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忘れない日々  作者: 秋野真珠
最後の夏休み
5/14

「あんたは本当、毎日楽しそうねぇ」

素麺を作った詩央に言われて、ノリオはたっぷりのつゆに付けながら首を傾げた。

「だって、夏休みなんだぜ?」

「それもそうだけど・・・あー私も小学生に戻りたいわ」

詩央は入りたい大学があるらしく、毎日勉強しているのをノリオは知っている。

勉強が嫌なら、勉強を止めればいいのに。

ノリオはそう言いたいが、言ったらもっと違うことを言われそうで黙っていた。

それなのに、

「遊ぶのもいいけど、リオ。小学生にだって宿題があるんだからね? 最後になって泣きついてきても、今年は姉ちゃん手伝わないからね?」

何も言ってないのに余計なことを言われてしまった。

ノリオは俯きながら、ずるずると素麺を飲み込み、

「・・・いいもん。だってとーちゃんが見てくれるって言ったし」

ぼそっと言ったのだが、詩央は呆れた顔で返した。

「お父さんがその日にうちにいるかどうかわからないでしょ? あてになんないわよ」

ノリオたちの父は、仕事でほとんど家に帰らない。

出張と称して一ヶ月くらいは平気で空けるし、家に帰っても朝早くに出て夜遅くに帰り、ノリオと生活時間が違うためあまり会わない。

二人きりの生活に慣れてしまったが、ノリオはそれでも父親が家にいると嬉しい。

たまに帰ってくると、全力で遊んでくれるからだ。

でも遊びに夢中になって、オトナのくせに全然手を抜かなくて、ノリオは勝ったことがなくて、それがむかついてもう帰ってこなくていいのに、と毎回思う。

「でも、そうねぇ・・・もう夏だよね」

詩央は暑い外を見てため息を吐いた。

そこで、ノリオはなんとなく思いついたままに口を開く。

「姉ちゃんもたまには勉強止めて遊べばいいよ」

「は?」

詩央は聞き返したが、ノリオは名案だ、と思った。

食べかけの素麺をテーブルに戻して、ベランダに駆け込む。

「リツーテツーシュウーハルジーカツジー!」

部屋の上下に向かって、大声を上げる。

みんな窓を開け放してるから、ここで呼べばみんなに聞こえるのだ。

ほどなくして、ノリオの右となりからリツが、その上からテツ、ひとつあけたとなりからハルジ、その上にカツジ、そしてもうひとつ向こうからシュウが顔を覗かせた。

「なにー?」

みんな食べている途中なのだろう。箸か茶碗を持って出てきた。

それらにノリオは提案する。

「昼からプールな! 用意して集合―!」

集合場所はいつも決まっている場所だ。

もう決定事項にするノリオに、横からリツが声をかける。

「ちょっと待てよ、ノリオ、だってまだ・・・」

秘密のミッションは完了していない。

まだ、詩央の鏡は見つかっていないのだ。

でもノリオはそれよりもこっちのが楽しそうだと思えたのだ。

「姉ちゃんも行くからーあとでなー!」

行って、ノリオは部屋に戻った。

さっさと食べ終わって用意するためだ。

部屋にいた詩央は当然ながら、ノリオの声を聞いて目を丸くしている。

「ちょっと! 私はプールなんて行くって言ってないでしょ!」

「なんで? 夏なのに?」

ノリオは詩央が行かないというほうが不思議だ。

素麺を食べ始めたノリオに、詩央は諦めたようにため息を吐いた。

「・・・解ったわよ、引率すればいいんでしょ」

引率ってセンセイみたいなのじゃなくて、一緒に遊べばいいんだよ。

そうノリオは言いたかったのに、口の中は素麺でいっぱいでもごもごとしか声が出なかった。

「飲み込んでからしゃべりなさい!」

詩央に怒られて、ノリオはさっさと食べることに集中した。


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