8
「何時だと思ってんの?!」
団地に帰ると、それぞれの家族がみんなを探しに外に出ていた。
時間を見ると、8時に近い。
夕方目が覚めてから、時間も見ずに暗くなるまで、見つからなくなるまで、探していたからだ。
団地の周りを探してくれていた大人たちは、ほっとした様子でそれぞれの子供を怒ろうとしたが、一番に手を上げたのは詩央だった。
ノリオの頬が赤くなるくらい、勢いよく叩かれた。
その勢いに、自分の子供を怒ろうとしていた他の大人が怒ることを忘れたほどだ。
「晩御飯の時間も解らないの?! 暗くなる前には家に帰りなさいって何度も言ってるでしょ!?」
「だって」
ノリオたちが遅くなったのには、理由がある。
ただ遊んでただけで、こんなに遅くなったわけではないのだ。
それもこれも、理由は詩央のことなのに、こんなにもその本人に怒られなければならないのが理不尽にも思えた。
だから言い返そうと顔を上げたとき、団地の明るい外灯の下に照らされた詩央の顔が見えて、その先が言えなくなった。
髪はぐしゃぐしゃだし、顔は真っ赤だし、目は吊りあがってて眉もぎゅうっと寄っている。
とてもじゃないけど、母親に似て綺麗な詩央はどこにも見えなかった。
その顔が、目が、潤んで光っている。
泣いたのだ。
詩央が、泣いた。
それはノリオがいなくなって、心配して、探して、見つからなくて、不安になったからだ。
そしてノリオが居たから、思い切り怒れる。
ノリオはもう一度俯き、何も言えなくなった。
「・・・・・」
「みんな探してくれてたのよ! だいたいあんたはいつも――」
「まぁまぁ詩央ちゃん、ノリオくんも反省してるし、うちの子たちも無事だったんだし」
「落ち着いて、お腹も空いてるからとりあえず、ね?」
いつまででも怒鳴り続けようとした詩央を止めたのは、他の大人だ。
ハルジの父親と、カツジの父親が、優しそうな顔で怒りを鎮める。
「そうね、どこにいたのかは後でゆっくり聞くから、一度家に入りましょ」
「ほんと、ドロドロになって、どこで遊んできたのやら」
苦笑して続くのは、テツとシュウの母親たちだ。
周りにはその妹や弟たちがいつもと違う詩央を恐々と見上げている。
詩央もそれを受けて、深く息を吐いて怒りをどこかへやろうとした。
どうやらこれ以上は怒られないらしい。
ノリオたちが少しほっとしたとき、そのノリオの耳は確かに何かを聞いた。
チリン
微かな小さな音だったけど、それは今まで何度も聞いたことがある、もう耳に慣れた音だった。
ノリオは勢いよく振りかえり、団地の前を見た。
外灯から少し離れたところに、男が立っている。
その男のズボンのポケットが、柔らかな外灯の明りを受けてキラリと光った。
何がどうしてかは解らない。
ノリオは瞬間的に、あれだ、と判断した。
「――捕まえろ!!」