Chapter1【影の目覚め】
「オラァ!」
土に塗れた上履きの爪先が、汚らしい声と共に砂埃を巻き上げ大和の腹部に食い込む。
その後も無抵抗の大和へ三人の男子学生、漆原、森崎、木戸は無慈悲な暴行を繰り出し続ける。
「かはっ……!」
当の大和は痛みや苦しみを感じてはいたが既に日課と化していたそれに、どこか離人的な物を覚えつつあった。
いつになったらこのくだらないサンドバックの真似事も終わるのか、理不尽な暴力に対する屈辱はとうの昔に消え去っていた。
ふと、肩甲骨程まである後ろ髪を掴まれ顎を強制的に引かせられた。獲物が弱ったかどうか確かめるべく漆原が顔を覗き込んだのだ、閉口していても煙草と溝川の混ざり合った様な口臭が鼻を突き大和は眉を寄せ漆原に目を向ける。
「ッ……! なんだァその目は! あぁ?」
しかしそれが猿山の帝王の気に障ったらしい、漆原はそのまま大和の頭を地面へ叩き付けると頭を二、三度踏みつけた。
――ああ、またこれだ。
大和は自分の三白眼を呪った、元はと言えばこの目が原因で一年から漆原に絡まれたのだ。この時ばかりは自分を産み出した両親を恨むしかなかった。
そしてぐりぐりと頭に掛かる重さを感じつつ目を閉じる、暴力という物は振るう以上に振るわれる方が当然消耗が激しい。こんな状況にも関わらずふてぶてしくも大和は眠気すら覚えていた。
そして意識が遠くなり漆原のがなり立てる声は勿論、森崎木戸両名の腰巾着ぶりが露呈する台詞などは耳に通ってはいなかった。
チャイムが鳴り、壁に寄りかかり俯いていた大和は目を開き顔を上げる。
どうやら昼休みの校舎裏での暴行後しばらくの間眠りこけるように意識を飛ばしていたらしい、空を見ると太陽は随分と西に傾いていた。
「寝てても安息なんかない、か……」
昼間振るわれた暴力の焼き増しに大和は溜め息を吐く、ここ数年夢見は悪いが今回の物は過去最低と呼べるものであった。
「……まぁ、お金も取られてないし。殴られただけで済んでマシだったかな」
感覚の麻痺に自嘲しながら大和は立ち上がる、尻に付いた砂を払い乾いた血ごと唇の裂傷を撫でながら満身創痍の状態で放課後の教室へと向かうのだった。