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Number:3
フュノン。人工の山。まがい物の山。
僕は汗まみれになりながら、フュノンを登っていく。人工の山に植えられた天然の木の枝が、僕を容赦なくひっかく。まるでジェーンのもとに僕を行かせないようにしているかのように。
でも僕はまだ、彼女に謝ることができていない。僕はまだ、彼女に伝えたいことが沢山ある。
体中にひっかき傷を作りながら、僕はフュノンの中腹へとやってきた。ジェーンがいちばん好きだったところに。僕がジェーンとロンドン市内を眺めたところに。
「久しぶり、ジョン」
そこにジェーンはいた。あれから全く変わった様子も見せずに。あの時のいたずらっぽい笑顔を向けながら。
ジェーンは本を片手に立ち上がる。トマス・モアの『ユートピア』を持ちながら、ジェーンは僕を見つめていた。
「ジェーン、僕は君に謝らなくちゃいけない」
「ううん、いいの。ジョンの言いたいことはなんとなく分かる」
「それでも言わせてほしい。すまなかった。僕の軽率な発言が、どれだけ君を傷つけてきたことか」
名前を持っているのが、ナノチップを入れているのが当たり前だと認識していた僕の発言が、どれだけ君を傷つけてきたことか。
「大丈夫。ジョンのせいなんかじゃないから。みんなの個人情報を抜き取ったのは私の意思。ジョンと会う前から考えていた私の意思」
私には名前がないけれど、自分がこうしたいって言う意思は持ってた。
自分はこうありたい、って望みはあった。
これが私。
私と言う存在。
そう言いながら、ジェーンは山の端に立つ。




