一人目「ゴールを見失った少年」
俺たちは、修学旅行中に事故にあった。自分たちの乗っていた飛行機が海に墜落したのである。幸運なことに、死亡者はゼロ。奇跡の救出劇といったところか。テレビでも多くのメディアにとらえられていた。……間違った情報で……。
人生とは一体何なのだろうか。楽しむことか?それとも、人生そのものに意味を見出すことが間違っているのか。俺は、人生、というものは、死というゴールへの道、つまり、寄り道だと思う。生産性について考えないなら、最も効率の良い人生は、すぐに死ぬということなのだろう。そして俺はいま、寄り道をやめようと思う。寄り道に疲れたのだ。そう思い、俺は自殺を決意した。
「どうせなら、人通りのあるところで、死ぬ瞬間に驚く顔を見てみたいものだな」
俺は人とコミュニケーションをとることが嫌いだ。無論、学校なんて大嫌いだし、修学旅行に行くことさえもためらわれた。そんな俺に話しかけてくれた少女がいた。学校では、いや、この世界で、俺はその子だけに心を開いていた。その少女の両親は物心つく前に亡くなっており、親族にも忌み嫌われているらしく、十四歳という歳で、一人暮らしをしていた。それでも少女は強く生きていた。生きているのではない、生きていた、のだ。そう、たった一人、飛行機の墜落事故で亡くなったのである。絶望した、この世界の不運に、そして、事実を受け止めない世間、もみ消す学校、すべてに絶望した。俺は、たった一人の理解者をなくしてしまい。生きる意味を完全に失ってしまった。
天気は晴天、修学旅行が初日で終了してしまい、生徒は学校に、自習をしに行っていた。俺は、そんなものは無視して、人通りの多い通りを探す。決心は昨日のうちについた。何も怖くない、苦しまずに死ぬなら、トラックで一発だろう。数分歩くと、大きな通りに出る。信号機は青、この信号が変わるまでが俺の最後の命だ、悪くない。
「さよなら、俺の人生」
そう呟いて、赤信号の道路に飛び出す。予定通りトラックが迫ってくる。運転手は俺にまだ気づいていない。今更気づいてハンドルを切ったとしても、助からないことは分かっていた。トラックと俺との距離がどんどん縮まる、どんどん、どんどん、走馬灯なんて見る暇もないな、そう思い目をつぶった瞬間、突き飛ばされた。人間が耐え切れない衝撃を受けた時、こんな音がするのか、と実感する。しかし、痛みはない……あれ?
自殺に失敗した。俺は石になったように固まって動けなかった。状況がまったくつかめない。目の前には、急ブレーキをしたと思われるトラックのタイヤの跡。数十メートル先にはひかれた男が転がっていた。そうか、俺の代わりに誰か死んだのか……なぜ?俺をかばった?はぁ?そのまま呆然としていると、警察に取り押さえられた。
俺はすぐに自殺しようとしたが、警察がそれを許してくれることはなく、精神病患者として、入院することになった。俺は、寄り道を続けなければいけないらしい。じつにつまらない……。
ある日、画期的な発明が発表された。頭の中にICチップを埋め込む技術である。最近急に伸びてきたらしく、また、ICチップを埋め込むことで、知識を組み込んだりすることができる。簡単に言えば、勉強をしなくていいのである。そして、頭の中にICチップを埋め込むことは義務化し、当然俺にも埋め込むことになった。
埋め込んでから、自殺したいと思わなくなった。おそらくICチップに俺の体が支配されてしまったのだろう。もし自殺しようとしてナイフで自分の体を突き抜こうとしても、そうする前に体が固まってしまうのである。
病院は俺が自殺したいと思わなくなったことで、俺の精神病が治ったと判断し、俺は退院することになった。
そもそも、機械は人間が開発したものである。しかし今、その機械、ICチップにより人間は支配されている。そんなこと絶対に間違っている。変えてやる、この腐りきった世界を。でもどうやって?もうすでに人間には埋め込まれているんだぞ?……そうか、埋め込まれる前に行けばいいのか。いや、どうせなら、俺の理解者も救おう。
俺の目の前には、長い年月をかけて作ったタイムマシンがある。タイムスリップする日付、時間は、飛行機事故の直後だ。入力完了、タイムマシンに深く腰をかける。タイムスリップのボタンを押す。タイムマシンと俺の透明度が上昇していく、そして完全に消えた。
時間の波をさかのぼっている途中でエラーが起きた。俺はタイムマシンから身を投げ出される。
気が付くと、トラックが迫っていた、目の前の少年には見覚えがある。そうか、そういうことだったのか。
俺は目の前の少年を車道の外に突き飛ばし、迫りくるトラックに正面から立ち向かった
「さよなら、俺の人生」
目を覚ますと、知らない景色が目の前に広がる。あれ?また俺は死ねなかったのか?
そう思い自分の両手を見てみる。俺の手じゃ……ない?
「ようこそわが城へ。君の新たな人生の始まりだ」