入学編<初日 ‐ 朝食 ‐>
「桜、待たせたな」
「準一遅いーーー!」
ん? 誰だ?
「早く座って座って!」
「あ、桃香か。今日はこっちなんだな」
「うん、ママが朝から入学式の準備があるからって早かったのよね、はい、食べましょ」
「「「頂きます」」」
このサイドポニーは、来栖桃香。
所謂幼なじみというやつだ。
小学校低学年のときに、この近所に来栖家が引っ越してきて以来の付き合い
になるだろうか。
黒川家と来栖家は家族ぐるみの付き合いで、
桃香の父親である龍之介さんには本当によく遊んでもらったものだ。
半年ほど前から龍之介さんは長期出張に出ており、桃香の母親である冬華さん
は高校教員をしているのもあって、桃香の朝ご飯を作っている時間がないときなどは、
こうして桃香が黒川家に朝ご飯を食べにくることがある。
「桜、このほうれん草のお浸しものすごく美味しいわ!」
「桃香ちゃん、ほんとお浸し好きなんだから~」
「桜のおかげで朝ご飯に和食が欠かせなくなったほどよ」
「うちは昔から朝ご飯は和食なのです」
親父が朝食に和食しか食べない人だったため、
母さんも朝食に和食以外作らなくなり、桜もまた然りといった具合だ。
「そういえば桃香はセーラー服を選んだんだな」
「当たり前よ、ブレザーなんて面倒じゃない。桜はブレザーを選んだのね」
「うん、お兄ちゃんが、ブレザーを選ばないと俺は2階から飛び降りる、ってうるさくて笑」
「あんた…」
そんな生ゴミを見るような目で俺を見ないでくれ…。
どうしても桜にブレザーを着てほしかったんだよ…。
中学生の頃はセーラー服だったしな。
「ご、ごほん、ほ、ほら急いで食べないと入学式に遅刻するぞ」
「分かってるわよ」
「ふふっ」
そんなこんなで朝食を終えた。
後片付けの手伝いをしながら時計に目をやると、長針が30のあたりを指している。
時間に余裕はあるようだ。
女子二人で仲良く皿洗いを始めて、居場所を失った俺はソファに腰を下ろし、テレビをつけた。
「本日、注目の出来事は何といっても私立有栖川高等学校の入学式になりますね」
「そうですね。日本の教育に革命を起こす可能性を秘めておりますから、
教育関係者はもちろん、あらゆる業界が注目していますよ」
司会者とコメンテーターが意見を投げ合っている。
「じゅんいちー!、テレビなんか観てないでそろそろ行くわよー」
「今行くー」
玄関から桃香の声が飛んでくる。
よく響く声だ。
テレビを消して玄関に向かうとすでに2人とも靴を履き終えていた。
「待たせたな、何時の電車だ?」
「8時発の電車だから結構余裕あるかな」
「15分あるし大丈夫だな。よし、行こうか」
「なんかわくわくしてきたわ!」
ドアを開けると快晴の青空が目に入った。
気温も程よい。
桜が鍵を取り出して施錠する。
ドアが閉まってるのを確認して、3人で駅に向かって歩き出す。