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悪役令嬢をもう一度  作者: 流らいき
17/24

017.令嬢、魔道具の可能性に気づく

 王妃様のお茶会の翌日、私は急遽領地へ戻ることになった。

 そうお命じになられたお父様のご意向はわからなくもない。

 お父様、お母様は当然としてリスティスも王都に残り、身近な人だと魔法教師兼護衛のフェイと侍女のクレアだけが同行してくれていた。

 王都から領地にあるカントリーハウスまでは、およそ17日かかる距離にある。それを子供である私に考慮して20日かけて移動すると聞いている。往路もそうだったので、急がない移動では標準的な速度なのかもしれない。さすがにヴィーの時のことは覚えていないけれど。

 長い長い春が終わり、長い冬の訪れが迫っていた。

 この国ルイベリオージュ王国の周辺では、1年の3分の2が春で、残りの3分の1が冬だ。1年を通して涼しいか寒い。

 日本の四季を知っている身としては、春と冬だけというのはどこか物足りない気がする。真夏の灼熱の太陽がどこか恋しい。

 我がハーグリーブス侯爵領は、この国の西北に位置しており、南部にある王都より幾分寒い地域だ。領地に着く頃には、陽はもっと短くなっていることだろう。


 20日間の移動の中で、私はもちろんフェイを問い詰めていた。

 誰かのせいで、ウーゼル王子様に目を付けられたからね!

「滅相もありません! 私なんかが王宮に入ることはできませんし、ウーゼル王子殿下にお目通りいただけるわけがありません」

 フェイは、私の穏やかではない雰囲気を察知して、必死に否定する。

 確かにフェイの言っていることは一理あるかもしれないのだけれど、何もウーゼル王子様に直接伝えたとは思っていないのよね。

「じゃあ、誰かにわたくしのことを話したりしていないのかしら? どなたにも?」

「ヴィヴィアン様のことを誰かに話したりなんてしません! お父上にご報告させていただくことはありましたけれど、本当に、だれにも・・・」

 フェイの言葉は尻窄みになる。

 あら?

 何か心当たりがあったみたいね。

「フェイ? 正直におっしゃってくださる?」

「あ、いえ、その・・・。えと、私の恩師に、ヴィヴィアン様のことを相談したことがありますが、ウーゼル王子殿下のお耳に入るようなことは」

「貴女、その話どこでされたの?」

「その恩師が王城に来られていたので、その際に。でも、他に誰もいませんでしたし」

 は?

「王城に? 貴女の恩師と言うと、マーリン様だったかしら? いつ、いらしていたの? と言うより、いつお会いになったのかしら?」

「え、あ、そうです。マスター・マーリンです。マスター・マーリンは、ウーゼル王子殿下に特別に魔法を個人授業されており、王立学校が休みになる冬の間は王城にお勤めされているのです。それで、去年の冬にお休みを頂いた際に、ご相談に」

 ああ、確か年末頃から休暇取っていたわね。

「マスター・マーリンはこの冬も王城に?」

「そうですね。来年からはウーゼル王子殿下も入学される歳なので、今年までだそうですが。あ、先日もご用事でいらしていたので会いましたけど」

「先日?」

「はい。2ヶ月ほど前だったかと」

「王城で?」

「はい・・・」

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 どうして・・・

「どうして教えて下さらなかったの! わたくし、前にマスター・マーリンにお会いしたいと言いましたわよね? 言いましたわよね!?」

「ええ! でもでもマスター・マーリンに去年ヴィヴィアン様のことを伺ったらお会いしたことないって」

「関係ありませんわ! わたくしがマスター・マーリンに確認したいのですから。せっかくの機会をどうしてくれますの?」

 当たり前じゃない!! 今回マスター・マーリンに会ったことないんだから!

 2ヶ月前って、私も王都にいたじゃない!

 次いつ王都へ行けるかわからないのですのよ!?

 マスター・マーリン以外に呪いの手掛かりがないんだからね!?

 涙目になりつつの怒りの形相にフェイは驚き慌てふためき、

「わ、わかりました! 必ずマスター・マーリンと会えるよう手配いたしますので!」

「わたくし、必ず会わなければ行けませんの! フェイ・ホワイトテイル。必ずわたくしの意向を汲み実現してみせなさい!」

「約束します! 約束しますから!」

「絶対ですからね!」

「絶対です! だからどうか落ち着いてっ・・・!」

 と彼女が言うので、ふぅと息をつくと、いつの間にか解けていた髪が肩に落ちた。

 よく見ると、フェイの髪も服も乱れているし、私の周りだけ落ち葉がなくなっているし、私の飾り帽子がフェイのはるか後方に見える。

 あら?

「その・・・すぐにとはいかないかもしれませんが・・・」

「1年以内にお願いしますわ」

「・・・はい」

 フェイったら、どうしてそんな泣きそうな顔しているのかしら?

 まるで私がいじめたみたいじゃない。心外ね。

 でも約束しましたから!

 それはそうと、これでウーゼル王子様がどこから情報を手に入れられたのかわかった。

 フェイがマスター・マーリンに相談した際に、ウーゼル王子様の()が聞いていたってことなんでしょうね。

 王城内なんだから、それは簡単なことでしょうよ。

「フェイ。貴女リスティスのこともマスター・マーリンに話したのかしら?」

「リスティス様ですか? ええと、少し話はしましたが、そもそも私もリスティス様のことはそれほど知らないので」

「具体的には?」

「ええと、その、侯爵家に引き取られたことと、魔法の才能がおありになるらしいということくらいですが」

 リスティスはフェイの生徒ではないし、本当に知らないのかもしれない。

「これはわたくしの興味で聞きますけれど、リスティスはどんな魔法を使えるのか知っていまして?」

「え? そうですね。私もリスティス様の魔法教師のジェイムス殿から聞いたことですが、風と水の魔法はすでに中級程度を使いこなされるそうです」

「他には?」

「そうですね・・・光の魔法もお使いになられるそうですが」

 風と水を中級。それに光魔法。初めて聞いた話だ。

 でもウーゼル王子様がおっしゃっていた四大属性魔法と何か特別な魔法のことは知らないみたい。

 ということはリスティスのことは、どこから調べたのかしら。

 なんだか、家の中ですら気が抜けない気がして来た・・・。


 王都から領地までにはいくつかの大小様々な町や村などがあり、夜はそこで一泊することにしていた。

 宿がある町はいいけれど、小さな村には宿はないので村長の家に部屋を借りることもある。全ては先行して手配してくれていた騎士のおかげで、泊まる部屋に困ることもなく順調に旅路を進めている。

 2頭立ての馬車で移動しているので、そこそこ広い空間に柔らかいクッションが効いた椅子に座っているのだけれど、長時間揺られているとやはり疲れてくる。夜はベッドで寝られるのは正直ありがたい。

 ヴィーの時は意識していなかったけれど、すごく気を使われていたのね。

 その日は、小さな町の宿屋に宿泊することになった。

 身の回りの世話のため、クレアが同じ部屋に休むことになっていた。

 寝支度を整えていると、室内の明かりが一瞬陰る。

「あら?」

 クレアは、私の髪を梳いていたブラシを一旦置くと、ランプに近寄った。

 ランプは、チカチカと不規則な明滅を繰り返していた。

「魔力切れのようですね。替えのものを持って参ります」

「お願いね」

 クレアを見送り、室内を確認する。

 幸いこの部屋には魔道具のランプの他に、蝋燭のランタンもあり真っ暗になることはなかった。と言うか、魔道具のランプは私たちが持ち込んだものであり、この宿屋の備品はランタンの方である。

 少し暗くなった部屋を照らすために、火の魔法を唱える。火の玉は私の手を離れると、頭上の右上辺りに留まって部屋を照らした。

 私は、なんとなく魔道具のランプを手に取ってみた。

 魔道具は、魔法が使えない人でも使うことができる便利な道具だ。高価なものではあるけれど、ランプのような日用品であれば庶民でも手を出せないことはないらしい。確か、日用品の製作は王立学校の生徒にとって練習を兼ねた仕事になるとかで人気だと聞いたことがあった。ヴィーを含む高位貴族は、全く興味を持っていなかったけれど。ちなみにこのことは乙女ゲームにもしっかりと継承され、真希はこれでがっぽり荒稼ぎしていた。

 魔道具の作りは単純である。

 魔力を留める魔石と、効果を記した魔法陣と、その効果を顕現する器がベースとなっている。器が複雑になればなるほど、高性能で高価な魔道具になるのだけれど、このランプのような日用品のほとんどは至ってシンプルだ。

 ランプの蓋を取ると、案の定、魔石と魔法陣を記した特別な紙だけが入っていた。

 魔石を取り出し、火の玉に翳してみる。魔石に魔力が残っているかは、実のところよくわからない。

 魔道具製作や魔石のことは王立学校で学ぶのだけれど、ヴィーの記憶では魔石の魔力残量を調べる方法は教えられなかったと思う。それこそ、フェイのように魔力の流れが見える人でもなければわからないのかもしれない。

 ランプ内に残った魔法陣が記された紙を取り出す。

 魔法陣は、何かよくわからない記号のようなものだ。高性能なものほどその記号は複雑になっていく。ヴィーの時は見本のままに模写しただけだったので、何を描いているのかよくわからなかった。

 わからなかったのだけれど・・・。

 あれ?

 なんか、違和感が・・・。

 魔法陣をよおく見る。

 ん? んん??

 あれ? なんか《照明》って読めるんだけれど。

 え? んん?

 一度《照明》に見えると、もう他のものには見えなくなる。

 ええええ?

 だって、これ、漢字にしか見えないんだけれど。

 ちょっと待って、落ち着こうよ。

 他に魔道具なかったっけ?

 あ、護身用に持たされているペンダント!

 ペンダントトップに魔石が組み込まれていて、魔石に直接魔法陣が刻まれていた。

 って、《護身》って、まんまじゃん! まんま過ぎるよ!!

 しかも効果よくわからないし!!

 脳内が大忙しでツッコミを入れていると、扉がノックされた。クレアが戻って来たことを告げ中に入る。

 分解されたランプの前で、ペンダントを握りしめて眉間に皺を寄せる私を不思議そうに見ている。

「どうかされましたか?」

「ううん。いいえ、何もありませんわ・・・」

 クレアは小首を傾げるが追求せず、まだ廊下にいたフェイを招く。

 よくできた侍女だわ。

 取り繕った私は、フェイにランプの前を譲った。

 魔石を手に取り、1人頷くと、手に持っていた別のランプをテーブルに置いた。

「魔力切れですね。こちらのランプをお使いください」

 あ、やっぱりフェイは魔石の魔力残量がわかるんだ。

 フェイは、魔力がきれた魔石と魔法陣が記された紙をランプの器に戻し回収し、中空に浮かぶ火の玉を見上げる。

「ヴィヴィアン様、ご成長されましたね。素晴らしい出来です」

 今更だけれど、手から離して火の玉を維持できること隠していたのだっけ。と言っても、秘密で練習していたところ見られていたらしいから知っていたのかもしれないけれど。

 まあ、でもここはあえて高飛車にいこう。

「当然ですわ」

 フェイは苦笑を浮かべる。

「明日も移動です。程々になさってください」

 新しいランプも来たので、大人しく火の玉を消した。

「あ、フェイ。貴女今何か魔道具を持っていないかしら? 見せていただくだけでいいのですけれど」

「魔道具ですか? そうですね・・・。この指輪も魔道具ですが」

「見せていただけないかしら」

「いいですが、何をされたいのですか?」

 フェイは、指輪を取る手前で確認する。

 慎重ね。まあ、高価なものかもしれないものね。

「さきほど、ランプの中にあった魔法陣を見たのよ。何が描かれているのかと思って、他の魔道具も見てみたくなったのよ」

「そういうことでしたか。わかりました。ヴィヴィアン様は勉強熱心ですね」

 フェイから指輪を受け取る。女性が身につけるには無骨で、宝石であれば大きかったのだろうけれど魔石としては小さい石が鎮座している。しかし、外側にも内側にも魔法陣が見つからない。

「これはどういう効果の魔道具かしら?」

「障壁を発生させる魔道具です。簡易詠唱に反応するタイプですね」

「どこにも魔法陣が見当たらないわ」

「ああ、お借りしても?」

 フェイは、指輪を受け取って、魔石を台座から外し、台座部分を見せてくれる。

「このサイズの魔石では1回分しか使えないので、魔石を取り替えられる代物なんですよ」

 カートリッジみたいね。

 でも、思った通り。

 台座には《障壁》の2文字が記されていた。

「他にはないかしら?」

「ええと、そうですねえ」

「ヴィヴィアン様、よろしければ私の火の魔道具はいかがでしょうか」

 クレアがそう言って差し出してくれたのは、指輪の魔道具だった。

 クレアの魔道具は、女性用なのか細く、そして魔石ももっと小さい。

 リングをよく見ると、とても小さいが《点火》の2文字が見える。

「これは、火起こしに使うものだったかしら?」

「はい、そうです」

「参考になったわ。2人ともありがとう」

 2人は頭を下げて労いを受け入れ、フェイは退出し、クレアは再び私を椅子に座らせて髪を梳かして寝支度をしてくれる。

 さて。

 私は魔法陣について考える。

 魔法陣が日本で使われていた漢字と同じなのだとしたら、もしかしたら今存在しない魔道具も作れるのではないだろうか。

 魔法陣が漢字2文字縛りなのか、それとも今日見たものが偶然2文字だったのかそこも要確認ね。

 ヴィーの時は魔道具製作には興味なかったけれど、今は俄然やる気が出た。

 あれ? もしかして、これって知識チート?


閲覧ありがとうございます!

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