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全員がもう一度同じ場所に集まったのは30分後だ。
プリプリ怒ってる詩央にいつもの通学路を聞いたノリオに、落し物に届け出はなかったと確認してきたテツとシュウ。そしてノート片手のリツに、虫取り網と釣竿と水鉄砲とパチンコをそれぞれ両手に持ったハルジとカツジ。
「なんでその格好なんだよ!」
全員の突っ込みを受けたハルジとカツジは顔を合わせた後で、
「え、だって、捜索に必要なもの、だろ?」
「間違ってないよな?」
「網と竿もよくわかんないけど、水鉄砲とパチンコはもっとなんで?」
リツも不思議そうに訊く。
だけど当然のように返された。
「だって、西小のヤツラといつ会うかわかんないだろ?!」
もっともだ。
今のとこ、ノリオたちが勝ち越しているけど。
勝っているからこそ、負けている向こうはこの夏休みに覆そうとしてくるはずだった。
ノリオたちは呑気すぎた、と二人に詫びて、もう一度家に帰ってそれぞれ武器を手にもう一度集合した。
捜索、開始だ。
「姉ちゃん、チャリで学校まで行くからな。うちから15分くらいって言ってた」
「人通りが多い駅を使わないのは助かったな」
「ルートはどれだ?」
リツが描いた手書きの地図に、作戦を書き込んでいく。
気分がどんどん上がって行く。
絶対に見つける。
見つからないはずがない。
ノリオたちの思いはひとつだった。
団地から出ようとしたとき、ちょうど詩央も出かけるのかマンションから出て来た。
「姉ちゃん、どこ行くんだ?」
「図書館。友達と約束してるから――お昼には帰るから」
「ふぅん」
詩央を見送って、ほっとしたように息を吐く。
作戦は秘密にしなければならない。
見つかったとき、嬉しさが半減してしまうからだ。
このあたりの子供が使う図書館は駅の近くにある。どうやらルートが違うらしい、とほっとしたのに、リツがその後ろを見送ったまま作戦変更を行ってきた。
「もしかしたら、図書館に向かう途中で落としたかもしれない――尾行開始だ」
尾行。
それはノリオたちにはたまらない響きだった。
誰も反論もなく、詩央の後を追うことになった。
きっと勉強道具が入ってるだろう鞄を肩からかけた詩央の後ろを、ノリオたち6人は出来るだけ離れて付いていく。
途中で、詩央が誰かに頭を下げて挨拶をしていた。
「――誰だ? あの男」
「知り合い?」
夏なのに、シャツのボタンは上まで止めてるし、長いズボンを穿いて、暗そうな眼鏡をかけてなんだか陰険そうだ、とノリオたちは判断した。
そんな男にも詩央は笑顔で頭を下げる。
「知らねぇ」
「あ、あいつ見たことある。通りの向こうの、大学生だったと思う。前に、母さんたちが言ってた。なんかイイトコに入ったんだって」
この界隈のウワサに詳しいシュウの母親の情報は、確かだ。
「へえー? その大学生が、こんな道で何してんの?」
こっそり見たところ、その男は道に立ってるだけで、何をしてるわけでもない。
ただ、目が駅に向かう詩央に向かっている。
それだけで、ノリオたちは気に入らない。
「あいつ、要注意ジンブツだぜ!」
否定するものは誰もいなかった。
そのまま詩央を追って行ったけど、それ以外は何も起こることもなく、図書館に付いて中に入って行った。
「落ちてたか?」
「いや、赤いのは何もなかった」
「俺も見なかった」
全員に確認するが、どうやらこのルートは違うらしい。
「詩央ちゃんの鏡、ほかに特徴は?」
団地に向かって帰りながら、リツに言われてノリオは何度も見たことがある手鏡を思い出す。
「ええーと・・・赤い。なんか、花が描いてある。ちょっと剥げてるけど、そのまま使ってるし、鈴が付いてて、姉ちゃんが動くとちりちり音がする」
「鈴かぁ・・・」
「落ちてると、音はしないよなぁ」
「どっかにぶら下がってるといいのにな」
ハルジは網を振り回し、カツジは竿を引きずって歩いてる。
簡単に見つかる方法はないのか、と思ったとき、笑い声が聞こえて全員に緊張が走った。
「お前ら! こんなとこで何してんだよ!」
「ここは俺たちの陣地だぞ!」
向かいの団地に住む、西小のやつらだ。
ノリオたちはすぐに戦闘態勢に入り、そして負けないように笑った。
「ばーか! ここはコウドウだぞ! 誰が歩いたっていいんだよ!」
「西小はバカばっかりだな!」
「なんだとー!」