12.迫られる判断、選べる自由
ふぅ、と人知れず溜息が漏れてしまう
失意の溜息ではなく、満足のいく本を読んだときのような満足感を得た溜息
だって、この運営さんが、面白すぎるんですもの
だからこそ、まわりの人が騒がないのかもしれない
知り合いでかたまり、静かな会話中
その顔は、呆れも含まれていたけど、そこまでひどい表情をしているものはいない
まぁひどい表情というか、すごい姿の方はいらっしゃったけど
まさに爆笑
カッコいいお顔が崩壊してますよ、と言いたくなるお顔で笑ってらした
でも、その気持ちはわかる
ログアウトできず、このゲーム内に留め置かれる以外は強制されてない
昨日からの鬱屈した気持ちは、この世界の青空のように晴れた
ちらりと見た、リキさんも、そんな顔をしていた
まだ、リキさんは、メモから顔をあげてない
だけど、笑いを堪えたような顔がすべてを物語っているわ
このゲームのスタッフたちは
こんな状況でも、私たちプレイヤーを楽しませようとしている
ということ
やる事はやる、だから、プレイヤーは、ゲームを
そして、この世界を楽しんでという精神にあふれていて
それは、私たちの光になった
「すごいね」
メモから目を放し、その中心に私を捉えリキさんが言う
きらきらと輝くひとみが言葉以上に雄弁に語る
「すごいわね」
私も答える
きっと私も同じような顔をしているのかもしれない
でも、わるくない
昨日が昨日だったから、なおさらよく感じられた
運営の人たちはこのゲームが無事に出られてからのことも考えている
怖いからもう二度と眠ゲーはしないと思う人もいるだろう
だけど、現時点では、またプレイしてもいいかな
って私ですら思えるぐらい
この世界で楽しませようとしてくれている
「よっ、お嬢ちゃん」
呼ばれ顔をあげると、ガフと書いた人が私に影をつくるように立っていた
西洋の騎士のように、全身銀色の鎧をまとっているから
ただでさえ威圧感があるのに
本人自体が、二メートルを超えてそうな身長、がっしりというより
ずっしりとした肉体と雰囲気でなおさらそう感じてしまう
「先発隊の騎士、ガフだ」
大きな手を差し出されたから、私も握り名前を述べる
友達申請がきたけど、それは保留
「お硬てぇなぁ・・・」
「お話が終わるまでには、考えますわ」
知らない人とはお友達になりたくありませんもの
リキさんとはご友人らしいけど
だからといって、私まで友人になる必要はないでしょう
「あ~らら、振られちゃって
私はパナよ、パールナパティ、宜しく、トシちゃん」
にこりと笑いながら目線は固定
じっと見かえしてると、指先で、頬を撫でられた
「強気で可愛いわぁ~」
ふふ、と、笑いかなり近い隣に座られた
「お友達申請、あとで受けて頂戴ね」
くすくすと笑うパナさんに笑うだけで留める
こちらも返事は保留したいところ
べったりと張り付かれたこの状態が続くなら
拒否としたいところかも、と個人的私怨でいいたくなる
作り物なのだから、彼女みたいなスタイルでもよかったかもだけど
現実との兼ね合いもあるし
眠ゲー自体が初めてだから、違和感を感じすぎるものは
おススメしないわと、母親様がいってらした
何をするにも、自分とイマジネーションが大事と
父親様に言われた
「二人はどうするの?
私も、ガフも、このままゲームを続けるわ」
「つーか、俺たちがやめてどうするってな」
ガハハと、男笑いをしているガフさんだけど、むしろ、そうしたいという気配
そう、親様たちと同じ雰囲気を持っている
未討伐のボス、エリアの扉を開くのは自分
名を残したい、つられない
まだ見ぬ世界を知りたい
ゲームという世界の中でのみなれる『英雄』を『覇者』を望む雰囲気
きっと、親様とは対立するか協力するか
そのレベル帯の人なのは確実
だから、返事より先に私は問う
「お二方は、トーヤとカナンをご存じ?」
「しらねぇやつは、すくねぇだろう
今じゃ、初ゲームのやつらまで名を知る変人だ」
「そうですわね」
それでこそ、親様です
あなた方は、もう出会えたのでしょうか?
そして、どれくらいのレベルになってるんでしょうね
「なに~、トシちゃん、憧れてるの?」
「いいえ」
「じゃぁ、なぁに?」
その興味がありますと、いう雰囲気と余裕が少しだけ可愛いパナさん
見た目よりお若い中の方なのかしら
「二人は私の親様ですの」
「「は?」」
ああ、いいお顔
くすりと、笑いをもらせば、まじで?と問うのリキさん
そういえばお話しておりませんでしたね
こちらに来る人がいるというお話しか
「このゲーム自体、頂き物
ゲームは自宅用の回線で固定ですから」
「兄弟からもらったのかと・・・」
そうでした、世間様には子供が複数いるのは確かですものね
でも、私一人でよかったですわ
私のような苦労をしていただきたくないですし
その苦労を共有するというより、弟妹のお世話で
二倍も三倍も苦労するのは、御免こうむりたいですもの
「子供いたんだ・・・あの二人」
「いたんですよ、実は・・・」
という私の溜息混じりの口調と表情で察してくださったみたい
「少しばかり、こちらに来すぎですが
悪い親様ではないんですよ
ただ、少しばかり、ね」
「あ、うん・・・」
察しました、耳が痛いですな雰囲気のお二人ににこりと笑い
お話は終了
現実のことは、いわないのが基本ですものですしね
今は特例なので許してくださいませ
「きっとコチラの世界では、かなりいい親様になってくれるはずですわ」
「だろうね、えーと、聞く?」
「お願いします」
それは、情報をということだろう
親様もそうだけど、言葉を端折る人が多い
「おい」とガフさんが、誰かを手招きする
「はいはーい」
とやってきたのは茶髪に小さな角がついた男性で
にこにこしながらやってきた
「参謀予定のヒッツジーっていいます、羊な執事ってよくない?」
「さぁ」としか私は答えられませんよ
がっくりとしたヒッツジーに、クーデレになるまで頑張れとわからないことばで
慰め、説明を促した
「空人トーヤから説明しますね
空大陸、1-1ボスから推定5-3ボスまで初踏破の業績を持ち
大陸全体で初ギルド設立
ギルド名 天体王者のギルマスをしている」
「ギルド設立は、1Tからね」
「うげ、早から1T超えかよ」
「でも、ギルド設立は、利便性高いからなぁ・・・」
と、まわりの人たちがいっている
そういえば、会話で話してましたわね
「そう、ギルドの設立は、現状ならかなり利便性が高い
レベルによるものだが、彼の人気度で人数もありとギルド貢献度により
共通のギルドルーム以外に個室がある程度用意されてるはずだ
宿代がかからない、どの場所らもギルドルームに帰れるのは大きい」
私は、たしかに、と頷く
ここで定住するならは、家を借りるという選択は間違いではないけれど
親様たちのように動き続けるならば、動く自宅は必要でしょう
「とうぜん、職人も抱えてるし、むしろ、トーヤは職人から人気だからね」
「そうなんですの?」
「そうなんですよ
今、天体王者の見た目のスタイルは、ロングコートにサングラスもどきの目隠しだからね
職人たちに急がして作らせた
ほら、彼が、太陽と月を模すのを目指してて
現段階は、赤髪に金メッシュの髪色
サングラスで見えないけど、月色の金目だから、その内色加えるっていってたはず」
「容姿にこだわるから職人に人気なのでしょうか?」
「それもあるけど、職人がすることを楽しむ人だからね
素材関係は豊富だし、現段階衣食住と身の安全保障付き
レベルリングしてくれるしな」
「レべリングは、経験値稼ぎな」
と、あまりお好みではないとガフさんの顔
「ゲームの楽しみってもんがわかっちゃいねぇのさ
弱くて負けるは当然だ、バカで負けんのもな
まぁ、今回ばかりは、しゃーねぇけど
強いやつに手伝ってもらって、さくさく狩れるのが当たり前になるし
中のやつがバカみたいに勘違いしやがる
で、心折れて辞めんだよ」
「要するに楽して損をするんですね」
「うまいですね~」とヒッツジーさんが笑う
「隊長もいってますが、今回はまぁ、ありかなと思いますね
今は、運営の対応で、初心者の大半が
強者の寄生か搾取になってますから
トーヤさんみたいに育ててくれる所はないでしょうし
おもしろい、やってみろ、うちに来いって男気あふれる人はそういませんからねー」
と楽しげにみんなが笑う
こんど時間があれば、掲示板をゆっくり見る事にしましょう
「で、片や海人のカナン姫ですが
あのグループはいつもと変わらずというより、よく1000人に選ばれたもんですと
違う意味で感心したいです
もともと、姫日誌で海人を選択するということを宣言されてましたから
他ゲームの元のギルメン、ファンクラブの面々が、全部海に流れ
そういう意味で海が一番人気種族です
姫の円卓の騎士こと、セヴィ、カディ、ラディがいて
一の騎士セヴィが水煌宮というギルドを設立
3-5とボス踏破数は少ないですが、全員のレベル帯が高くて
その内、天体王者を抜かすんじゃないかと噂されてる」
「だだな、あの二人の行動がおかしいんだよな」
「そーそー、大陸クエスト無視な行動をたまにするんだよな」
「明らかにレベル違いのところに攻めて行ったりしてさ
自爆?とか一時期騒がしかったもんな」
「こちらに向かうルートではありませんか?」
「ん?何お嬢ちゃん?」
「その二人の行動ですが
こちらの陸人大陸への方向ではないんですか?と質問しました」
私が言葉を端折るのはだめなんですね
この方たちの端折り方にも法則があるのですね
「全体地図がまだでてないから、なんとも言えないよ
ただ端を目指してるのは確かだったな
今はやめたけど」
「・・・やめた?」
親様はあきらめたんでしょうか?
そうなると私の行動も変わってきますね
諦めてよいならば、私は、ゲームを放棄して待ちに入るのもわるくありません
「ワープゲート、通称、大陸の門があることが発覚したから
そっち目指してるっぽい
二人とも、早く会いたいっていってて
名物カップルだぜ?」
「そ、そうなんですか、情報ありがとうございます」
なんか、親様たちがかなり痛い人です
でも、その会いたい・・・はお互いにでしょうか?
それとも、私?
「で、お嬢さんも俺んところのギルドはいる?野宿は危ないよ?」
「野宿・・・ですか?」
「あれ?じゃあ、昼間宿ってんの?」
「いいえ?」
「今まで寝てないの?」
「いいえ、毎日ぐっすりベッドでやすんでおりますが?」
「あらあら、何か特別な秘密持ちね
でもね、皆さま
女の子の秘密はあばいちゃダメよ」
パナさんが、ね、と私の肩を両手で包むように抱きしめてくる
言葉についてはうなずけますが
過剰接触は、辞めて頂きたいところ
そして、フレンド申請
「今は、全て保留です」
離してと、腕をとって払うように開く
すくりと立ち上がり、安全でありロリコンという危険因子のある
リキさんの後ろに回る
「かえりましょう」
「あ、うん」
「居たいですか?」
「いや、いいよ、ご飯も食べたいし行こうか」
空気の読めるリキさんのことはとっても好きです
わーおー、本日ので、ストックきれました
困りましたねー




