part1, elaborate 01
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Number:1
半世紀前の話をしよう。第四次石油危機は僕たちの親の世代を大混乱に陥れた。
ずっとあと四十年を保ち続けてきた石油の採掘可能年数もついに力尽き、採掘可能な石油がとうとう底をついてしまったようだ。
大半のガソリンエンジンが電気エネルギーに変わられながらも、まだまだ現役を保っていた時代、一切のガソリン車の使用がその日以降実質不可能となった。愛着を持ってガソリン車に乗り続けてきた人たちも、電気自動車へと乗り換えを余儀なくされた。
もちろん打撃を受けたのはガソリン車に乗り続けてきた人たちだけではなく、石油を原料や燃料として産業や工業をする人たちもまた、苦渋を味わうこととなった。大規模のリストラによって、また、極端に値段の高騰した電気自動車を買わざるを得なくなって、貧富の差が大幅に開いた。
暴動に略奪。世界中が地獄のようなありさまだったと僕の父は言う。
実際たくさんの人たちがたくさんの人たちに暴動の矛先を向け、結果、これまたたくさんの命が失われた。
ある者は高すぎる車を売るディーラーを。
ある者は自分をリストラした会社を。
暴動はとどまるところを知らない。誰もが本能に従い、混乱に乗じ、そうして暴動と略奪が横行するディストピアを作り上げていった。
たった数日で完成されたディストピアをなんとかしてユートピアへと変えるため、当時の英国首相、チャールズ・グラッドストンは、イギリスで独自に開発された特殊なナノチップを、実験的に人々の頭に埋め込んだ。
いま、僕の頭の中にも埋め込まれているこのナノチップは、僕のすべての情報を、ある場所にリアルタイムで送り続けてくれている。僕の名前、年齢、住所、資産総額、学歴、職歴、肩書、家族構成、そういったものをみんな記録して、それを保護する場所に送ってくれる。
現金が廃止され、略奪されるものを無くし、首相は、チャールズ・グラッドストン首相は、暴動や略奪を止めようと目論んだ。略奪があるなら、略奪されるようなものをなくせばいいじゃない、と言った感じで。
事実、ナノチップの導入と現金の廃止というダブルコンボは、略奪のまかり通っていた時代には十二分の威力を発揮した。
いっさいの現金はその日からただの紙切れ、またはただの石ころとなった。
いっさいの店舗が現金での取引を廃止した。
いっさいの価値のある品物類は資金総額に資産の一部として累積され、現物は博物館へと寄贈された。
いっさいの店舗はナノチップ以外の支払いを認めなくなった。
僕たちの資産はみんな保護システムに記録されている。現物としてではなく、数字の羅列として。誰も略奪なんかできないように。
もちろんそれで貧富の差がなくなったわけではないけれど、とりあえず数年かけて、略奪をなくすことは達成できた。