異世界最強ギャル!!でも日本ムズくない?#2-2ファミレス無差別殺傷事件
今回の事件はかなり重い内容です。
音が消える、という異能の恐ろしさを感じてもらえたら嬉しいです。
19:30、某ファミレス。
揚げたてポテトの匂い、甘ったるいドリンクバーのソーダの泡。
制服姿の高校生たちが大声で笑い、机を叩き、スマホを突き出し合う。 「マジやばくね!?」「もう一回やろ!TikTokで上げよ〜!」テーブルを叩く音、椅子が軋む音、ドリンクが倒れ、スマホのシャッター音が響く。そのとき、“音が、消えた”。「あれ、声が──」「え?なんかおかしくね?」誰かがそう言いかけた。けれど声は出ない。音がしない。反応がない。振り返ったとき、彼らは見た。──制服姿の少女。手には、ステンレスのフォーク。彼女は、何の表情もなく、ただ一直線に歩いてきていた。
1人目。のけぞった男の喉元へ、フォークを一閃。倒れる音も、悲鳴もない。2人目。椅子ごと立ち上がろうとした女の胸に、ナイフが突き立つ。倒れる彼女の髪が舞う。音は、しない。3人目。机の下に潜った男の足を掴み、額にブックスタンドを叩きつける。残りの2人は泣きながら、声にならない「やめて」と口を動かす。それに対して、彼女は──顔すら動かさない。喉。腹部。眉間。5人、処理完了。
【同時刻・1階】「ねぇねぇ〜今日さぁ担任がさぁ…」「マジウケる!!」フライヤーの油が跳ねる音。ポテトをつまむ音。スピーカーから流れる明るいBGM。レジでは店員が「番号札17番でお呼びします〜!」とマイク越しに声を張る。誰も、上の地獄に気づいていない。
【2階:沈黙と血の後】真白は、血に濡れたフォークを左手で握り直す。立ち尽くす少女の足元には、赤い水たまりと5つの死体。だが音は、何一つなかった。そこで彼女は、ふと顔を上げる。視線の先。──生きている“他の客たち”。机の陰。窓際。壁際。怯えた目が、彼女を見ていた。誰かが、肩を震わせながら立ち上がる。何かを言いたげに口を動かす。その時、真白の顔に、初めて微かな変化が生まれた。──見られた。静寂を、乱された。“整った世界”が、まだ続いていた。少女は、一歩、踏み出した。フォークを持ったまま。音もなく。血の上を、踏みしめながら。
午前8時40分。異能対策に関わる全幹部職員が招集された緊急会議。役職者のみ、8名。会議室には、空調の静かな唸り声と、プロジェクターの駆動音がかすかに響いていた。部屋の正面――モニターに映し出されているのは、昨夜19時32分から19時37分までの、たった5分間の映像だった。誰も言葉を発しなかった。
制服姿の少女が立っていた。細身で、背も低い。顔立ちは穏やかで、表情はほとんど動かない。その少女が、フォークを手に取った次の瞬間から、“処理”が始まった。
喉を突く。胸を刺す。額を貫く。振り返り、向かってくる人間の急所を、すべて迷いなく的確に仕留めていく。間に動揺も疲れもなかった。一撃で沈まなければ、二撃。道具が壊れれば、別の武器へ。最短の移動距離で、最も静かに、最も早く。呼吸が乱れない。フォームもぶれない。何より、“無表情のまま”だった。
やがて5人が、音もなく崩れ落ちた。映像は、そこで終わらない。視線の先、窓際にいた少女と目が合う。真白はそのまま、まっすぐ歩き出す。そして、処理が再開される。
会議室にいる誰もが、最初は表情を動かさなかった。だが2人目、3人目、10人目、20人目と進むにつれ、目を逸らす者、額に手を当てる者、静かにため息をつく者が現れた。誰も言葉を出さない。何を言えばいいのか、誰にもわからなかった。まるでその映像自体が、**“現実ではないもの”**のように、ただただ狂っていた。
最後の1人を刺し終えたところで、映像が止まる。部屋には沈黙が落ちていた。それは、事件現場の“あの静けさ”とどこか似ていた。
「……5分で、27人です」みゆきが小さく報告する。スクリーンの下端に、小さく表示されていたタイムコード。たったの「00:05:25」その数字を見た瞬間、ひとり、またひとりと、冷たい空気を押し込むように、水を飲む者、コーヒーを一口すする者がいた。“ただの高校生”がやったとは、誰も思えなかった。けれど映像は、それが紛れもない現実であることを証明していた。
「異常だ」誰かが、静かにそう言った。その言葉に、誰も反論しなかった。みゆきが最後に言葉を絞り出す。「……この犯行は、ただの“能力者の犯罪”ではなく、“完全に制御された戦術行動”に近い。……これは、もう“兵器”です」スクリーンに映った少女の顔は、まるで、何もしていないかのように、穏やかだった。
映像が止まった。 会議室には、誰も言葉を発しなかった。 空調の低いうなりと、プロジェクターの駆動音だけが、妙に耳に残る。 制服姿の少女が、たった5分間で27人を“処理”した。 感情なく、効率的に。 ──まるで、誰かの命令に従うように。 みゆきは静かに立ち上がった。 報告も質問も、もう必要なかった。 誰もが、それぞれの思考を整理することで精一杯だった。 廊下に出た瞬間、思わず息を吐く。 冷えた空気が肺の奥を通り抜ける。 自分でも、無意識に呼吸が浅くなっていたことに気づく。 (あれは──なんだったの) 怒りでも快楽でもない。 悲しみも、憎しみもない。 ただ静かに、人間を片づけるように。 まるで“そう在ることが当然”かのように。 (人を殺すことに、ためらいがなかった。 それを「間違い」だとすら思っていない) 恐ろしかった。 能力がどうとか、そういう次元じゃない。 “無自覚な破壊”ほど危険なものはない。 でも──だからこそ。 このまま放っておくわけにはいかない。 あの子が何者であれ、向き合うのは、私たちの役目だ。 (なら、私が行くしかない) そう決めた瞬間、みゆきの足取りに迷いはなくなっていた。 そして、自分の課があるフロアのドアの前で、ふっと呼吸を整える。 みゆきは静かに扉を開けた。 「いっけー!ゴールデン・マグナム・トライデントショット〜!」 ……次の瞬間、輪ゴムがみゆき額に命中した。 「……ッ。」 ピチンという軽い音が、やけに大きく響いた。 時間が止まる。 遠藤みゆきは、ほんのわずかに眉をひそめた。 「………………」 室内の3人が、完全に固まっていた。 たくま:「……今のはその……偶発的な、反射訓練の延長でして……」 りん:「いや、ちょっと待って!今の私は撃ってないわよ!?」 シエラ:「………………あっ…みゆ…課長ごめん」 みゆきは無言で輪ゴムを摘み上げ、机の上に“そっと”置いた。 そして、口を開く。 「……映像、見てきたわ」 空気が、一変した。 ふざけていた雰囲気が凍りつく。 先ほどまで輪ゴムを持っていたシエラの手が、微かに震えた。 「高校生の犯行。27名死亡。 たった5分で、感情なく、効率的に──」 その声に、笑いはもうなかった。 みゆきの目は真っ直ぐに、冷たく現実を告げていた。 「……シエラ準備して。私と一緒に現場に出るわよ
……5分で27人。
少女の“無音”はただの能力ではなく、兵器そのもの。
この異常をどう止めるのか。
次回、第3話!!シエラたちがついに動きます。