side魔王
ややシリアス入ります
――勇者と共に現れた勇者の『仲間』の中で、懐かしい感覚を覚えた。
今は知る者も既にいないが、『魔王』はかつて人間だった。
信じていた人々に裏切られ、怨みを溜め込む内に、負の感情を糧に自身の能力が高まっていくことに気付いた。
気付いたからには、止まれなかった。
一つの国を丸ごと潰した代償は、『魔王』という称号と世界からの拒絶。
全てが虚しくなり、このまま『勇者』に殺されるならそれはそれで構わないと思っていたが、複数の気配が近付くにつれ、異質なものが混じっていることに気付いた。
それは、見に覚えのある感情。
大切な者を想い、そのためだけにこの場にいた。
何故か気になり、気配の先、『大切な者』である少女へと意識を向ける。
それは気紛れのようなものだった。
しかし、目の当たりにした光景に愕然とした。
全身に巻かれた包帯。
不安定な呼吸。
――その少女は、死にかけていた。
原因を探ると容易に知れた。
恋に溺れて憎悪を撒き散らす王女。
かつて、同じ理由で恋人を魔女と騙り処刑台に送った今は存在しない自国の『それ』を思い出す。
人とはいつの時代も愚かなのだと思い知らされ、何も知らない魔法使いに同情に近い思いを抱いた。
安らかに眠らせた方が良いかとも思ったが、魔法使いが第二の魔王になる可能性がある。
一先ず不自然にならない程度に、他の治療行為に干渉しないように、少女を回復させていく。
幸い、と言って良いかは分からないが、勇者達が自分の元へ現れるまで時間がある。
ただの暇潰しだ、と誰にともなく言い訳をし、少女の周辺に自身の魔力を巡らせる。
危険な気配を感じたら然り気無く遠ざける。
自分でも柄でもないことをしているとは思うが、気になってしまったものは仕方がない。
やっと勇者一行が辿り着いた時、大切な者をどれだけ危険に晒していたか目の前にいる魔法使いに思い知らせてみた。
予想通り、魔法使いは負の感情に捕らわれ始めた。
そのままにしておけば、自国を滅ぼし『魔王』になっていただろうが――。