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かくれんぼ

「ハァハァ……私達のお守りってこういう事から守ってくれるんじゃないの?」


 しばらく走り続けているせいで息切れしながら聞いてみた。この公園無駄に広いなぁ。


「お守りも万能じゃないわ。付けていても超常現象に巻き込まれる事があるの。それにパトロール中は効果を出さないように専用の箱に保管するのよ。さっき渡してもらったでしょ。とはいえ数値を見るに少し離れた位置に扉が開いたようだし、おそらくあの軽自動車の人たちが引き寄せちゃったんじゃないかしら」

「今一瞬見えた! 池の反対側の林に霊視が反応してるで!」

「分かった。あそこに橋があるから渡っちゃお!」




「あの位置は……鬼ごっこの物置かしら」

「知ってるの?」

「えぇ、ここに来る前に公園周辺にまつわる話は簡単に調べてもらったから。超常課にはそういうのをまとめている部署もあるのよ」


 高橋さんが走りながら内容を簡単に説明してくれた。


「家族でバーベキューに来ていた体験者は子供の頃にここで見知らぬ少年と出会ったらしいわ。そしてその少年から隠れんぼに誘われるの。少年に鬼と言われた体験者が数え終わって探し始めると物置から声が聞こえる。それで捕まえようと入ったら、周りの景色が急にどこかのお屋敷みたいになって外には出られなかったそうよ」


「それってやばくね!?」

「安心して。まだ話は続いてるわよ。その体験者は無事少年を捕まえると気を失って、気がついた時には物置で寝ていたそうよ。見つけられなかったらどうなっていただろうか……で話は締めくくられているわ」


「その部署の人、なんでそんな怖い締めくくり方にするの〜!?」

「私も優香ちゃんと同意見! 後で文句言わなあかんわ!」


 なんとか物置が見えてきた頃には若者3人が入っていく所だった。中からは話し声なんて聞こえない。若者達は噂が嘘だと思ってるみたいだね。

 止めようとする間もなく扉が閉まる。

 高橋さんが叫んだ。


「っ……間に合わなかった!!」


 あれ……なんでだろ? 足が進まない。正直今すぐに後ろに向かって走って帰りたい。今すぐに追いかけるべきなのに。

 趣味の関係でこういう所は何度も来た事がある。その時は何も思わなかったのに。


 この仕事をすると決めた時だって、パトロールに来る事に賛成した時だって特に何も思わなかった。少し怖かったけど……2人がいるし私も出来るって。


 きっと私、舐めてたんだ。真面目に考えてなかった。もちろんその時は考えていたつもりだけど、それならなんで足が動かないんだろう。


 今この瞬間にも、中に入った人は怖い目に遭ってるかもしれない。死にそうな目に遭ってるかも。

 私と違って、あの人達は何も知らない。この腕みたいに身を守る力もない。助けられるのは私達だけ。


 で、でも、そもそも私達の目的はパトロール。助けを呼ぶのも自由って言ってたし。救助が間に合うかは分からないけど、そもそも悪いのは遊び半分でこんな所に来てるあの人達じゃん。なんで私が命をかけて行かなきゃ……。


 いや、そんな考えは流石に間違っているのは分かっている。


 今この瞬間にも、中に入った人は怖い目に遭ってるかもしれない。死にそうな目に遭ってるかも。今から助けを呼んでも間に合うか分からない。

 私と違って、あの人達は何も知らないんだよ。この腕みたいに身を守る力もないし。助けられるのは私達だけ。



 そんな事は……分かっているのに。なんで。頭では動けって命令しているのに!



 バタァァン。


 扉が開く音でハッと顔をあげると、明里ちゃんがなんの迷いもなく中に入っていく所だった。高橋さんも当然の事のようにそれに続く。


 2人は私に一緒に続くように強制しないで入っていった。

 その時、明里ちゃんは少し寂しそうな顔で一瞬こっちを振り向いた。すぐに顔を前に向けちゃったけど。


 それを見たら、気がつけば私の足は動いていた。

 背後で扉が閉まる音がする。月や街灯の灯りが入ってこなくなって、当たり前だけど物置の中は真っ暗になる。


 でもそれも数秒だった。急に天井に灯りが付いて、周りはお屋敷になっていた。


「ほんとに開かないわね」


 高橋さんが背後のドアを引っ張っても鍵がかかったみたいに動かない。試しに私の怪力でドアを壊してみようとしたけどダメだった。


「壊すのもだめみたい。それにしても、このお屋敷なんか変じゃない?」

「確かに。あそこなんか階段が壁に向かって伸びてるし! 意味ないやん!」

「階段、廊下、家具。それらの意味を何も理解しないまま形だけ真似たって感じのお屋敷ね」


 周りを観察していると、廊下のひとつの向こう側から騒ぎ声が聞こえてきた。多分さっきの人達かな。


「追いかけるわよ! まずはあの人達の安全を確保しないと!」

「うん! 分かったよ!」


 走っている途中で明里ちゃんが小声で話しかけてきた。


「ねぇ、入る前怖かったやろ?」

「……うん。ごめんね。みんなが入っていくのに、私が助けなきゃいけないって分かってるのに……動けなかった」


「分かるで。私だって毎回怖いもん。てか、そういう意味で質問したんじゃないんよ。こういう状況で一緒に来てくれる人って、同じ仕事をしている人でもそう多くないんやで」

「そう、なんだ」


「うん。私がもみじと2人でしか活動してこられなかったのも、それが理由の一つやし。だから……さっきは嬉しかったし……ありがとう。それが言いたかっただけや!」

「強いなぁ、明里ちゃんは。私もいつか明里ちゃんみたいになりたい」


「え……え? きゅ、急に何を言い出すねん。言っとくけど、さっきの話はもみじには秘密やからなー? さ、さぁ手遅れになる前にダッシュダッシュ!」


 そう言うと明里ちゃんは慌てて会話を終わらせて前の方に走っていっちゃった。

 私からのお礼、言いそびれちゃったな。


 私はビビりな人間。こんな異形のモノ達のいる所に入るなんて怖くて怖くて仕方ない。

 でも、友達を裏切るのはもっと怖い。だから次に同じ事があったら、その時はもう足は固まらないと思う。


「ねぇもみじーなんかここあつない?」

「は? あんた風邪? むしろ寒くて仕方がないんだけど大丈夫?」


 こんな寒いのに、また何かの冗談?

 相変わらず変な事ばっかり言うけど、さっきの明里ちゃんはかっこよかったなぁ。私が同じ立場だったら、ああやって他の子を気遣ってあげられたか分かんない。


 ……ふふっまぁこんな恥ずかしい事は本人に言えないけど。



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