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忘れない日々  作者: 秋野真珠
最後の夏休み
11/14

10

自分でも驚くくらい、低い声が出た。

どうしても、男の言葉を止めたかったのだ。

詩央は頭を上げない。

でも、男が母親がいないって言ったとき、肩が揺れたのをはっきり見た。

俯いた顔が、どんな顔をしているかなんて解らないけど、笑っていないことは確かだ。

「なっめ、目上に向かってなんて口の聞き方をっ」

「だまれって言ってるだろ!」

ノリオはお腹がむかむかした。

上手く理由は言えないけど、どうしてもこの男がしゃべるのが嫌だった。

しゃべるたびに、詩央が震えている気がするからだ。

詩央を笑わせたかった。

喜ばせたかった。

それだけで、こんな時間まで必死になっていたのに、そのすべてが上手くいかず、そして今、詩央はきっと笑っていない。

ノリオは頭を下げたままの詩央の前に立ち、男を睨み上げた。

その隣にはリツが並んだ。

他のみんなも、男を睨んで並んだ。

「なんだその目は――!」

「お前なんか、怒鳴っても怖くない」

ノリオの声に、男は口をパクパクさせた。

それに、リツが問いかける。

「どうして知ってるの」

「・・・な、なんだ?」

何を言っているんだ、という男に、リツも睨みつけた。

「どうして、ノリオと詩央ちゃんにお母さんがいないって知ってるの」

同じ団地であれば、自然とその家族構成は解るものだ。

それに付け加えて、ノリオの家は少し込み入った事情もあって、ノリオの家族の話は誰も外ではしなかった。

団地に住んでいない人間が、ノリオの家の家族構成を知っていることがおかしい。

リツの言葉に周りもそれに気付いたのか、男が黙り込んだのもあって自然とその場所に沈黙が落ちる。

団地の前の、外灯からの明りだけが変わらなかった。

誰がどうでるか――みんなが探り合っていたとき、呑気な声が暗闇から聞こえた。

「あれぇ? みんな何してんの? もしかして、出迎えてくれてんのー?」

暗い場所から、外灯の明りの中に入ってきたのはTシャツのジーンズ、その上にジャケットを羽織り、さらに暗いのにサングラスをした男だった。

まだ20代位に見える、若い男だ。

「嬉しいなーあ、今日はさ、肉買ってきたからみんなで焼き肉にしよ!」

空気を読まない声にあっけにとられたものの、それが誰か解って最初に口を開いたのはノリオだ。

「とーちゃん!!」


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