わだかまり
10話 『 わだかまり 』
クローバー事務所に、蓮子と柳がやってきた。
多恵は「どうぞ」とソファへ招いた。
ソファの横は縁側で、庭が見える。
そこには所狭しと植物が植えられている。
一見ごちゃごちゃしているが、不思議と調和していた。
「へえ、自宅でやってるんだ。落ち着くね」
興味深げに見渡す蓮子。
「二人なんで、兼用です」
お茶を入れながら守が言う。
「いつ引っ越したの?中学は同じだったよね?」
多恵が答える前に、
守の表情がきつくなり。
「お前のせいで引っ越ししたんだぞ!」
「お前って、感じ悪い。どういうことよ?」
「お前がいじめるからだろ」
「まもるー」
多恵が”もうやめて”という顔をする。
柳が静かに言った。
「先輩、いじめはダメですよ」
「いじめなんかしないよ!どっちかって言ったら、
かばってあげた記憶しかない」
多恵も頷いている。
多恵は低体重で生まれ、成長に時間がかかった。
一年違いの守はどんどん背も伸び、いつも兄と間違えられた。
(姉ちゃんに何かあれば、家が暗くなる。
傍にいるのは俺だし、男だ!俺が守る)
それが、種と出会ってから、明るくなっていった。
俺も心配ばかりせず、自分に集中しよう。来年は俺も中学生。
友達ともサッカーで優勝だと約束した。
やっと自分に集中した頃の事件だ。
守はあの頃を思い出し、黙っていられなくなった。
「お前がのろまだ、どん亀だって言うから、
中学でいじめが酷くなったんだよ」
両親は中学校で、新しい友達ができるかと期待していたが、
あだ名は小学校でどう扱われていたか、すぐに見分けられる名札だ。
多恵は即いじめの対象になった。
当の本人はお構いなし、種が花咲くのを楽しみにしていた。
かばんにゴミが入ってることは、日常茶飯事。
上履きが片方無くなったり、机に落書きされたり。
小学校では多恵が泣いているのを見かけると、守が多恵の教室へ行き、
”誰だー俺が相手だ”なんて騒いでたから、ここまで酷くはなかった。
そんな姉を持ったからか、守は勉強もスポーツもかなり優秀で、
リレーではよく蓮子と争っていた。
そんなある日、守が下校していると、途中で多恵と一緒になった。
収穫した種から芽が出たと喜んでいた。
守はぎょっとした。
多恵の制服のスカートが切られていた。
歩くとチラチラ下着が見えている。
(姉ちゃん……)
守は自分のジャンパーを、多恵の腰に巻き、手を引いて走った。
多恵よりも両親のショックは大きかった。
多恵が保っていられたのは、これから花が咲く楽しみがあったからだ。
しかし、その芽がことごとく駄目になり、多恵も心が折れてしまった。
「そうなのか?」
全く気付いていなかった蓮子。
口が悪いのは自覚している。
事あるごとに、守が、
敵対心を向けて来るとは思っていた。
「悪い事をした。ごめん」
「もう守〜。蓮子さんは悪くないです」
多恵が慌てて手を振った。
多恵が蓮子の話を、ときにしかしていなかったことを、
今更ながら後悔した。
(この空気を変えなくちゃ)
急に大きな身振りで、
「そんなことより、沢村さん犬飼ったんですよ!
沢村さんっていうか、幸子さんが」
「どっちなんだよ」
柳がすかさず、
「先輩、そういうとこ」
舌をペロッと出した蓮子。
ふっと笑った守が、蓮子に向かって、
「幸子さんが子犬飼って、沢村さんの庭で勝手に散歩させてる」
「あの人、どうやって庭に入ってるの?」
「柵が壊れてる箇所があって、そこから」
「やばいじゃん!まあ めぐり合わせ?二人の縁を感じるねぇ」
守もすっかり気分は戻って、
「今じゃ、沢村さんも犬と遊ぶの楽しんで、なんか、明るくなりましたよ」
柳が思い出したように、
「沢村さんに一応聞き取りするんで、署に来てもらおうとしたら、
幸子さん、すごい剣幕で”どうして!逮捕とかおかしいでしょ!”って
逮捕じゃありませんて言っても、この人世間知らずだから、
私もついて行くって、パトカー乗り込んじゃって。
いい人なんですけど、大騒ぎになるタイプ」
「分かる~。買い物かごぶん投げて、沢村さんち、乗り込んでいくの見たし」
蓮子はお菓子に手を伸ばしながら、
「幸子さん、好きだなぁ、あ~いう大人」
多恵もホッした顔で、
「お二人とも仲良くされています。
ミモザも低木にできて、アレルギー心配な方も安心されると思います」
柳が想い出したように
「あのミモザの声、聞こえたんですか?それとも、妖精?」
多恵の目がキラン。
蓮子はキョトン。
つづき




