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このあたりでプールと言えば、市営のプールになっている。
大きなプールと、小さい子用の小さなプール。
夏休みの間はどこかの大人が監視役としているけれど、プールに入ってしまえばそんなことも忘れてしまえる。
ノリオたちは更衣室に入るのを省くため、ズボンの下に海パンを穿いてきていた。
服を脱ぎ捨てればすぐにプールに入れる算段だ。
すでに子供でいっぱいのプールに、意気揚々と乗り込んでいくが、一緒に来ていた詩央はジーンズに白いシャツに、日傘を差したままだ。
「姉ちゃん、入んないの?」
せっかく誘ったのに、とノリオが言うが、詩央は呆れた顔で見返した。
「今は小学生の時間でしょ。いいわ、私は小さなプールに足を付けて遊んでるから、そっちで好きに遊んできなさないよ」
ただでさえ子供でいっぱいのプールに、大人まで入るとなると遊ぶどころではない。
昼の1時から3時までは小学生、3時から5時が中高生、とこの辺りでは決まっていた。
そういえばそうだった、とノリオは思い出したが、目の前にあるプールに気を取られて、詩央に見送られて全員で大きなプールに飛び込んだ。
飛び込み禁止なんて看板は、誰も守ったことがないのは監視員も承知だった。
最初は何分潜れるか、息継ぎなしでどこまで泳げるか――と競争をしていたが、そのうちにリツが小さいプールを気にし始めた。
「詩央ちゃん、ひとりでつまんなくないのかな」
「えー?」
言われて、全員が詩央を振り向く。
大きいプールからこっそり顔だけ出してみると、小さなプールの縁に座って日傘を差して、水面を見つめている詩央がいる。
その表情は、こちらからは解らない。
楽しいのか楽しくないのか、ノリオたちには解らなかった。
どうしようか、と考え込んだとき、プールを囲うフェンスの向こうに、知っている顔があるのに最初に気付いたのはリツだ。
「――あの男、朝、詩央ちゃんとあいさつした男だ」
「え?」
「どこ?」
指さした方向には、確かに朝見た暗そうな大学生が立っていた。
そして、その視線は詩央の背中に向いている。
一瞬たりとも、違う方向には向かない。
ノリオはなんだかお腹がむかむかして、顔を思いっきり顰めて、そしてプールを飛び出した。
全員が慌てて後を追う。
向かったのは、自分たちの脱いだ服と荷物が置いてあるところだ。
そこに持ってきていた水鉄砲をノリオが持ったとき、全員がその意図を知る。
自分たちも武器を手に、プールにそれを付けて弾を充填した。
ここはプールだ。水なら、いくらでもあるのだ。
「攻撃開始―!」