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第9話 女王の晩餐会<前編>

「晩餐会は、女王が選ばれた貴族の皆様を王宮にご招待し、ご馳走を食べて優雅に世間話をする会ですね」


 シャルロットが就寝前の最後の仕事である、私の髪を梳かしながら教えてくれた。


 想像した通りの回答に安堵する一方、もし招待された場合の不安が一点……いや、二点。


「これまで部屋で食事してたから気にしなかったけど、晩餐会って言うからにはきっとコース料理とかよね。この世界のテーブルマナーもそうだけど、貴族と話すことなんて何も思いつかないよ」


「それでしたら、いっそのこと先生をお招き致しましょう。マナーもそうですし、きっと上流階級の方々との話題についてもご存知のはずです」


 ふむ……どうせやることないし、マナーは身に着けてこの先損はないわよね。


 私はシャルロットの提案を受けることにした。


 こうして、晩餐会までの約二週間、王宮と関わりの深いマナー講師から、貴族と同じ席に着いても恥ずかしくない食事の作法と、エスプリとはなんぞやを叩き込まれたのだが、はてさて……付け焼き刃がどこまで通用するのか。


 そうこうしている内に、晩餐会当日を迎えてしまった。






 ◆◆◆◆◆






 晩餐会が行われる部屋は、以前に王宮ツアーでシャルロットに案内して貰った記憶があったけれど、その時の印象とはまた全然違っていた。


 明かりの灯された体育館ほどのフロアに、高そうな調度品、立派な暖炉に肖像画、そして長めのテーブルが一つ。


 これぞTHE・晩餐会。


 テーブルには整然とシルバーの食器と白いナプキンが置かれている。


 私の席はと言うと、どこであっても気まずいのは変わりないが、女王の次席……つまりお誕生日席に一番近い位置だった。


 今日こそは大人しくしていよう。


 続々と見知った顔がテーブルに並ぶ。


 “新月の審判”で審判官をやっていたおじさんその1……もとい、ホーエンシュタイン伯爵とその奥さん、ジュード(遠くの席で良かった)、そのほか招待客は私を除いて男女計6人いた。


 招待客リストは事前に知らされていたけど、今回はだいぶ小規模だとシャルロットが言ってたな。


 特に気になったのが、誰かの娘さんだろうか?ちょっとふくよかな女の子だった。


 色白で、ホワイトベージュの髪は長めのソバージュ、見た感じ高校生くらいかな。


 こんな歳で大人の世界に付き合わなきゃいけないなんて気の毒に……。


 さっきから下ばかり向いている。


 特に自己紹介タイムなどもなく、やや雰囲気に飲まれながらも女王の短い挨拶をもって晩餐会はスタートした。


「エミリー。結婚生活は順調ですか?」


 前菜の海老と野菜のテリーヌが出されたタイミングで、女王が誰かに話し掛けた。


「本当に素敵なお式でしたわ」


 私の斜め向かいのホーエンシュタイン伯爵夫人が、リレーのように女王の言葉を繋いだ。


 へぇ、新婚さんが来ているのね。


「はい、女王陛下。お陰様でディートリッヒ様と二人、とても穏やかに過ごしておりますわ」


 私は思わずナイフを動かす手を止めた。


 女王の問い掛けに答えたのは、あのどう見ても高校生、下手したら中学生にも見える丸顔の少女だったからだ。


 しかも上目遣いで見上げた先にいたのは、どう見ても彼女より二周りは年上の、長髪の男性だった。


 親子じゃなくて夫婦!?


 恋愛は自由でも、これは明らかに政略結婚とかそういう類だろう。


 結婚させる親も親だし、結婚するほうもするほうだ。なんか男の人、顔は整ってても暗いっていうか陰気くさいし……。


 空いた口をなんとか塞いで、前菜の皿を食べ尽くした。


 さすがにいつも食べてる料理よりグレードが明らかに高い。


 些か取り乱したものの、次の料理への期待が膨らむ。


 しかし、話題の中心が女神である私に移ると、娯楽に飢えた客人方から質問が矢継ぎ早に繰り出され、折角の料理を味わう余裕がなくなってきた。


 は、早いとこ別の話題にならないかな……。


 そんなことを願いつつ、レモンの添えられた白身魚のムニエルを食べ終わって程なくした頃のことだった。


 カラン、と食器の落ちる音がした。


 その方向に目を向けると、エミリーが椅子から倒れて床に横たわっていた。


「エミリー!」


「エミリー様!?」


 ディートリッヒや王宮の使用人たちが呼び掛ける中、私は彼女の近くに駆け寄り、脈を確認するため、膝をついてその手を取った。


 幸い脈はある。


 どうやら気絶しているだけのようだ。


 ほんの一瞬、無意識のはずの彼女の指先が握り込まれ、意図せず【追体験】をしてしまった。


 ……参ったな。確証はないけど、これは余計な口出しは無用な案件かもしれない。


 私が脈を確認してからすぐ、夫であるディートリッヒが彼女を掬い上げるようにして、その身を持ち上げた。


「妻がお騒がせして大変申し訳ございません。どこか休める部屋をお借りしても宜しいでしょうか」


「で、ではこちらに!すぐに王宮医師も連れて参ります」


 慌てた様子でメイドが誘導する。


 二人がメイドに連れられて部屋を後にすると、ジュードがワイン片手に余計な一言を呟いた。


「毒でも盛られたりして」


 そんな悪ふざけが過ぎる冗談に、皆完全に食事を続ける雰囲気ではなくなってしまった。


 私の晩餐会デビューも台無しだ。


 でも……おそらく今回の出来事に事件性はない。


 推測通りであれば、残されたエミリーの席の皿にも説明がつく。


 今回ばかりはこのまま首を突っ込まず過ごそうと思った直後、とんでもないバ……勘違い男爵が声をあげた。


「まさか女王の晩餐会でかような大事件が起こるとは……。しかしすべてはこの私、マルコ・モリーニが事件の真相を解き明かしてみせますぞ!!」


 これまで静かだったその出っ歯の男は、急に水を得た魚のように、底なしの自信でいらぬ推理を披露しだしたのだ。

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