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医者の中には同時に二人以上との会話は脳に多大な負担をかけるから使用は控えるように、と言う人もいる。控えるように、と言うのは精一杯優しく、精一杯オブラートに包んだ言い方だ。本来は禁止だ、と言ってもいいのだろうけれど、それでも人々はこの使い方をやめないであろうことをみんなは知っている。
日本の聖徳太子は同時に十人の話を聞くことができたというから、それに比べればたった二人との会話なんてたいしたことないのだろうと僕は思う。
僕はアリスに仕事の話ならダンプティかアルトゥールに頼んでくれと伝える。
「先日のあなたの報告書の件」
アリスの話は案の定仕事の話だった。記入欄の不備で戻されてくることはよくあることだったので、わざわざすぐに飛んで帰らなければならないということもないだろう。
「ロンドンに戻ってからにするよ。今は休日を謳歌させてくれ」
「まるまる一ページ分記載漏れがあったの」
僕はうんざりした。深夜までかかって疲れていたとはいえ、ページをめくるのに失敗して一ページ分書き漏らしてしまうとは。
「あぁ、うん、戻ってからにするよ。僕の机の上に置いておいて」
「もうわたしが書き終わらせちゃった。帰ってきたら何かおごってよ」
僕は思わず驚きの声を上げる。
「本当」
「えぇ、その他にも二、三直しがあったけどそれも全部」
当分僕はアリスには頭が上がらなさそうだ。僕は厚く礼を述べて回線を終わらせた。




