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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

とある家族の紛争処理。

作者: 渡辺律
掲載日:2011/10/05

一応、警告タグをつけていますが、それほど直接的な表現はありません。

「え」

「あ」

「げっ」



 その日、田中家は試練の時を迎えたのだった。







+ + +







「あら、ごめんなさいね。ごゆっくり、と言いたいところだけど、今日はお父さんが早く帰ってくるらしいのね。だからヤってる時間はないと思うわ。盛り上がってたところ、申し訳ないけど。お詫びにならないけど、竹内くん、ぜひともうちで夕食は食べて行ってね。今日は豪華よ」

 にこにことそれだけ告げ、階下に降りていく母の後ろ姿にげっそりする。いや、激怒されたりするよりかはマシなのかもしれないけど。


 竹内というのは俺の友人で恋人でもある。恋人が同性なもんでデートもままならない。だから、というわけでもないが、今日は二人でゲームをしようと竹内をうちに招いたのだった。

 言い訳になるけど、ゲームをしているうちに、なんだかこうスキンシップをはかりたくなって、それでがっつりちゅーしてるところを運悪く母親に見つかった、というわけ。


 がっつりちゅーしてたわけだから申し開きもできない。それでも何か言わなきゃ、と俺が口を開く前に母さんは言いたいことだけ言って、さっさと台所へと行ってしまった。父さんが今日は早く帰ってくるって言ってたから、はりきって夕食の準備をするつもりだろう。

 竹内を見ると、少し茫然とした顔で、「お前のおふくろさん、すげーな」と言った。


「いや、まあすまん。さっき、母さんも言ってたけど、夕飯、うちで食べてけよ。味は保証するぜ」

「お前の弁当食ったことあるから、それは知ってるけど。だけどいいのか?」

 俺と付き合ってること、あれは完全にバレてるぞ、と竹内が言う。


「いや、いいも悪いもないっつーか。でも別れるって選択肢はないだろ?」

「ふっ。まあな」

 竹内が言うとそんなことも様になるから嫌だ。これも惚れた弱みというやつなんだろうか。



 夕食の時間まで当初の予定通り、二人でゲームをして遊んでいたのだが、問題は解決していなかったと後で思い知らされることになる。もちろん、母さんによって。








「父さん、今日は珍しく早いんだな」

「うん。ようやく仕事がひと段落してね」

 

 母さんが夕飯よ、というので竹内と二人、ダイニングに行ってみれば、さきほど帰ってきたらしい父さんと妹はすでに席についていた。

 母さんが今日は、はりきっちゃった、と言って様々な料理を運んでくる。

 じゃがいもとベーコンのグラタンとか、ごぼうの牛巻、水菜のサラダに、里芋の煮っ転がし、チーズオムレツ、茶わん蒸しなど統一性のない見事に父さんの好物ばかりが並んだ食卓だった。


 初対面である父さんに竹内を簡単に紹介する。高校のクラスメイトでいちばん仲が良いのだ、と。父さんはそうか、と俺の話を楽しそうに聞きながら、ご飯をおいしそうに食べていた。




 竹内を交えての夕食は、いたって穏やかに過ぎて行った。母さんも久しぶりに父さんと一緒に夕飯をともにできると知って、とてもうれしそうだ。

 父さんはエリートサラリーマンというやつで、いつも帰りが遅い。母さんはそんな父さんが心配でたまらないのだ。仲の良い夫婦だと思う。


 あらかたの料理を食べつくし、食後のお茶とともに栗羊羹が供された。これは父さんのお土産。そして母さんの大好物なのだ。子どもより妻優先、なのがうちの父さん。



 栗羊羹を味わっていると、母さんが嬉しそうに、そういえば、と切り出した。

「あのね、竹内くんは和くんの恋人なのよ」

 ふふふふ、と嬉しそうに笑う母さんとは対照的に父さんは驚いてどうしたらいいのかわからないという顔をしている。


「それは」

「許さない、とかまさか言わないわよねぇ」

「いや、だけど、普通じゃないだろ」

「普通じゃなきゃだめだ、とかいう決まりもないでしょ?ああ、でも仏壇の管理が困るわね。和くんには子どもができないわけだし。亜子あこちゃん、あなた子ども生んでくれる?」

「いいよ。もとからそのつもりだったし」

「ほら、問題解決ね」

「解決はしてないだろう。根本的に」

「なによ、何が問題だっていうの」


 当事者は俺と竹内のはずなのに、母さんと父さんの戦いの様子を見せ始めた。どうやら母さんは俺が竹内と付き合っていても構わないみたいだけど、父さんからすれば信じられないらしい。父さんの反応こそ普通だと思うのだが、どうなんだろう。


「だって、男だぞ?和も男。男と男が付き合うなんて自然の摂理に反してるじゃないか」

「えー。そう?だって、男のほうが女より生まれる率は高いし、昔はそれでも男のほうがぽこぽこ死んでたからちょうどよかったんだろうけど、医療が発達してる現代だと男が余るじゃん。余ったもの同士くっつくのは自然の摂理だよ」

 何食わぬ顔で亜子が反論している。あ、亜子というのは俺の妹だ。まだ中学生のくせにやたら弁が立つ。口げんかじゃ勝てないのが悲しいところ。兄としての威厳がない。


「そうそう、亜子ちゃんの言うとおりよ。それにほら、きょうちゃんだってバイセクシャルだけど、あなたお友達じゃない」

「恭史郎はまた別だろ。あいつは規格外だし、論外だからいいんだ」


 なんか恭史郎さんに対してひどいことを言っているような気がするけど、父さんの言いたいこともあながち間違っていないようにも思えるから不思議だ。

 恭史郎さんというのは、父さんと母さん共通の友人で、いろいろすごい人なんだけど、あんまり関係ないからここでは割愛。


「でも、きょうちゃん以外だって同性愛者はたくさんいたわよ?でもだから?彼らがおかしいとでも?」

「そういうわけではなくてな」


 父さんは、やれやれとでもいうように深くため息を吐いてから、お茶を飲みこんだ。そうしておもむろに竹内に向かって、「君は将来のことについてどう考えている?」と聞いた。


「雅子も亜子も反対していないようだし、食事の間、君を見ていて思ったんだが、君は悪い子じゃなさそうだ。僕がね、君たちのお付き合いについて、諸手を挙げて賛成できないのは、君たちより僕のほうが少しだけ経験が多い分、君たちの未来が心配になるんだよ。仮に僕らが君たちの付き合いを認めたとしても、それだけで問題がなくなる、というわけではないだろう?そういう本来であれば傷つかずに生きていけるのにそれを捨てるのはどうかと思うんだよ。年寄のたわごとだととってもらってもいいけどね」


 父さんは、少しさびしそうな笑顔を見せながら、そう言った。


「俺は、まだ本当に子どもだし、親に養ってもらっている身分なので、えらそうなことは何一つ言えませんし、経験という点においてはほとんどないようなものです。だけど、和則くんを好きになって、いろいろ悩んだんですけど、付き合わない、っていう選択肢はなかったんです。いや、もちろんあったんですけど、付き合わなかったら、俺は一生後悔するんだろうな、って。たぶん、これからもいろいろ間違ったりすることもあると思うんですけど、でもそのときに、和則がいてくれたら大丈夫なんだって理由もなく思うので、許していただけませんか」


 竹内はとつとつと、だけどしっかり父さんを見てそういった。


「君に問うのは卑怯だとわかっているけれど、覚悟はどうやらありそうだね」

「まあ、それに恋愛で失敗するのは、異性間恋愛でも一緒だもの。和くんも幸せそうだしいいんじゃないかしら。あ、だけど避妊はちゃんとしなさいね」

「ぶふぅっ」

 母さんのひとことに思わず、飲んでいたお茶を吹きだしてしまった。それを見た亜子に汚い、と顔を顰められる。


「つか、母さん。さっきから思ってたけどなんでそんなにフリーダムなんだよっ?」

「失礼な。フリーダムなのはあなたの頭のなかでしょう。母さんはいたって常識に則って生きてます」

 

 母さんの隣で父さんが苦笑している。母さんが常識に則って生きているなら、この世の中に常識人なんていなくなってしまうに違いない。


「母さんの常識は世間一般的には非常識なんだよっ」

「ひどいわー。お母様に向かってそんなこと言うなんて。というか、まだ世間に出たこともないオコチャマが常識を語るんじゃありません」

「くっ」


 母さんの卑怯なところは、こうして時々とても真っ当なことを言うところだ。

 正論過ぎて反論できない。


 なんで父さんは母さんと結婚したんだろう。父さんならもっとたくさんの選択肢があったはずなのに。

 俺の考えていることが分かったのか、父さんは苦笑しながら、「今にわかるよ」と言った。


「何が」

「ん?母さんの素晴らしさ、さ」

「当然よね」

 ふふん、と笑う母さんにあきれたようにこちらを見る亜子。父さんも楽しそうだし、竹内だって楽しそうだ。



 まさか竹内と付き合ってるのがバレても、こんな風に家族で笑いあえるなんて想像はしたことがなかった。もしかしたら家族に拒絶されるかもしれないと不安で、あまり具体的に想像したことすらない。

 それでもこうして笑いあえるというのはとてもいいことだし、もしかしたらこれも母さんのぶっとんだ常識のおかげかもしれないとすると、父さんが母さんを選んだのも正解だったのかもしれない。






 これは、俺が男と付き合ってるとバレた日の話。

 家族のあたたかさを知った日でもある。

 俺はずっとこの日を忘れないだろう。

アップしようか迷っていたんですが、せっかくなのでアップすることに。感想等ありましたらよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テーマが重い割にテンポやストーリーが軽やかで、読みやすかったです。
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