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「私はジェーン。ジェーン・ドゥ」
その女性、ジェーンの自己紹介に、僕は思わず笑ってしまう。反してジェーンはお決まりの反応だと言った感じでため息をついた。
「自分からジェーン・ドゥを名乗るのは変人だけですもんね」
「いえ、失礼。似たような人もいるんだと思いまして。僕も一部の人からはジョン、と呼ばれています。ジョン・ドゥ、と」
名無し同士だ、と僕は思う。僕とは多少違うかもしれないけれど。第一僕は自分から僕はジョンです、とは言わない。
「別に呼ばれる分にはジョンでなくても構わないんですけどね。どうせ偽名ですから」
「そうね、どうせ偽名ですものね」
ジェーンはくすくすと笑う。
「あなたはどうしてご自分をジェーン、と」
「もっと別な偽名を使えばいいのに、とおっしゃりたいのでしょう。でも、私にはこれが似合っているものですから」
ジェーンはいたずらっぽく笑って見せる。
その時の僕には“似合っている”と言う言葉の意味がよく分からなかったけれど、どうしてか僕はその笑顔は魅力的だと思った。
その日以降数日間はジェーンと顔を合わせることがなかったけれど、僕はジェーンの笑顔を忘れることはなかった。あのいたずらっぽい笑顔を。
ダンプティには片思いする中高生と評されてしまった。でも僕はある種の同族意識を抱いていただけなのだと思う。初めて出会った僕以外の名無しに対して。




