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【完結】婚約破棄された公爵令嬢は、婚約者候補を辞退したら、婚約者様が「お断り」と叫んだ  作者: ましろゆきな
第三章:英雄降臨編 

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第七話:崩壊の序曲と、聖域の陥落

 1. 【断罪】エーレンライヒ侯爵家の消滅


 ジークヴァルトの「仕事」は冷酷かつ迅速だった。


「……ゴミの分別は終わった。あとは処分するだけだ」


 自称婚約者のベアトリスク・フォン・エーレンライヒの実家であるエーレンライヒ侯爵家の調査は過去に行っており、今回はその証拠を押収して終了となった。


 親子ともども浪費が祟り、手を付けてはいけない「金」に手を付けていたのだ。立場を利用しての公金横領と隣国への機密情報漏洩、恐らく、他にも叩けば埃が出るだろうが、彼らの爵位剥奪と全没収するには十分な罪状は揃っていた。


(……常日頃、夫人の前で見せているあの壊れっぷりに失念しがちだが、この男は比類なき英雄なのだ。夫人以外のすべてに対し、これほどまでに無関心で冷酷になれる。この『化け物』の唯一の首輪が夫人であるという事実に、俺は何度胃を焼かれればいいんだろうな)


 ピリピリした空気を纏う上官を前にハンスは小さくため息を漏らした。


(あの派手なお嬢さんも喧嘩を売る相手を間違ったよな。まさか、実家そのものが公に抹殺されるとは思ってないだろうけど)


 英雄が溺愛する奥方を公然と貶めたのだ。その代償は我が身をもって支払わなくてはならない。


 同情する気にはならなかったが、自分の主が規格外の化け物であることを改めて骨身にしみるのだった。


 ◇◇◇


 しかし、エーレンライヒ侯爵は自らの過ちを受け入れることをせず、更なる一手を打とうとしていた。


「ジークヴァルト閣下は英雄だ。そのお心が、あのような没落令嬢に奪われるはずがない。きっとあの女が、魔術か何かで閣下を操っているのだ……。ならば、その『呪い』を解いて差し上げるのが、同じ高位貴族としての務めというもの」


 ――身勝手な正義感ほど、質の悪い猛毒はない。


 我が娘可愛さと自らの権力に目がくらんだ侯爵は大金で闇ギルドを雇い、とんでもない計画を実行に移そうとしていた――。


 2. 【休息】戦友たちの聖域と、一つの過ち


 侯爵家の取り潰しという「歴史の転換点」を書類一枚で片付けた深夜。執務室には、羽ペンの走る音と、重苦しい沈黙だけが流れていた。


(……目がかすむ。文字が滑る。閣下は今頃、夫人の膝で『事務作業で心が汚れちゃったよぉ、ノーラぁ』とか言って浄化されている頃だろうが、こっちはその汚れの塊を煮詰めたような報告書を作成してるんだぞ……)


 ハンスが限界を迎え、机に突っ伏そうとしたその時。ノックの音と共に、いつもの「救い」が現れた。


「お疲れ様です、ミューラー卿。……いえ、ハンス様」


 ハンスは跳ね起きた。


「……グレーテル? 今、なんて……」


「これほど過酷な戦場を共にする方に、家名でお呼びするのは他人行儀すぎますわ。……少し、お休みください。ハンス様」


 グレーテルは有無を言わさぬ手つきでハンスをソファへ誘導すると、自身の膝を叩いた。


「……グレーテル、これは流石に、男爵として……」


「いいえ。今はただの、私の大切な『戦友』として。……さあ」


 柔らかな膝の感触と、微かに香るハーブの匂い。ハンスの理性が、蓄積された疲労に負けて霧散していく。


「……すまない、グレーテ。……君が、女神に見える……」


「ふふ。では、女神の御加護がありますように。……おやすみなさい、ハンス様」


 そのまま微睡みに落ちたハンスの脳裏には、明日への警戒心など微塵も残っていなかった。


 3. 【失策】開かれた開かずの扉


 翌朝。ジークヴァルトが王宮へ呼び出され(※侯爵家取り潰しの最終確認)、不在となった公爵邸。 ハンスはグレーテルの膝枕による「奇跡の回復」を遂げていたが、その代償として判断力が著しく甘くなっていた。


「ミューラー卿。ジークはいつも私のために頑張ってくださるわ。……だから私も、あの方を支える『本物の公爵夫人』として、少しでもお役に立ちたいのです。……例えば、あの方の書斎の掃除とか!」


 拳を握って意気込むエレオノーラの眩しさに、ハンスは目を細めた。


「……ああ、夫人。閣下も喜びます。……掃除なら、この鍵束を。……地下の奥の部屋は、確か閣下が『大切な資料』を保管していると言っていましたから、そちらも整理していただければ……」


 ハンスは、寝ぼけた頭で「地下の聖域」の鍵を渡してしまった。 本来なら、ジークヴァルトが命に代えても守り、ハンスが絶対に近づけないようにしていた、あの忌まわしき(?)ストーカー部屋の鍵である。


 4. 【遭遇】10年の愛と、破られた静寂


 エレオノーラがおずおずと地下の重厚な扉を開けた時、そこは「書斎」とは程遠い、異様な空間だった。


「……え?」


 壁一面を埋め尽くす、自分自身の肖像画。 自分が捨てたはずの刺繍の失敗作、失くしたはずのハンカチ。 それらが一つ一つ、美術品のように大切に額装されている。


「これ……全部、私……?」


 そして中央、仰々しいクリスタルケースの中に収められた、古びて変色したピンクのリボン。 それを見た瞬間、エレオノーラの脳裏に10年前の路地裏の光景がフラッシュバックした。


「……あ。あの子……。ジーク、あなただったのね……!」


 衝撃と、それ以上に溢れ出す愛しさにエレオノーラが涙をこぼした、その時だった。 背後の窓が、轟音と共に砕け散った。


「――見つけたぜ、公爵の『宝物』をな!」


 賊の乱入。砕け散るクリスタル。 エレオノーラは反射的に、床に落ちたあのリボンを、泥に汚される前に強く、強く握りしめた。

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