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「やっぱり俺は電磁飛行機が苦手だ」
グラスゴーから電磁飛行機に乗って帰ってきたダンプティの顔は一目でわかるくらいに真っ青だ。
「高所恐怖症なら電磁飛行機を使わなきゃいいのに」
アリスはもっともなことを言う。ダンプティなら高所恐怖症なのも仕方ないか、落ちたりでもしたら大変だものね、と強烈な皮肉を付け加えて。
速度としては電磁飛行機が一番だけれど、リニアモーターカーだって、劣らず早い。本来はリニアモーターカーではなく、マグレブと呼ぶけれど、これが日本から輸入して来た車両であることから、日本式の呼称であるリニアモーターカーとみんなは呼んでいる。
「そうはいかん。アルトゥールがご丁寧に電磁飛行機のパスをとってくれていたし、そもそも保護システムのトラブルだから迅速に向かわにゃならん。俺には電磁飛行機を使う以外の選択肢がなかったんだ」
たまにダンプティの律義さには感服する。僕がダンプティなら少しごまかしてでもリニアを使っただろう。アルトゥールが電磁飛行機のパスを往復で取ってくれたために、帰りも律儀に電磁飛行機で帰ってくるあたり、ダンプティは紳士だ。
パスをリニアのものに変更することもできたけれど、それもナノチップに記録されるので、せっかくパスをとってくれた上司の顔をつぶしたくはなかったのだろう。
「で、保護システムはどうだったの」
「あぁ、どっかの誰かさんのおかげで俺のやることはほとんど何もなかった。多少のウィルス検査だけですんだよ」
ダンプティはちらりと僕を見ながら言う。
「俺が上空で泡吹いている間に、おおもとの問題を解決したやつがいてな」
僕は何食わぬ顔でお疲れ様、とダンプティに告げる。
「ザムザ、ってやつが保護システムをイカれさせた犯人をとらえていたぞ。今はLISの刑務部の地下にぶち込まれているだろうよ」
もしかしたらザムザは保護システムの管理部よりも刑務部の方が似合っているのかもしれない、と僕は思う。ザムザとは幼少の頃からの付き合いで、僕の記憶の中のザムザはいつだって一昔前の警官の真似事ばかりをしていた。
「それじゃ、俺はアルトゥールに報告しに行ってくる。またな」
そこらへんで買ってきたのだろうか、玉子のサンドイッチをほおばりながら、ダンプティは管理部へと向かっていく。
LISに送る報告書にこっちに残す報告書、まったくやってられんね、などぶつぶつ文句を言いながら。
「ダンプティが玉子食べてる」
アリスが笑いをこらえながらそう言うのを、僕は聞き逃さなかった。




