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見上げた空は一面が灰色で覆われていて、僕は歴史の授業で習った一九世紀の産業革命の時代に戻ったような錯覚に陥る。時代は違うけれど、ロンドンという場所も、この灰色が煙のせいなのも産業革命と同じだ。もっとも、この煙は石炭で機械を動かすために出た煙ではないのだけれど。
いまではもう石炭なんて使う人はほとんどいないし、少し前まで現役だった石油も、第四次石油危機で極端に値段が高騰し、そして本格的に姿を消した。
第四次石油危機。
僕たちの生活を一変させたもの。
僕たちの親の世代が体験したもの。
僕たちの世界を変えたもの。
親の世代が、ユートピアを目指したきっかけ。
いま僕たちは親の世代の作りあげたユートピアに身を置いて生活を営んでいる。暴動も略奪も起こらない、平和で安全で、誰も他者を傷つけることのないユートピアに。
そこでは僕は僕として存在しているけれど、本当の僕は誰も知らない。他の人のことも誰も知らない。なぜならみんな隠しているから。自分を守るために、自分という存在を、自分の中に隠しているから。他の人たちも自分をちゃんと隠していて、僕たちにはそれを知ることができないから。
僕はこれを、後の世のために残そうと思う。誰にも知られないまま、旅立っていった者たちに、そして、隠されたままになっていた本当の彼らのたましいに、安らぎあれ、と祈りを込めて。