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never too late

卒業式が終わった後の彼女と彼。



桜も咲かない寒い昼下がり。

この手を離したら、2人の道は別れてゆく。






「冷たいな、手」

「体育館で冷えたかな」

「カイロくらい持ってないのか?」

「おなかには貼ってるけど」


声の主が呆れたように息を吐く。

ああ、まただ。

そう思いながらもその表情を見ることは出来なかった。怖くて。

そうしたら、思いがけずその手がふっと強く握られる。


みぞおちの下あたりから何かが込み上げてくる。


下駄箱から靴を取り出したとき、クセで上履きを入れようとして苦笑いする。

そして少し離れた回収箱に上履きを落として昇降口を出る。

ふと気配に気付いて右を見ると、鮫島(さめじま)がガラス戸にもたれて立っていた。

鮫島は私を見て、むっくりと起き上がる。

やほ、と片手を上げたら、鮫島もこっちに近付きながら同じようにしてくれた。


私と鮫島は付き合っていた。

……いた?うーん、ニュアンスとしてはちょっと違うかな。

正確に言えば『付き合っていたけどもうすぐ別れる』が一番近いかも。

とにかく私は、高校時代鮫島一哉(さめじまかずや)の彼女だった。

その生活がもう少しで終わろうとしている。

何が悪かったんだろう?

今になってはもうよく分からない。

分からないけれど、結果はこうなってしまった。

私たちは今日、校門をくぐったらサヨナラ。

卒業式の後だし何となくセンチメンタルになってるのかな。

どこからともなく現れた鮫島と手を繋いで校門をくぐろうとしていた。


昇降口から校門までなんてすごく短い距離。

感じるのはただ、熱いくらいの鮫島の手の温度。

急にどうしていいか分からなくなって、言葉が出なくなった。

何で鮫島に手を差し出してしまったんだろう。

こんなこともあろうかと話題をいろいろ考えてたのにな。

悔やんでも鮫島の手はそのまま私の手を握っている。


ねぇ、昔こうして帰ったことあったよね。

鮫島の部活が遅くなって、でも待っていたくて本当に待ってたら、一緒に帰れたけれど翌日風邪を引いた。

あの日もこうやって寒くて、息が白くなった。

繋いだ手がほどけそうで心許なくて、必死にその指を掴んでたの。


思い返してみれば、ずっと一方通行だったのかもしれない。

だからこんな結末になってしまったのかもしれない。

もう明日からは学校に来ない。

毎日当たり前のように喋ってた友達とも会わない。

鮫島とも、もう会えない。

急に込み上げてくるものがどうしようもなくて、



ああやっぱり私今でも鮫島のことが好きで仕方ない。



手なんか繋ぐんじゃなかった。

離れていれば良かったのに。

少しずつ少しずつ手の力を抜いてゆく。

このままならするって手を抜けるから。

そうしたら無理やりにでも笑ってバイバイって言おう。

走って逃げれば泣いても気付かれないよね。

うん。


いよいよ校門に差し掛かる。

見られなかった鮫島の顔をそっと見る。

……どうして?

鮫島はまるでずっとそうしていたかのように私を見つめていて、目が合った。


「……さ、鮫島?」

「なぁ」

「な、何?」

「俺たちこの手放したらもう二度と会わないのか?」


ど う し て 。


それはずるい質問だと思うな。

自分では言わないで私にお別れを言わせようとするんだ。

そんなのってないよね。

泣きたくなるよ。


「……同窓会とか、あるし、えっと……二度とってことはないと、思う、けど……」


語尾が消えてなくなりそうだった。

こんなに言葉を紡ぐことが辛かったなんて。

もうその瞳をみていられなくて、俯く。

やだやだやだ、こんなの。


「そうじゃなくて、」


イライラした声が聞こえて、熱い両手に頬を包まれる。

それは一瞬の出来事。

反射的に閉じた瞼。赤い光がチカチカしてた。


「……ったく、どうすりゃいいんだよ」


吐いて捨てるみたいにして呟かれた言葉。

無意識に吸い込む息が喉に冷たかった。


「俺は……っ、」


鮫島の荒い息が白く煙る。


「俺は……」


何となく付き合いだした私たち。

いつも部活が最優先で、デートなんて改めてしたこともなかった。

それでもそばに、隣にいるのが当たり前で。


「言って」


お互いが何を考えてるか、察することしかしてこなかったよね。

もういいんじゃない?思ってること言おう。

言い合おう。


「……放したくない」


ぎゅっと握られた手。

その熱さが私の血管に流れ込む。

だから私も勇気を出して、顔を上げた。

つぅっと片目から涙が流れ落ちた。

それを見て鮫島が息を呑む。


「放さないで」


あっという間に抱き寄せられて、鮫島の胸の中で涙を零す。

鮫島の心臓の鼓動がすごくよく聞こえた。

大きな手が、今度は優しく私の頬に触れるから、私はそれに擦り寄った。

見つめ合う。

静かに目を閉じて、もう一度下りてくる唇を待った。




ねぇ鮫島。

私思ったの。

今からでも遅くないよね。まだ大丈夫だよね。

手を繋いで2人して校門をくぐった。

行き先はまだ分からないけれど、でもずっと一緒。

だってこれから歩く未来は、今から創ってゆくんだから。

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