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軽く乾いた音が背後から聞こえたと同時に、ジェーンの体はぐらりと崩れ落ちた。糸を切られたマリオネットのように。胸から赤い花弁を散らせながら。
ひゅー、ひゅー、と苦しそうにか細い呼吸を続けるジェーンを抱きかかえる。
重いはずの命を奪う音と言うものは、こんなにも軽いものなのかと、僕はやるせない気持ちでいっぱいだった。
「彼女にはテロの首謀者として、殺害許可が下りていました。そしてジョン、あなたもテロ幇助の容疑で拘束します」
「アリス……ダンプティ……」
僕のナノチップの痕跡を辿ってきたのだろうか、それとも最初から僕をにらんでいたのだろうか。そう考えて、どっちでも変わらないかと僕はため息をつく。
非常事態用に支給される、昔ながらのグロックを僕に向けたまま、アリスとダンプティは僕に近づく。
「お前は不服かもしれんが、殺されないだけましだと思え」
僕には抵抗する手段も気力もなかったので、おとなしく二人に従う。このテロは、ジェーンにもっと親身になってやれなかった僕の責任でもある。ジェーンが死んでしまったのも、ジェーンにのこのこと会いに来た僕の責任でもある。
護送車からは外の様子が良く見えた。収まるところを知らない暴動。あちこちから上がる火から出た煙が、ロンドンの空を一面灰色に染め上げる。重なり合うようにして道端に転がる死体の数々。それはCISに近づくたびに数を増やす。暴動を抑えようと躍起になっているCISの人たち。この数ではCISの陥落も時間の問題のように思われる。本当にこのユートピアには、そこまでして守る価値があるのかな、と僕は思う。ジェーンが激しく憎んだこのユートピアを。
アリスもダンプティも、何も言わなかった。ただ黙って、僕をCISへと連れていく。おそらくはひんやりと冷たい地下の刑務部へと。僕にはそれがありがたかった。いまは誰とも話したい気分じゃないし、一人になりたい。
僕にとっては、ジェーンのいないこの世界は、色を持たない灰色の世界でしかなかった。
煙のせいだけではない灰色。
体中のあちこちをまっ赤に染めて倒れている死体の中にはよく見知った顔もあった。僕にナノチップの話を聞かせてくれた、僕にアイスコーヒーのおいしさを教えてくれたアルトゥール。
みんなが死んでいる。
みんなが死んでいた。




