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でも僕たちもまさか二十年前に死んだ人がテロリストでした。なんて口が裂けても言えない。僕にはテロリストがジェーンであることも大方予想がついていたし、アルトゥールたちも本気で死人がテロリストだなんて思っているはずもない。
だから僕たちはみんな口をつぐむ。
「残るは沈黙、か」
ハムレットはそう言って深くため息をついた。残るは沈黙。生か死か、と並ぶハムレットの口癖の一つ。
「分かっているとは思うが、やつが国民の個人情報をばらまくまであと二日を切った。もはやほとんど猶予が残されておらん。首相も嘆かれていたよ。前首相がユートピアに軍などいらないと言って解体させていなければ、と。だが過去を嘆いても事態は変わらん。我々のやることは決まっている」
「分かっています。局長」
アルトゥールが僕たちの言葉を代弁する。でもアルトゥールの表情は晴れない。アルトゥール達には、まだテロリストの素性すらわかっていないのだから。
ジェーンはいまどこにいるのだろうか。どこから、このディストピアを眺めているのだろうか。どんな気持ちで眺めているのだろうか。
刹那、僕の頭にある考えが浮かぶ。希望的観測ではあるけれど。確証も持てないけれど。
僕はアルトゥールに断りを入れ、危険を承知でCISの外に出る。暴動の真っ只中に。ディストピアの真っ只中に。
僕は炎天下の中足早に向かう。ジェーンの一番好きだった場所、フュノンへと。




