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ユートピア  作者: バル
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02

 いまでは食料品も、衣類も、そういったものはみんな先払い。ナノチップで清算してしまわないとお店の人は誰も品物を渡してはくれない。せいぜい取扱商品をカタログにして、僕たちのナノチップに送ってくれるだけ。

 ナノチップのおかげで買い物も便利になったな、と僕の父親はよく言っていた。

 以前はお札やら小銭やら、そういったものをごちゃごちゃ探して、長い時間かけてようやく満足する金額を用意しなくてはならなかったから大変だった、と。

 残念ながら僕は紙幣も小銭も見たことがなかったけれど、きっと全然クールでスマートなものじゃなかったんだろうな、と思う。今の端末タッチの方が断然かっこいい。

 結局最後まで残った問題は今までの石油依存の経済からの脱却だった。

 その問題は第四次石油危機から半世紀とちょっとがたったいまでさえ難航していて、いままで石油を燃料にして得ていたエネルギーをどうやって確保するか、それがいちばんの問題だった。

 いまでこそ電力は、昔よりも格段に面積効率の上がった太陽光発電やら水力発電やら、はたまた息を吹き返した蒸気機関やらで確保されつつあるけれど、それでも発電量は日によって、気象によって、その他もろもろの影響によって安定性はまだまだ乏しい。

 飛行機も船も、石油からつくられたものを原料として稼働する物はみんな軒並み姿を消した。代わりに昔ながらの帆船も一時期流行ったけれど、やはり扱いの難しさから廃れてしまった。

 今では徒歩以外の移動手段に関してはみんな電気か磁気、またはその両方、もしくはごくまれに蒸気機関に頼っている。これなら石油もいらないからクリーンで、風任せの帆船に比べると扱いも簡単だ。

 いま、僕たちを支配するのは、電気と、磁気と、そしていちばんは僕たちの頭の中にあるナノチップ。

 僕。

 僕と言う存在。

 僕と言うナノチップ。

 僕と言う存在を記録したナノチップ。

 ナノチップは僕の情報をみんな中央(C)情報(I)管理局(S)へと送ってくれる。 いま僕の働いている場所でもあるCISへと。

 昔は銀行として使われていたこの建物は、いまではお金ではなく国中の人たちの個人情報を保管する場所となっている。国の最高度のセキュリティシステムによって守られた個人情報たち。

 この最高度のセキュリティシステムを最高度に保つために、僕たちは自分を隠さなければならない。

 僕の本名を。僕と、家族と、このナノチップだけが知っている僕の本名を。

 車のキーを開けるのも、買い物の支払いも、いまでは端末に指を触れて自分の本名を思い浮かべるだけ。ナノチップが認証して、それが管理局の情報を書き換えてくれる。何処何処の誰々は何時何分に商品Aを買って、何ポンドの支払いをしました。資産総額は何ポンド何ペンスです、というように。

 本名。それがこの世界において重大な意味を持つアイテムであり、僕たちは偽名でもって、自分の本名を、本当の自分自身を上手く隠しながら生活している。



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