side魔法使い
――面倒臭い『魔王討伐』から急いで帰った僕に幼馴染みが口にしたのは、僕と王女が結婚するという根も葉もない噂だった。
……否、どう考えてもあの王女が流したに決まっている。
最初魔王に告げられた時はそんなバカな、と思った。
しかし魔王の力で幼馴染みの姿を見た時は心臓が止まる思いだった。
久々に見た彼女は、全身に包帯を巻いていた。
これはどういうことだ、と取り乱しかけた僕に、魔王は言った。
『王女が彼女を亡き者にしようとしている』と。
王女が僕を好きだとか、そんなことはどうでもいい。
僕は幼馴染みである彼女以外どうだっていいんだ。
富と名声に固執してばかりの両親だってどうでもいい。平民だからという理由で幼馴染みを虐げるのだから。
面倒な『魔王討伐』だって、彼女が襲われるなんて許せないから、仕方なく住んでいる国ごと守ろうとしただけだ。
彼女は病気がちな父親を見捨てることができないから。
それが裏目に出るなんて。
今すぐ彼女の元へ向かいたい。
しかし目の前にいるのは魔王。
他の仲間は微動だにしない。……否、魔王の圧力で動けないのだ。
進退極まる、といった状況で、魔王は何故か僕に優しく微笑んだ。