9.危険が一杯、丸い綿毛増殖注意報
ギルドの二階で、ナゲル氏と本を読んでいるけれど
魔空間にふさわしく
幾ら人が入っても、窮屈にならず、むしろ、人が増えれば増えるほど
部屋が広くなっていくような感覚を覚えた
ナゲル氏にそういうと、柳髪のすき間からのぞく目が面白そうに煌めき
ぽそりと空間と呟く
空間魔法があるようです
しかし、魔法ではないほうだし、私の観察力と条件では
まだそれは点灯すらなく
スキル・魔法の入手はできませんでした
すごく残念です
まぁ、たしかに、この街に宿屋は少なく
ギルドは一番の安宿として、特に男性素体に人気
空間的に雑魚寝しても足りないぐらいの人が
一週間の連泊を頼んでいるのを
ギルド登録の時に見たのに、気づかない私はまだまだですね
私もそれなりに、パニックに陥っていたということでしょうか
日が傾き、ナゲル氏がくわりと欠伸をされたので
即席勉強会は終了
ありがとうございますと
おばさん特製のパンを渡して御礼とさせていただきました
ナゲル氏の予定も聞けましたので
これでギルドに来たときにお話しという名の勉強会を開催していただけるはずです
ナゲル氏の授業は週に6回
この世界の一週間は10日
時間帯で、何曜日とすると、ログインができない時間ができるせいか
曜日によってクエスト、ナゲル氏のような講師の講義のためか
7日でも6日でもなく10日となっている
中にいれば、現実世界の時間など気にする必要はないけれど
外にいれば重要度の高い時間変換
きっと、ログイン画面や公式で、ゲーム内日時が記されているのは
ステータス画面で判っている事ですが
3日目にして、私すこーしばかり、嫌になりました
いえ、今にして、この状況に怒りを覚えているのかもしれません
なぜ、こんな状況になっているのか!ということ
リキさんがいてくれたおかげなのか、せいなのかは不明ですが
2日は、この感覚が鈍っておりましたし
私もそれなりにゲームを楽しんでいたのでしょう
どうしても、現実世界のことが気になり
拒絶、したくなってきました
「トシ?」
「いえ・・・ちょっとばかり、現状がいやになったものですから」
ふぅ、と私は長めの溜息を吐く
「まぁ・・・ね」
リキもまわりの喧騒をみるふりをして、かすかに漏れる息
溜息を隠している
「そろそろ、公式からでも、愉快犯からでもなにか連絡があればいいけど
ダイブし続けてるに、体が疲労してるのか
余計なことを考えてしまうね」
その言葉に、私は、頬が緩んだ
リキも同じだったのかと
陸人のはじまりの地でも、親様たちと同じゲーム好き
その言い方では生ぬるいぐらいどっぷりとゲームにはまっている人たち
廃人たちは、3日目だというのに
どんどんとレベルがあがり、行動範囲エリアを拡大し
ボス討伐まで進んでいる
親様もきっとそうだろう
あの親様たちは、連絡すらよこさなくなりましたから
どっぷりと、はまっているのは間違いないでしょう
だから、彼らにとって、この世界は心地よいものなのかもしれない
だけれども、私は・・・、私とリキさんはそうではないみたいだ
「いまさらだけど、ちょっと不安になるな」
「そうですね、むごたらしいというより、汚らしい姿で死ぬのかしらとか
思っちゃいますわね」
「それ、まじ勘弁」
頭を小さくふって、振り払う自分の最悪の姿
「トシって呑める?」
「たしなむ程度には」
「外で呑む?家で?」
「たまには外で、と言いたいですが、悪酔いしそうなので家でもいいですか?」
そう、羽目をはずすというよりは
前後不覚になり、どうしようもない不安に押しつぶされて
それこそ黒歴史を作ってしまいそう
「じゃぁ、その店のでいいよな
つまみお願い」
といって、リキは、あれそれこれと、頼んでいきますが
それ・・・多くありませんか?
その声を背に、近くの露天で私も夕食兼おつまみを買う
「何系が好きかわからなかったから」
「ですね」
それは、私も同じ
朝食にまで回してしまいそうだけど、いろんな種類をこまごまを購入してしまった
肉は、クジャク肉があるから少な目にしている
というくらいには冷静みたい
ふふ、と私が笑うと、リキが何?と笑う
「まだ、冷静にいられているような気分で
それが欺瞞なのがわかってて、おかしい」
私はそういって、もう一度笑う
「欺瞞でもいいんじゃないかな?
だまして、だまして、この世界生きて
その内楽しめるようになったら、いいんじゃないかな?」
「そうね、最悪、そうするしかないもの」
戻れないと言うならば
「今日のことは、忘れる」
「そうしましょう」
◇◇◇◇◇
忘れたいのに、忘れないのは、この頭痛です
「あたま・・・割れそう」
ナトさんのおつかいクエスト、今日なくて本当によかった
動くと、体から発酵臭が・・・といいたくなるくらいお酒臭い
お風呂にはいりましょう・・・
体を引きずるようにお風呂場へ
布をめくると、そこにいたのは、同じ考えのリキさん
・・・うふふふ
「ごめんなさい」
ぱさり、と布を戻しその場を離れる
背後から、うわ、えっ!なんて声は聞こえておりません
そして、ゲーム内です
ゲーム内ですとも
牛乳はあっさり牛乳になって
昨日の夜の分の濃厚牛乳は、すべて廃棄されたかとおもったら
きおくにありませんが
しっかりと、バターになっておりました
二人で、泣き笑いしつつ、シャカシャカふっていたんでしょうか
・・・すごく、シュールです
牛乳を飲み終え、食器洗いはあと
風を浴びたくて、再び階段を上っていく
木の階段特有の軋み、吐き出し窓か、出入口か不明な場所から外にでて
昨日、ナゲル氏にいただいた鳥伝こと綿毛をみる
・・・うふふふ
まだ酔ってるのかしら
半屋上になった場所に煙突のような塔
それにはいくつもの穴が開いていたはずなんですけどね
なにか・・・ぎっちりつまってる気がしますわ
白い綿毛が
つむ、と突くと、ぷるりと揺れ
ふるふると揺れ動くと、にゅるりと頭が出てきた
くーくーと鳴くそれは、まさしく鳥伝
・・・なのはいいんですが
がしっとつかみ、外に投げると、ピキュという豚ににた鳴き声をあげ
ぱささと飛び・・・落ちる
恨みがましい目をしてこちらをみているけど
他も同じように投げ捨てると、同じような視線
「私の鳥は一羽のみです、いったいどこから来たんですか!」
と意味のないことを聞いてしまいます
まだ、よっぱらいですね
でも、ええ、きっと・・・ずっとこのままなんでしょうね
ホームシック?な二人の酒盛り
そして、翌朝はラッキースケベ?
それに仲間?が増えました
寝てる時は、本気で丸の毛玉です
可愛いのか、可愛くないのかは、想像にお任せします