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「ね、ジョンも来て」
僕はジェーンの隣に並ぶ。以前と同じ位置で、ジェーンとロンドンの街を見下ろす。
街中が炎の赤と、煙の灰色で覆われていた。
ジェーンは手に持った本を掲げ、目下に広がるディストピアへとその手を放す。
ジェーンの手を離れた『ユートピア』は、一陣の風にさらわれ、ページをばたつかせ、ちぎれさせ、ディストピアへと飲み込まれていった。
「見て、ジョン。これが人々の怒りの作り上げた街。今まで怒り、って感情を封じ込めていた世界に対しての暴動。本当の自分を隠さなければいけなかった世界に対しての暴動」
ジェーンはロンドン市内を眺めている。その瞳には、いったいどんな景色として映っているのだろう。
「今じゃ怒るってことはとっても子どもじみていて、破廉恥ともとられてしまうような行為。なんでだか分かる……」
僕は答えない。ジェーンはお構いなしに先を続ける。
「ナノチップがそう言った感情をみんな押し込んでしまったから。今や怒るのは反抗期の子どもたちの特権になってしまったから。怒ることができるのは今じゃ子どもたちだけ。本当は喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり、いろんな感情を持っていいはずなのにね」
だから、これはいままで抑えられていた怒りと言う感情が爆発した結果。これからみんな、本当の自分を取り戻すことができるよ。
ジェーンは崖下を向いたまま、その言葉をユートピアだった地へとかける。きっと、ジェーンなりの弔いの言葉。
「ジェーン、君はこの世界を憎んでいるんだろう」
「ええ、とっても。私はこの世界ではいないはずの存在。私はこの世界から外された存在。そんな私がこの世界にいるためには、私ではない別の誰かにならなければならなかった」
別の誰かの使っていたナノチップを埋め込むことによって。
この世界で生活するために、ナノチップは必要不可欠だから。
「私にはナノチップが二つあるの。初めて入れられたおさがりのナノチップ。そして最近入れてもらったこれまたおさがりのナノチップ」
もちろん合法ではないけどね、とジェーンはいたずらっぽく笑いながら言う。




