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「そして二つ目は」と、アルトゥールが続ける。
「二つ目は、プロトタイプはわたしたちの意識に干渉することができた。これがプロトタイプの本来の目的だったらしい」
「本来の目的、とは現金を廃止して略奪を防ぐことだったのでは」
僕は以前アルトゥールに聞いた内容を反復して尋ねる。
「いや、略奪を防いだだけでは暴動は収まらない。むしろ暴動を抑えることを前提に、プロトタイプは開発されていたらしい」
そこまで聞いて、僕にはその先が分かったような気がした。
「と、言うことはそのプロトタイプは僕たちの攻撃性を、そして暴力性を抑えることができた」
僕の両親がそうだった。攻撃性を残らずなくされた僕の両親。いつだって穏やかで、いつだって他人を思いやっていた僕の両親。
そして僕はと言えば、それがとても不気味に思えた。
かつて子どもがいたずらをすると、きまって親はそれをたしなめた。
かつて子どもは、両親に叱られながら成長していった。
かつて親の中には、自分の子どもを虐待する者もいた。
僕はそのうちどれも経験をしたことがなかった。きっと僕たちの世代は誰もが。
いまや子どもがいたずらをしても、誰も怒らない。
いまや子どもは、親に暖かく見守られながら成長していく。
いまや親が子どもを虐待するなんてありえない。
なぜなら僕たちの世代はみんな、やさしさに包まれて育てられたから。暴力性も攻撃性も消された世代に育てられてきたから。絹のように滑らかに、優しく、穏やかに。僕たちに攻撃性を持たせないように、穏やかに。
だれも、怒りを知らずに育ってきたから。他人に優しくあれ親切であれと教わってきたから。




