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悪役令嬢をもう一度  作者: 流らいき
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004.ヴィヴィアンとヴィヴィアンと真希

 んんっと!

 伸びをして眠気を飛ばす。

 よく寝たー。久しぶりに清々しい気分だ。

 起き上がろうとして、違和感に気がつく。

 あれ? なんか体が思うように動かない・・・。

 ゆっくり起き上がって周囲を見回すと、見慣れない空間が広がっていた。

 いいえ、違うわ。ここはわたくしの部屋だわ。

 それはそうと、なんで柵みたいなものがあるの?

 四方を柵で囲まれたところで寝ていたみたいだ。でも布団は柔らかくて、寝心地が良かった。柵に手をかけたところで、その手が思ったより随分と小さいことに気がついた。

 こんなに小さかったかな?

「あら? お目覚めでしたのね。おはようございます、ヴィヴィアン様」

 扉越しに顔を覗かせたのは、乳母のエリス。

 随分と若いわ。

「おぉ、おぉ」

 上手く舌が動かせない。「おはよう」って言ったつもりなのに、耳に届くのは不可解なうめき声だ。

「まあ、ご挨拶できましたね」

 それなのにエリスには伝わったらしい。

 エリスは柵の上から手を伸ばし、私を豊満な胸へ抱き上げてくれる。

 エリスはミルクの匂いがして私はすっかり安心してしまった。

 なんだか生暖かい温もりが・・・。

 あれ、お尻のあたりが濡れて・・・。濡れて?

 なにこれ気持ち悪い。

「へぐ・・・うぐっ・・・」

 意識した途端、ダムが決壊するかの如くギャン泣きした。

 なにこれ気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!

 不快よ不快! 信じられませんわ! なんなのこれいやいやなんとかしてちょうだい!!

「まあまあ、さあおしめを替えましょうね」

 エリスによっておしめを替えてもらうまで、私は恥じらいなく泣きまくった。


 1人で歩けるようになり、わたしの行動範囲は広がっていた。

 近頃はエリスの不意をついて、屋敷内を歩きまわることが一つの楽しみになっている。

 記憶の中では色々知っていても、自分の目と足で確かめてみたくて屋敷内を探検している。

 使用人に見つかると即座に部屋に戻されちゃうから、見つからないように移動するのはスリリングでとっても楽しかったりする。隠れんぼという遊びみたい。

 真希に影響されて、わたくしも随分活発になったようですわ。

 わたくしとしては書庫に行きたいのですけれど、まだまだ幼いわたくしの体では、重厚な書庫の扉を自分で開くこともできずもどかしい思いでいますの。

 使用人たちは開けてくださればいいのに、話も聞かずに抱きあげるのですから失礼過ぎますわ。

 本は貴重品ですから幼子がいたずらしては大変だと思っているのでしょうけれど。

 今日も書庫を目指して屋敷内を探検中だ。見つからないように移動しているから、遠回りになったりもする。でも、それが逆にいろいろなところへ行く結果となるのでおもしろい。

 ヴィヴィも知らなかった使用人用の通路を発見できたりしている。真っ暗で怖くて入れなかったけど。

 いつも見つからずに書庫に辿り着けるわけではなく、昨日も一昨日も途中で見つかってしまったのだ。

 今日こそは!

 ちょっとずつ使用人の動きも記憶してきている。この時間は2階の客室のどこかしらで誰かが掃除しているから、その近くを通るのは危険なのだ。

 といって、1階のエントランスホールを抜けるのはもっと危険だ。

 屋敷の中心にあるエントランスホールは人の出入りが多く、いつ誰が通るのかわからない。

 ここは、食堂から厨房の横の通路を抜けて北館に移動するのがいいかも。

 物陰に隠れて周囲を見回す。音も近くから聞こえない。

 よし。

 慌てて走ると転んでしまうので、十分に足元に気をつけないといけない。頭が重くてバランスが良くないのだと真希は言う。そうなのかもしれない。こないだも転んだ拍子に頭を打ってしまった。毛足の長い絨毯の上だったからたんこぶにはならなかったけど、思わず声を上げてしまったので見つかってしまったのだ。

 慎重にかつ大胆に、厨房の横の通路を抜けて、書庫のある北館に辿り着いた。

 思惑通りにことが進み、ちょっとした達成感だ。

 ワクワクした気持ちが先走り、周囲の確認を怠ってしまったのが失敗だった。

「あー! ヴィヴィアン様また勝手に抜けだされて!」

 しまった! 見つかった!

 メイドに見つかり、軽々と持ち上げられてあえなく私室へ連れ戻されるわたし。

 こんな扱いは我慢なりませんけれど、でもどこか家庭的だわ、と他人事のように思いましたの。


 わたしは魔法を使ってみることにした。

 ヴィヴィは何でもできて、魔法も得意なのだ。

 わたしにもできるはずだとヴィヴィは言う。

 王族に嫁ぐ者として、魔法を使いこなすことは当然ですわ。

 まずはシンプルに風を起こしてみましょう。

 床に置いた花を風で移動させますわよ。

 ヴィヴィの指示に従って、体内の魔力を意識して手のひらに集めて発動したい魔法のイメージを固め、呪文を唱えた。

 手のひらはほんのり熱くなったが、花は少し向きを変えただけだった。

 手のひらを見る。

 特に何もない。

 花を見る。

 特に何もない。

 同じヴィヴィアンなのに。

 がっかりだ。期待が大きかった分、落胆も大きかった。

 こんなはずでは・・・。

 ヴィヴィも意気消沈している。

 同じヴィヴィアンなのに。

 なんかヴィヴィとヴィヴィアンとで違ってなかった?

 何が違うのです?

 こう体内の魔力の廻り方というか、魔力が集まる感じがなんか違うんじゃないかなって。

 そう言われてみれば。

 ヴィヴィが魔法を使っていた時は、体内に漲る魔力を循環させるようにして手のひらに出現させていたのに対し、わたしは体内の魔力を絞り出して手のひらに集めたといった感じだったかもしれない。

 確かによく見れば、魔力がとても小さいわ。

 まだ魔法を使えるような魔力ができていなかったのね。

 そうだよ。だって、ヴィヴィが魔法を習い始めたのって8歳だよ。一般的に何歳から練習し始めるのかよくわからないけど、さすがにまだ早かったのかも。

 魔力を大きくする方法はあるのですもの、まずはそちらからですわね。

 うん! 早速やってみよう!

 まずは体内の魔力を見つめることですわ。自身の魔力の大きさを把握することからです。

 わたくしあまり魔力の大きさに頓着しておりませんでした。重要でしたのね。

 じゃあ、今から始めたら前のヴィヴィより魔力大きくなれるかな。

 ヴィヴィができたことは何でもできるようになりたい。

 真希ができたことは何でもできるようになりたい。

 記憶の中でできたこと。

 今現実にできること。

 それが一緒になるように。

 それ以上になれるように。

 わたしは前よりずっと頑張らなくちゃいけない。

 体内の魔力を丸めたり伸ばしたりしながら、強くそう思った。


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