小さな種の咲く花は
*このお話はフィクションです。
トルコキキョウをめぐる小さな物語です。
静かな日々の中にある想いを描いていきます。
のんびり更新していきますので、どうぞお付き合いください。
『小さな種』第1話
多恵は、みんなより少しだけ、
物事を理解するのに時間がかかる子供でした。
友達がすぐにできることを、時間をかけてやっとできる。
急ぐことが苦手で、
「のろま」や「どん亀」とからかわれていました。
小学校の卒業式のあと、
先生は一人ひとりに小さな種をくれました。
「これはね、花の種です。
土に植えて水をあげていると、必ず花は咲きます。
どんな花が咲くかは人それぞれ。ぜひ植えてほしいな。
咲いたら見せに来てくれたら嬉しいけど……
忙しいから、それは無理か」
先生は、小さく笑いました。
教室では、話を聞いていない子もいます。
「どうして種なの~? ここは花でしょ!」
「そういうと・こ・ろ!」
突っ込んではゲラゲラ笑っている女子。
ポケットに入れたまま忘れてしまう子。
そんな中、多恵は種をぎゅっと握りしめました。
どんな花が咲くんだろう。
多恵の心はワクワクでいっぱいでした。
家に帰ると、優しく土に植えて、毎日話しかけ、
丁寧に水をやり、大切に育てました。
芽が出て、茎が伸び、やわらかな葉が広がり、
姿を変えていくたびに感動します。
ある日、ふわりと花が咲きました。
多恵は植木鉢を抱き寄せ、一目散に先生のもとへ走ります。
先生はとても喜んでくれました。
「まあ、きれいに咲いたね」
先生は多恵を学校の図書室に連れて行きました。
「この花の名前と、花言葉を調べてみようか」
先生はたくさんの本の中から、
一冊の図鑑を取り出して、
指を差しながら言いました。
「トルコキキョウ。
この花言葉は“希望・感謝・思いやり”……。
すてきね」
さらに教えてくれました。
「この花が枯れると、種ができるから、
その種をまた植えれば、新しい花が咲くよ」
多恵はホカホカな湯気が出そうな顔を、
先生に向け、真直ぐ目を見て、言いました。
「ありがとう」
──つづく──
読んでくださってありがとうございます。
次回は少し時が流れ、成長した多恵が登場します。
どうぞお楽しみに。




