第一話『転移したら、日本だったんだけど!?』
かつて、世界を滅ぼすと恐れられた災厄の存在──
その名は「邪龍」。
灼熱すら焼き尽くす、すべてを消し去る漆黒の炎。
世界が崩壊の危機に瀕する中、最後に立ちはだかったのは、
歴史にその名を刻む、最強の1パーティーだった。
雷が唸る空の下、黒煙と炎に包まれた大地。
空を裂くように、巨大な影が滑空する。
──それは災厄の象徴、「邪龍」。
その口元から、世界を飲み込むような黒い炎が放たれる。
クロムウェル:「来るぞ。あれはすべてを無に還す“黒炎”じゃ…!」
マリン:「シエラっ、今よ!」
立ちはだかる少女──シエラ。
金髪が風に舞い、鋭く光る紫の左目が邪龍を見据える。
彼女の身体の周囲に、淡く揺れる紫のオーラが立ち昇る。
シエラ:「── 虚無颶風《ゾラス=グァ》」
瞬間、紫の力が暴風のように広がり、
黒炎と激突──そして、跡形もなく掻き消した。
マリン:「すごい…でも、まだ終わってないよっ!」
クロムウェル:「核を狙え。援護は我に任せよ!」
マリンが放つ水の結界、クロムウェルの影の矢が邪龍の動きを封じる。
その隙を縫って、シエラは跳ぶ。
シエラ:「── 完全虚無嵐《ニヒル=グァ》」
剣にオーラが集い、空間が軋む。
彼女の紫の目がまばゆい光を放ち──
シエラ:「これで…バイバイ、邪龍っ!!」
紫の力を込めた一閃が、邪龍の核を貫いた。
咆哮とともに、黒き巨影が崩れ落ちる。
だが次の瞬間、地面に巨大な魔法陣が展開される。
マリン:「えっ!? なに、これ…っ!」
クロムウェル:「魔法陣…!?誰がこんな…っ、いや、まさか──!」
シエラ:「うそ、今ここで…!?」
三人の足元から、強烈な光が噴き上がり、
世界が白に染まっていく。
シエラ:「──えっ、これヤバくない!? ちょっと待っ──!」
その声が掻き消される前に、
三人の姿は、光の中へと消えていった。
第一話『転移したら、日本だったんだけど!?』
時刻は午後8時、東京・新宿某所。
ネオンがきらめく高層ビルの一角で、
一人の女が、氷のように冷たい視線で男を追い詰めていた。
「観念しなさい。ここまでよ」
声の主は、遠藤みゆき(29)――警視庁 超越者対策課所属の特殊捜査官。
彼女の視線の先で、犯罪者の男が舌打ちを漏らす。
「ちっ…邪魔すんじゃねぇよ、クソ女ッ!」
男の足元に突如、氷の魔力が広がり、ビルの床を凍てつかせる。
瞬時に足を凍らせて足止めを狙う、超越者特有の能力――氷結術。
しかしみゆきは、表情一つ変えず、低く呟いた。
「重力圧、下方集中」
その瞬間、みゆきの足元から空気が押し潰されるような圧が広がり、
足を縛っていた氷が**バリィッ!**と音を立てて砕け散った。
男が焦りの色を見せる間もなく、次の攻撃が飛ぶ。
彼が放ったのは、鋭利な氷の礫の嵐――!
「これで終わりだァッ!」
だが。
「甘いわね」
みゆきの手が、すっと上がる。
周囲にあった瓦礫、看板、配線パーツまでもがふわりと浮き上がる。
そして、**重力操作による逆加速で一斉に射出。
氷の礫はすべて砕かれ、男の胴にパイプがゴンッ!**と直撃する。
崩れ落ちる男。
「……確保完了。座ってなさい」
ヘッドセットに向かい、みゆきが静かに告げる。
「超越者反応Aクラス、無力化完了。後続は任せたわ」
「……えぇ。もう帰ってもいい?」
夜のビル風が彼女の髪を揺らす中、
その背中は誰よりも、静かに強かった。
街灯が照らす夜道。
住宅街の端、小さな林の横を、みゆきは早足で歩いていた。
「はやく帰って『ルミナス・ハート』観なきゃ…!今日こそレイラちゃんの新フォーム来るって言ってたのに…!」
そんなオタク全開の呟きの中、視界にあるものが飛び込んでくる。
──白と金のドレス。
──腰まで伸びた金髪のポニーテール。
──そして、月明かりに照らされた白いブーツの少女。
「……可愛い……っ!?」
みゆきの目が潤む。まるで画面の中から出てきたリアル魔法少女。
けれど次の瞬間、その少女がきょろきょろと周囲を見渡し、不安そうに呟いた。
「マリンもクロムもいないし……ここ、どこなの?」
完全にテンパっている。
みゆきは困惑しつつも、つい声をかけた。
「ねぇ、こんなとこでどうしたの?…てか、めっちゃ可愛いじゃん君。夜遅いし、送ってこうか?」
シエラは一瞬、警戒の色を浮かべつつも、
「えっと……あたし、どこにいるのか全然わかんなくて……」と、少し弱々しく答えた。
その様子に、みゆきはそっと息をついて微笑む。
「そっか。じゃあさ、私まだちょっと仕事残ってるから、よかったら署で待ってる?安心だし、帰り送るよ」
ぽかんとしたシエラは一瞬迷ったあと──
「え、うん…じゃあ、お願いしよっかな?」
初めての現代日本の夜道で、少女と警官が出会った。
世界の運命を握る二人の物語は、ここから始まる──。
警視庁・超越者対策課の深夜。
事務作業を終えかけたみゆきがふと顔を上げると、ソファでくつろぐ少女の横顔が視界に入る。
──金髪ポニーテールに、月明かりが差し込む白と金のドレス。
無防備にクッションを抱えたまま、ちょっと眠そうにしているその姿は、まさに異世界のアイドル。
(……やっぱり、可愛い……いや、可愛すぎる……)
気づけばみゆきの頬は熱くなり、鼻の奥がツンとする。
(あかん……自我が……持たん……!)
その瞬間。
シエラ:「……ねぇ、顔、赤くない?熱とかあるの?」
ふわっと、シエラが近づいてくる。
10cmの距離。顔が近い。瞳が綺麗。破壊力がすごい。
みゆき:「ま、待って……近っ……!」
ガチャッ!!
青木:「任務終わりました。報告書は後で出します──って、……課長?」
扉の向こうにいた青木拓磨は、ソファの上の光景に目を疑った。
──金髪ポニーテールの美少女が、課長に顔をぐいっと寄せている。
青木:「……またナンパっすか?
なにやってんすか、課長。
一般の人が署内にいちゃダメでしょ」
みゆき:「はぁ?違うわよ。
こんな可愛い子が一人で不安そうにしてたら、保護するのが常識でしょ?」
青木:「いや、でも距離近すぎません!?てか、“まだ”って言いかけませんでした!?」
みゆき:「べっ、別に何もしてないでしょ!?……まだ」
青木:「“まだ”って言ったーーー!!」
シエラ:「……???」
ぽかんとした表情で二人を見つめるシエラ。
首を傾けながら、目だけきょろきょろと動かしている。
シエラ:「なんか……喧嘩してる?ていうか、“課長”って……お姉さん、えらい人なの?」
みゆき:「まぁ……一応ね」
青木:「“一応”どころか、うちの部門のトップです。
なのに……ほんと頼むから自重してくださいよ、課長……」
みゆき:「だーかーらっ!
これは仕事よ、仕事っ!」
青木:「いや絶対、可愛いから保護しただけでしょ……」
みゆき:「……うるさいわね(鼻血ぬぐいながら)」
青木:「鼻血出てるじゃないですか!!」
シエラ:「え!?ほんとに熱あるの!?」
みゆき:「ない!!!」
そんな脱力した空気が流れたその時だった。
──ピピッ!ピピッ!ピピッ!
警視庁専用通信端末の警告音が、突如として室内に鳴り響く。
みゆきのデスク端末と、青木のイヤーピースに緊急通報が同時に届いた。
『至急応援要請:港区・第7ビルにて武装集団による立てこもり事件発生。
犯人グループは10名。人質は20名。
内、リーダー格の男が“超越者”と確認。
現場警官では対応困難。超越者対策課に出動を要請。』
空気が一変する。
みゆきと青木の顔から、緩んでいた表情が一瞬で消えた。
みゆき:「……場所は?」
青木:「第7ビル、5階。人質20名……リーダーが超越者。現場、ほぼ壊滅寸前です」
みゆきは無言で立ち上がり、背後のロッカーを開けて装備を取り出す。
その動きには一切の無駄がなかった。
みゆき:「……行くわよ。青木、車を回して。10分で出る」
青木:「了解」
シエラ:「えっ?なになに!?急に雰囲気変わったんだけど!?」
みゆきはちらりとシエラを見て、口元に微笑を浮かべる。
みゆき:「お姫様はお留守番。ここ、安全だから。ちゃんと待ってて」
シエラ:「え〜!?気になる〜〜っ!」
だがもう、みゆきの背には任務の重さだけが乗っていた
パトランプの赤い光が、ビルの谷間を駆け抜けていく。
警視庁・超越者対策課の特殊車両は、目的地へ急行していた。
みゆき:「犯人は“空気を圧縮・射出する能力者”……人質20名、現場の警官は壊滅寸前。……時間との勝負ね」
青木:「了解です。課長、俺が先行します。制圧優先で動きますが、指示があれば即座に──」
青木がふとバックミラーを見る。
青木:「………………あれ?」
ごそっ…という微かな物音。
後部座席で、何かが動いた気がした。
もう一度、バックミラーを確認する。
──金髪のポニーテール。
──白と金のドレス。
──“どこからどう見ても魔法少女”。
青木:「……課長?」
みゆき:「なに」
青木:「あのぉ……その、後ろに……あの子乗ってるんですけど。
……大丈夫っすか?」
みゆき:「……は?」
青木:「いや、なんかこう……自然に座ってて……違和感なさすぎて一瞬、うちの部下かと思ってました……」
みゆき:「………………」
ゆっくりと、ぎぎぎ…と動くように後ろを振り返るみゆき。
──そこには、満面の笑みで手を振るシエラの姿があった。
シエラ:「あ、ばれちゃった?てへっ☆ついてきちゃった〜!」
みゆき:「……はぁああああああああああああ!?!?」
ハンドルを握る手が震える。
みゆきは勢いよく振り返り、シエラの肩をつかんで叫ぶ。
みゆき:「何考えてんのよ!?ここ、遊びじゃないの!あんた子どもでしょ!?
それに、今から行く場所は本当に、人が死ぬ現場なのよ!?本気で理解してるの!?」
シエラ:「えっ、でもだって、人が傷つけられてるんでしょ?
それって……見てるだけなんて、あたし……イヤだよ」
その目は、キラキラしてるのに、どこかまっすぐだった。
みゆきは言葉を詰まらせる。
でも、怒りは止まらない。
みゆき:「……はぁ、ダメ。降ろす。絶対降ろす。後部座席で待って──」
青木:「課長、もうすぐ現場です。止まれません」
みゆき:「ッ……!」
みゆきはぎりぎりまで奥歯を噛み締めて、目を閉じる。
そして──
みゆき:「……いい。分かったわよ。
でも一つだけ条件。見学だけ。絶対、現場には出ない。戦闘には関わらない。」
シエラ:「え〜〜!でもあたし──」
みゆき:「ダメ!!これ以上は絶対ダメ!!
これは命令よ、“お姉さん”としての、ね」
シエラ:「……うぅ〜……わかったぁ〜……見てるだけ、ね」
──こうして、金髪のイレギュラーは条件付きで現場へ同行することになった。
何も知らないみゆきは、
まさかこの時、**世界最強の“ただの見学者”**を連れているとは思っていなかった──
警視庁・超越者対策課の特殊車両が、赤色灯を回しながら第7ビル前に到着する。
建物の5階からは割れたガラス、煙、そして怒号が漏れ聞こえていた。
「これが俺の力だァア!!」
「俺を見下したやつら、全員殺してやる!!」
「俺は最強なんだよぉおおおおおッ!!」
狂気を帯びた男の声が、夜の空に響く。
警官の間にも緊張が走る。負傷者は増え、すでに死者も出ていた。
みゆきは車を降りるとすぐに指揮を取り、傷ついた隊員のもとへ駆け寄った。
みゆき:「重傷者を後方へ!意識ある者は話しかけ続けて!
ここからは私たち超越者対策課が対応する!」
青木:「課長、現場……壊滅寸前です。
警官5人が“目に見えない弾丸”で撃たれました。銃じゃない、能力です……!」
みゆき:「……全員伏せて!」
だが、その警告より早く、
後方から別の声が飛んだ。
「伏せて!!」
──叫んだのは、金髪の少女・シエラ。
彼女の目だけが、空気の歪みを感じ取っていた。
直後、
バババッ!!
空気が“弾”となって警官たちを襲い、5人が次々と倒れた。
青木:「……あいつ、見えてた……?」
みゆき:「彼女は……ただの子じゃない……?」
周囲を見渡すみゆきの目に、何かが足りないことに気づく。
みゆき:「……あれ?彼女は?シエラは!?」
青木:「さっき、“風が動いた”って呟いた後に──
……一目散にビルに向かって走っていきました」
みゆき:「……………………」
「はぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!?!?」
みゆきの絶叫が、現場中に響き渡る。
だが、もう止めるには遅かった。
次の瞬間──
シエラは第7ビルの正面入り口に、堂々と立っていた。
みゆき:「おい!!何やってんのよ!!戻れって──!」
シエラ:「行ってきまーす♪」
ふわりと笑って、
──跳んだ。
ズンッ!
地面がひび割れるほどの跳躍。
空を駆けるように、金髪の少女が一気に5階へ。
ガガァァァンッ!!!
強化ガラスを白いブーツで蹴り破り、
ビル内部へとその姿を消す。
みゆき:「──」
みゆき:「あの子……なんなの!?!?」
警視庁・超越者対策課の特殊車両が、赤色灯を回しながら第7ビル前に到着する。
建物の5階からは割れたガラス、煙、そして怒号が漏れ聞こえていた。
「これが俺の力だァア!!」
「俺を見下したやつら、全員殺してやる!!」
「俺は最強なんだよぉおおおおおッ!!」
狂気を帯びた男の声が、夜の空に響く。
警官の間にも緊張が走る。負傷者は増え、すでに死者も出ていた。
みゆきは車を降りるとすぐに指揮を取り、傷ついた隊員のもとへ駆け寄った。
みゆき:「重傷者を後方へ!意識ある者は話しかけ続けて!
ここからは私たち超越者対策課が対応する!」
青木:「課長、現場……壊滅寸前です。
警官5人が“目に見えない弾丸”で撃たれました。銃じゃない、能力です……!」
みゆき:「……全員伏せて!」
だが、その警告より早く、
後方から別の声が飛んだ。
「伏せて!!」
──叫んだのは、金髪の少女・シエラ。
彼女の目だけが、空気の歪みを感じ取っていた。
直後、
バババッ!!
空気が“弾”となって警官たちを襲い、5人が次々と倒れた。
青木:「……あいつ、見えてた……?」
みゆき:「彼女は……ただの子じゃない……?」
周囲を見渡すみゆきの目に、何かが足りないことに気づく。
みゆき:「……あれ?彼女は?シエラは!?」
青木:「さっき、“風が動いた”って呟いた後に──
……一目散にビルに向かって走っていきました」
みゆき:「……………………」
「はぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!?!?」
みゆきの絶叫が、現場中に響き渡る。
だが、もう止めるには遅かった。
次の瞬間──
シエラは第7ビルの正面入り口に、堂々と立っていた。
みゆき:「おい!!何やってんのよ!!戻れって──!」
シエラ:「行ってきまーす♪」
ふわりと笑って、
──跳んだ。
ズンッ!
地面がひび割れるほどの跳躍。
空を駆けるように、金髪の少女が一気に5階へ。
ガガァァァンッ!!!
強化ガラスを白いブーツで蹴り破り、
ビル内部へとその姿を消す。
みゆき:「──」
みゆき:「あの子……なんなの!?!?」
その瞬間強化ガラスがガシャンと砕けた
驚いた五十嵐が音の鳴った方を見ると
白いブーツの少女が、静かに床に着地した。
金髪ポニーテールがふわりと揺れる。
その登場に、室内の男たちが凍りついた。
「誰だあいつ……!?」
「なんでここに……!?」
部下たちが騒ぎ出す中、
中央にいたリーダー格の男──五十嵐真也が、鋭く怒鳴る。
五十嵐:「おい、お前らやれ!!ぶっ潰せ!!」
部下たちは拳銃を構え、一斉に発砲。
パンッ! パンッ! パンパンパンッ!!
数発の銃弾がシエラに向かって放たれる──
……しかし。
「……よいしょっ」
シエラはまるで踊るように、弾丸をすべて避けてみせた。
最小限の動き。軽い身のこなし。
それでいて、その軌道は完璧だった。
男たちは目を見開く。
「避けた……!?」
「全部……見切られてる……?」
五十嵐:「……は……?なんだ、あのガキ……」
動揺が広がる中、痺れを切らした1人の部下が怒声を上げる。
「ふざけるなぁぁっ!!」
武器を構え、怒りのままに飛びかかろうとしたその瞬間──
「ねぇ、それ──なにかの武器?」
男の背後から、静かな声。
「ッ……!?」
振り返った時にはもう遅かった。
そこには、すでにシエラの姿があった。
白く細い指が、男の首筋をスッと撫でる。
「早いね……でも、それ」
「人に当たったら──普通に、死ぬよね?」
その瞬間、
男の身体がふっと力を失い、パタリと崩れ落ちた。
室内に、恐怖と静寂が満ちる。
シエラはただ、優しく微笑みながら言った。
「さぁて……次、誰が来る?」
沈黙。
部下たちの手が震える。
それでも1人が叫び声をあげ、引き金を引いた。
「クソがあああぁぁ!!」
パンッ! パンパンパンッ! パン!
数発の弾丸が、怒りと恐怖のままにシエラへ放たれる。
──だが、その全てが“止まった”。
シエラは一歩も動かない。
ただ、右手をふわりと前に掲げただけ。
次の瞬間――
キィン……!
空中で、弾丸たちが“止まって”いた。
まるでガラスにぶつかったかのように、寸前で停止し、
ひとつ、ふたつと床に転がっていく。
兵士たち:「なっ……!? なんで……」
次の瞬間、シエラが足を一歩、コツンと前へ出した。
それだけで――
空気が“震え”た。
静かに、淡く、紫のオーラが彼女の体を包み始める。
人質たちは言葉を失い、
部下たちは本能でわかっていた。
「これは、“戦い”じゃない。──“格”が違う」
シエラ:「だから……言ったでしょ?」
「これは、人に向けたら──“死ぬ”んだって」
ドォンッ!!!
空間が“爆ぜた”。
紫の魔力が弾けるように膨れ上がり、
そこから放たれた見えない衝撃が、部下たちを一斉に吹き飛ばした。
ガァン!! ドシャッ!! バンッ!!!
壁に、天井に、床に。
まるで重力ごとひっくり返されたように、
全員が逆らうこともできず、意識を失って沈黙する。
シエラの髪がふわりと舞う。
その瞳は、淡く光りながらまっすぐリーダーを見据えていた。
だが、“人質”だけは――微動だにしていなかった。
まるで神業のように、力の波は**“人を守るように”**避けていた。
室内に残された者たちは、ただ黙って震えていた。
シエラ:「……安心して。
もう、これ以上……誰にも触らせないから」
その声は、穏やかだった。
だけど――誰も逆らおうとすら、思わなかった。
五十嵐:「…………」
狂気に満ちたはずの男が、今、
“はじめての恐怖”を覚えていた。
立ち上がれなくなった部下たち、沈黙する人質。
そして、部屋の中心にただひとり立つシエラ。
その空間は、彼女の“支配”のもとにあった。
だが――
「……は?なんなんだよ、こいつ……」
唇を噛みしめ、五十嵐真也が呟く。
「化け物かよ……いや、違う……俺が最強なんだ……!
誰も……誰にも、俺には逆らえない……ッ!」
額に浮いた汗を袖で拭いながら、
五十嵐は震える手で“空気の狙撃”の構えを取る。
「――調子に乗るなよ、小娘がぁ!!」
バシュゥッ!!
高圧の空気が一点から放たれる。
視認できないほどの速度で、シエラの額へ直撃――したはずだった。
だが、
命中した瞬間、シエラの体が“波のように”揺れて――すり抜けた。
五十嵐:「……えっ……?」
目の前にいたはずのシエラが、
そこにはもう“いなかった”。
その直後――
「凄い能力だねぇ……」
背後から、囁くような声。
五十嵐:「ヒィッ!!」
恐怖に突き動かされ、
思わず後ろへ飛びのくように回避。
背中が机にぶつかり、倒れ込む。
彼の背後には、
まるで最初からそこに立っていたかのような静けさで、シエラが立っていた。
その瞳に怒気も殺意もなく、
ただ――“もったいなさ”が滲んでいた。
シエラ:「ねぇ……
こんなすごい能力、誰でも持ってるわけじゃないよ。
だったらさ、人の役に立つやり方だって、いくらでもあったのに」
淡々と、静かに、
でも心の奥まで突き刺すような優しさで言葉が降る。
シエラ:「こんな風に力を使うなんて……
ほんと、勿体ないよねぇ」
五十嵐の顔が青ざめる。
力を見せつけられたわけじゃない。
ただ言葉を、“存在そのもの”を見せつけられただけで、
――恐怖が、止まらない。
五十嵐:「ふざけるなァァァ!!なんなんだお前はッ!!」
錯乱したように叫びながら、
五十嵐は腕を振るい、
“空気の弾丸”を次々と放つ。
バシュッ! バシュバシュバシュ!!
目には見えないが、確かに殺意を帯びたそれらが、
シエラへと一直線に飛んでくる。
だが――
全て、“消えた”。
シエラは微動だにせず、
目すら逸らさないまま、ただ一歩ずつ、前へ。
五十嵐:「な……!? なんで!?当たらない!?おい、なんでえええ!!?」
彼の弾丸はすべて、
シエラの数センチ手前で“無音のまま霧のように散っていた”。
シエラは口を開かない。
けれどその瞳は、もう笑っていなかった。
冷たい視線。
敵でも、悪でもない。
ただ、“迷った人”を見つめる目。
そして――彼女の手が、静かに上がる。
五十嵐:「やめろ……来るな……ッ!」
シエラ:「……ごめんね」
最後にそう囁くように言いながら、
彼女の指先が、そっと五十嵐の額に触れた。
コツン。
その一瞬、五十嵐の身体がピクリと震える。
そして――
ドサッ。
力が抜けたように崩れ落ち、
そのまま静かに、意識を手放した。
――足音が響く。
階段を踏みしめるような、その響きに、辺りの空気がピリッと緊張する。
みゆきが駆け込んできた時、そこには異様な静寂が広がっていた。
「……え?」
空間全体が、ほんのりと紫色に染まっていた。
何かの魔力が――いいや、**“圧”**と呼ぶべきものが、まだそこに“残って”いる。
焦げ跡ひとつない。
けれど、建物の奥の壁は一部崩れ、中心には一人の男が、力なく倒れていた。
そして――その前に、少女が立っていた。
金色の髪をひとつにまとめたその背中は、まるで戦いなどなかったかのように静かで、けれど、紫と金の異なる色を湛える瞳だけが、すべてを物語っていた。
「……!」
駆け寄ろうとしたみゆきの前に、数人の保護された人質たちが姿を見せる。
驚くほど、無傷だった。
「だ、大丈夫? ケガは!?」
「……あの、おねーさんが助けてくれたの。私たちのこと、絶対に傷つけさせないって」
「最後、触れただけで……あの人、倒れたんです……!」
「なんか……優しい、けど、ちょっと……怖かった……」
みゆきの喉が、ゴクリと鳴る。
シエラが、ゆっくりと振り返った。
その顔は、どこか遠くを見ているような、冷静な静寂に包まれていて――
けれどすぐに、ふわりと“いつもの”笑顔が咲いた。
みゆき:「もしよかったら――うちで働かない?
警視庁・超越者対策課。あなたみたいな人、初めて見たから」
その声に、シエラはほんの一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。
けれど、すぐにいつものような無邪気な笑みを浮かべて、肩をくすっとすくめる。
シエラ:「ん〜……楽しそうなら、やってもいいかも♪」
「人が笑ってるの、好きだしねっ」
みゆきは目を瞬かせ、そして笑った。
みゆき:「……決まり、ね」
2人の笑いが、静かに交差する。
――こうして、
世界を変える“最強のギャル”は、正式に日本の“対策チーム”に迎え入れられることになる。
ただし、この出会いが
“災厄の序章”にすぎなかったことを、
このときの彼女たちはまだ知らない。
「少し文章が苦手なので、下書きはAIに助けてもらっています。でもそのままではしっくりこない部分もあるので、最終的には自分で言葉を選び直しています。シエラの物語は、AIではなく私自身の想いで動いています。」