、うぇーん。ミツヒ様は、えっ、えっ、凄いお方なのですね。ふぇーーん」

「もう泣かなくていいから、凄くはないよ、ただの村人だし」


 しばらく泣いていたエリセだったが、ようやく気が治まったのか、


「ぐす、私にとっては命の恩人でご主人様です。ぐす、それに。ミツヒ様は……とても素敵な方です」


 泣き止んだと思ったら、モジモジしながら上目づかいで俺の顔を見てエリセの顔が赤くなっている。傷が完治したエリセを良く見ると、15歳くらいだろうか、透き通った緑の髪が肩まであり、綺麗な緑目、身長150センチ程のスタイルのいい、とても可愛いエルフだ。


「もう奴隷じゃないからご主人様ではないよ」

「いいえ、ミツヒ様は私のご主人様です。それにこの体なら一生懸命ご奉仕できます。痛くても頑張ります、いつでも」

「ちょ、ちょっとエリセ。あのね、本当に俺は何もしないよ」

「そんな、私では駄目でしょうか。たしかに魅力は無いかもしれないですが、ミツヒ様の言うことなら何でも」

「だから、エリセをエルフの里に送り届けるだけだ」

「ミツヒ様に気に入られるように頑張ります」


 話が通っていないけど、無視しよう。


【ミツヒ様、私はイライラしています。とてもイライラしています。何か、こう、クイッ、とひと捻り……】

(大丈夫かハネカ。深呼吸して楽にすれば治るんじゃないか?)

【ヒイヒイフー、ヒイヒイフー、……あ、治ってきました、ミツヒ様、ヒイヒイフー】


 これも何かが違うような。でも気にしないでおこうかな。

 やっと落ち着いたので風呂に行く。エリセもついてくる。男湯に入る。エリセもついてくる。俺はエリセに向かって、


「エリセ、エリセは女性だから隣だよ」

「ミツヒ様のお背中を流してさしあげようか。と思いました」

「それはダメ、他に人がいるからダメ」

「いなければいいのですね?」

「違う、ダメなものはダメ」

「ううぅ、わかりました、1人のお風呂は怖いので部屋でお待ちしています」

(それも可愛そうか、よし、今日はやめよう)

「部屋に戻ろう、エリセ」


 部屋に戻り、ハネカのクリーンで俺とエリセの体と服を綺麗にした。エリセは俺がやったように見えたのか、驚いていたが、これもしっかり口止めした。

 腹も減ったので食堂に行きテーブル席に座ると、エリセは食堂の隅の床に座る。


「何しているの? エリセ、ここに座って」

「奴隷はここです、奴隷の食事をお願いします」

「だからエリセはもう奴隷じゃないから椅子に座る」

「いいのでしょうか」

「いいから、早く。ハァ、エリセ、これは命令だ」

「はい」


 素直に座ったが、周囲を気にしてソワソワしている。俺は、厨房に向かって、


「ニシッタさん、今日のおすすめ二つお願いします」

「はーい、あれ?1人増えたのはその人?ふーん、ミツヒさんはエルフが趣味なんだ」

「いえ、違いますよ、明日家まで送って行くんです」

「でも、今晩は一緒に寝るんでしょ、そのエルフと2人で」


 ニシッタさんがそう言いながらエリセを見ると、エリセは嬉しそうにモジモジして俺を見ている。なんだか余計に誤解を招いているのかもしれないな。


「ニシッタさん、何もしませんよ本当に」と言うと、


 ふーん、という顔で厨房に入って行ったニシッタさん。奥から「何で私じゃないの」とか「魅力無いのかな」とか「いつでもいいのに」とか聞こえたが気にしないでおこう。

 少しして料理が出てきた。やった、ボアのシチューだ。しかし、なかなか食べようとしなかったエリセだったが、やっと食べ始める。


「美味しいか? エリセ。ボアのシチューだ」

「はい、とても、とても美味しいです。初めて。食べました。ミツヒ様に拾われて私は幸せです。う、う、う、うえーん」

「泣かないでいいからゆっくり食べようなエリセ」

「ぐす、はい、美味しいです、美味しいです、ぐす」


 喜んでくれたようだ、俺も美味しく食べて部屋に戻る。

 疲れも出たようなのでベッドに横になる。エリセは床に座る。


「エリセ、このベッドは大きいからこっちにおいで。一緒に寝よう」


 それを聞いたエリセは、徐に立ち上がり、赤ら顔でおずおずとベッドに近づき、


「よろしく願いします、ミツヒ様。服はどうしましょう、ミツヒ様が」

「違う、何もしない。あー、だから、服を脱ぐんじゃない! 床じゃ硬いから一緒に寝るだけだから、ほらおいで」


 悲しい顔になったエリセだが無視して一緒に寝た。


【あぁそんな、ミツヒ様。エルフなんぞと、やはり叩き潰しておけば良かった、ううぅ】


 ハネカの声を無視して就寝。


翌日早朝


 いつもと違う早朝、起きられない。

 いや、起きようとしたが、エリセが俺の体を抱き枕の様にしているから起き上がれない。エルフだからか、エリセだけなのか力が強くしっかりホールドされている。空いている手で軽く、トントン、とエリセの背中を叩きながら起こすことにした。


「おはようエリセ、朝だよ」

「うーん、おはよう、ございます、ミツヒ様。ミツヒ様の体は大きくて暖かいです、えへへ」

「もういいかな、起きられないよ」

「あ、し、失礼しました、ミツヒ様、私としたことが」

【ミツヒ様、一刻も早くそのエルフをエルフの里に捨てて来ましょう】

(あのねハネカ、捨てるんじゃなく、連れて行くの。今日出発するから)


 食堂に行くと混んでいたが座れた。カウンターにはボアのシチューが出ていたので俺とエリセの分をテーブルに運んだ。そして、エリセに俺の食べ方を教えたら、同じ食べ方がいいです、と言うので、ゆで卵をシチューに入れてあげた。まず、パンをシチューにつけて食べる。


「美味しい、ミツヒ様、プニュプニュしてパンが美味しいです、初めて食べました」

「そうだろう? この食べ方は俺も好きなんだ。モグモグ、んー美味い」

「シチューを食べたら最後にゆで卵だよ。ハグハグ、んーやっぱり美味い」

「本当です、ホクホクして美味しいです、ミツヒ様。私は幸せです」


 美味しく食べたあと、ニシッタさんに挨拶してからミネストの宿を出て、まだ薄暗い中をエントアの町の門までエリセと歩いて行く。門番に俺とエリセの証明書を見せて門を出ると、他の人はほとんどが王都エヴァンに向かうが、俺たちは反対方向に歩き出した。少し離れたところでエリセを背負って、


「走るからしっかり掴んでなよ、エリセ。怖ければ目を閉じてるように」

「はい、ミツヒ様の背中は大きくて安心です。えへへ」

【フンッ、お姫様抱っこよりはまだマシですね。まったく、ミツヒ様は】

(ハネカはエリセに冷たいような気がするけど……)

【そのようなことはございません、ミツヒ様。さあ、行きましょう】

「よし、じゃ行くよ、エリセ。舌を噛むかもしれないから喋らないようにな」


 疾風のごとく走り出した。あまり人が通らない森の中の小道だが、何もないように走っている。心眼で進行方向が点滅しているので問題なく走れる。そして昼過ぎに、ニド村が見えてきたらエリセをおろし、小道の脇で昼飯にする。マジックバッグから布を出して敷いて座り、ホワイトラビットの串焼きと果汁を2人分出す。エリセは、凄いです、と驚いていたが硬く口止めして2人でアツアツの串焼きを美味しく食べた。

 昼飯を食べ終え片付けて、エリセと一緒に歩いてニド村の入口の門まで行き、門番に証明書を見せて村に入る。ニド村はタモンの村より少し大きい、200人程が住んでいる村。農業を中心とした村だが商店や宿もあった。まだ昼なのでこのままノエルの森に入っても良かったが。せっかくだから一晩泊まることにしよう。

 村に入ってすぐに宿が見え、看板に、ロロの宿、と書かれていたので、中に入るとテーブルが二つとカウンターがあって、奥から、


「いらっしゃいませ、ロロの宿へようこそ、女将のルティです」

「俺はミツヒです、彼女はエリセ。1泊夕食付でお願いします」

「2人で金貨1枚になりますがよろしいでしょうか」


 金貨1枚を支払うと、ルティさんは、チラッ、と後ろにいるエリセを見て、


「ありがとうございます、本日の宿泊はミツヒさん一組だけなので、裏のお風呂は奥様とご一緒にどうぞ、ウフフ」

「え? あの、違います、勘違いですルティさん。あっ、エリセもモジモジクネクネしないの!」


 部屋に通されて中に入るとベッドが二つ並んである。それを交互に見ているエリセは何故だか悲しい顔をしている。

 俺はベッドに腰掛け、エリセにも向かいのベッドに腰掛けるように指示して質問をする。


「そういえばエリセは何で奴隷になったのかな」

「はい、何年か前にエルフの里から外に出て薬草を採取していたのですが、里から少し離れすぎたかなと思ったら、不意に薬を嗅がされたようで気を失っていました。薄らと覚えているのは袋に詰められて馬車のようなもので運ばれているところでしたが、また気を失っていました。次に気が付いたら奴隷商の館で、首には奴隷の首輪が着けてありました。私は普通の人よりは力があるのですぐに買い手が付き、冒険者のパーティの荷物運びの奴隷として働き始めそして今に至り、怪我を負ったところをミツヒ様に助けていただきました」

「そのパーティの名前は?」

「それが、魔物に襲われたときに頭部を怪我したのが原因かわかりませんが、ミツヒ様に助けていただいた時から、一緒だった冒険者の名前、パーティ名、奴隷商の名前が思い出せません。他にも怖かった町や、襲ってきた人の名前なども思い出せません」

「そうか、それなら仕方がないな。うん、そのまま忘れてしまうのもいいかもな」

「はい、今は優しいミツヒ様とご一緒出来て、美味しい食べ物も与えていただいて幸せです」

「それは良かった。それとエリセはエルフの里に入る方法とか探す方法は知っている?」

「入口の場所はその時々で移動します。それに私のように何年も出入りしていないと、何処が入口かわからなくなります。また、森の中もエルフの里に近づくほど迷うように出来ています」

「うーん、エリセでもだめか、行ってみるしかないな」


【私をお忘れですか、ミツヒ様】

(ハネカはエルフの里の場所を知っているの?)

【いえ、森に入れば位置がわかります、私だけでなくミツヒ様も】

(俺も? そうか、心眼か。便利なものだな、それじゃ安心していけるね)


 そのうち、いつの間にか夕方になっていた。


ありがとうございました。


次回も、よろしくお願いします。

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