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第8話 新月の審判⑤

 多分一番驚いていたのはガイだろう。


 目が「あの女は何を言っているんだ」って言っていた。


 私もね、中々にクレイジーな提案をしたもんだと思いましたよ。




「あのですね、この場は閉会しても宜しいでしょうか?」




 サザムさんは口角だけ無理矢理引き上げていたが、目が笑っていない。


 え、ちょっと待って!私の話はスルーなの!?




「フンッ!」




 ここでまたもや問題発生。


 なんと蚊帳の外だった食い逃げ犯のトトが、自力で縄を解いてサザムさんの首をホールドしてしまった。




「うグッ」




 なんちゅーややこしいことを……。


 マッチ棒みたいなサザムさんの首なんて簡単にへし折られそうだ。




「おらどけっ!近づいたらこいつの首を締め上げるぞ!!早く俺を外に出せ!!!」




 ああ折るんじゃなくて締める方なのね。なんて言ってる場合じゃない。


 1対1ならこんな奴すぐ倒せるけど、人質がいる場合は慎重にいくのが刑事のセオリーだ。


 まずは相手の隙を作らねば。




 突破口を開くのは……いるじゃない。闘い慣れた強い男が。




 私はガイに目配せをして、トトの足元をチラ見した。


 手は縛られていても、足なら使えるはずだ。どうか協力してくれますように。


 意図を汲み取ったガイは、やれやれと言った感じで短く呼吸を整えると、素早くしゃがみ込みトトの足を払った。




 形勢逆転のチャンスを逃すものか。



「な……っ!?」



 虚をつかれたトトの間合いに入り、体勢を崩した相手に、わたしは会心の頭突きをかました。


 頭の硬さ(物理的な)には定評がありまして、小学生時代は大体これで男子に勝ってたなぁ。


 そのままトトは後ろに倒れ込み、白目をむいて気を失った。


 ん?サザムさんを解放できる隙が生まれれば……と思ってたんだけど、思ったより当たりどころが悪かったみたいだ。




 何はともあれ、これで一件落着ね。




 審判官の若いチャラ男は口笛を吹いて「お見事」なんてリアクションしてるけど、女王とウィルと今日一言も喋ってないレドモンドさん以外は一同呆気にとられて、サザムさんなんて怯えてない?私に。


 最後に大立ち回りを披露して、“新月の審判”は幕を閉じた。





 ◆◆◆◆◆





 その後はと言いますと、大家(?)であるクレア女王の許しを得て、ガイを王宮の庭師兼私の健康を維持するための鍛錬の相手として正式スカウトした。(『割ったティーカップの代金を立て替えて弁償するから、しっかり働いてね』と、半分脅しめいた口説き文句付きで)


 庭木を切る前に長ったらしい前髪を切ってあげたところ、本人には言わなかったけど、切れ長なアイスグレーの目が印象的な色男だということが判明。

 

 ウィルがいつもご機嫌な大型犬なら、ガイは何考えてるのかわからないけど目で追ってしまう黒猫みたい。


 これは王宮のメイドも色めき立つぞ。


 リュミエールは父親に本当のことを話して、素直に謝ったと聞いた。


 父親のハイネさんも、仕事の渡航準備でここのところ息子と禄に話もできていなかったことを反省して、新天地で心機一転やり直すことを決意したらしい。


 ガイへの訴えは取り下げてくれたけど、新しい住まいはガイを下宿させられるような広さの家ではないとのことで、見知らぬ土地に行くよりは、王宮で働く事を勧めていた。


 元々リュミエールが誘拐騒動に巻き込まれたところを、ガイが助けてその縁で使用人として雇われてたらしいけど、金銭的な事情も少なからずあったのだろう。


 ライラさんにも退職金を渡して、これからは親子二人で支えあっていくと語っていた。


 ロックフォード家の新たな旅立ちの日、私とガイとウィルは屋敷まで見送りに行った。ここから馬車で港まで行き、そこから船の長旅だ。




「リュミエール坊ちゃん、どうぞお元気で」


「ガイも。僕、大きくなったらガイみたいに、優しくて強い男になるよ」


「……もったいないお言葉です」




 おぉ、初めて笑った顔を見た。


 基本ガイって無表情だから、なんだか得した気分。




 遠ざかる馬車を見送り、三人で王宮への帰路につく。




「しかし今回も暴れましたねぇ」




 ウィルが茶化すようにあの日のことを話し始めた。




「……俺、あんな強い女性見たの生まれて初めてです……びっくりした」




 ガイまで悪気なく乗ってくる。


 実は、色んな意味で思い出したくはないんだけど、その最たる理由が王宮の庭で私の帰りを待っていた。




「よぉ、リリ!この俺を待たすなんて世界中でお前さんくらいのもんだ。そんなつまらなさそうな両脇の男より、俺といたほうが楽しいぜ」




 こなれたウインクと軽薄な笑みをこちらに投げ掛ける男の名前はジュード・ハッサム。




 “新月の審判”審判官の一人だった男で、褐色の肌と琥珀色の瞳を持つ、御三家と呼ばれるハッサム家の跡取り息子だ。




 この厄介な男に、私はどうやら気に入られてしまったらしい。






 ◆◆◆◆◆






「女神と深い仲になってもいいか、親父に聞いたら怒鳴られた」


 そりゃ怒鳴られて当然でしょうね。


 王宮の庭で寛ぐこの男、なんとまだ22歳らしい。法に触れないとしても対象外。以上。


 ウィルは騎士団の仕事、ガイは午前にできなかった庭師としての仕事が残っていたから、そっちを優先するように言ったけど、どうやってお引取り願おう……。


 この目の前の男は、父親の代わりに初めて務めた“新月の審判”で、「面白おもしれー女」に出会ってしまったらしい。


 それがほかでもない私だったということで、社会勉強中のボンボンは、王宮のあるフォアラード領の別荘に召使いを従えやって来たというのだ。


 これだから暇を持て余したボンボンは。


 警察署内でも父親のコネで一足飛びに出世する奴がいたな……。


 そういう人種は地を這いつくばって必死にもがく私みたいな人種とは見てる世界が違う。


 敷かれた安全なレールの上を、新幹線でいくつもの駅を素通りして目的地に着くようなもの。


 そう、だからこの状態は、その新幹線の男が目的地じゃない横浜でシュウマイ弁当を買って、更に言うなら私はその弁当の干しあんずみたいなもんだ。


 私も初めて食べた時、なんで干しあんずが!?お弁当に??変わってる〜って思ったものよ。




「おい、人の話聞いてるか?」




 思わずビクッとなる。


 この男、若いのに妙な色気があっていちいち距離が近いから、不可抗力でドキマギしてしまう。


 珍しい琥珀色の瞳も、まるで砂漠の蟻地獄かのようで、どこか底知れぬ怖さがあった。




 “新月の審判”のゴタゴタのあとも、ウィルが何やらサザムさんにガイの身柄の件で話をしに行ってくれていたほんの隙に、挨拶と称して近づいてきたのだ。




『――俺はジュード・ハッサムだ。アンタが噂の女神さん?報告会の帰り、親父が困惑してた理由が今日のでなんとなく理解できた』


 あの報告会の広間に、どうやら彼の父親がいたらしい。


 いいか悪いかは別にして、近衛兵を投げ飛ばしたことまではどうやら伝わってなかったみたいだ。




『お近づきのしるしに』




 流れるように慣れた手つきで手の甲にキスをされた。


 いや、それ自体もだいぶアレだったのだが、もっと私を赤面させたのは、指先が触れた瞬間“視えた”ものだ。


 詳しくはとても口に出して言えるような内容ではないが、この男相当な遊び人である。


 パっと手を振り払うと、『その年で意外とウブなんだな』なんて余計な一言をニヤリとしながら言われたのだ。




 ちっがーう!!


 あ~~~思い出しただけで腹が立つ。


 ともかく今は落ち着いて大人の女の余裕を見せつけてやれ。




「ごめんなさい。全然聞いてなかったわ」


「だーかーら、次の王宮での晩餐会、俺も出るからって言ったの」


「ふーん……晩餐会……バンサンカイ?」




 言葉は知っているけど、庶民が普通に生きてたらそうそう縁のないイベントがまたもや発生するのか。


 一難去ってまた一難。

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